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2025-11-28

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第33回「力士とは」その3

平成30年秋場所9日目、魁聖は玉鷲にひっかかれながらも叩き込んだ

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物思う秋が更けていきます。
それにしても、人間っておもしろいですね。
いろんな面を持ち、見方によって全然違う人間に思えてきます。
力士もそうです。
一瞬の勝負に人生を賭ける力士たちは、実に崇高な精神の持ち主に思えます。
だって、迷ったり、雑念を抱いていては勝負に集中できず、勝てませんもの。
しかし、実際はどうでしょう。力士たちも、やはり同じ人間。
笑ったり、ぼやいたり、ため息をついたり、実にさまざまな顔を持っています。
力士とは何ぞや。
さあ、晩秋、いや、もう初冬ですか。とにかく夜長です。
力士たちの隠れた顔を捜してみましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

爪は切ってください
 
やられたらやり返すのは当然のことで、やられたことは何があっても忘れない。この執念深さが力士の明日のステップに繋がる。力士って怖いですよ。
 
平成30(2018)年秋場所9日目、西前頭筆頭の魁聖(現友綱親方)は、東小結の玉鷲に立ち合いに当たり勝ちし、モロハズで押し込んだあと、叩くと、あっけなく転がった。快勝だった。
 
これで4勝目(5敗)。喜んでいいはずだったが、どういうわけか、魁聖は浮かぬ顔だった。理由は胸についた大きなひっかき傷だ。叩き込まれたとき、玉鷲がひっかいたのだ。
 
風呂から上がった魁聖はそのひっかき傷を指で差し示しながらこう訴えた。

「みなさん、爪を切りましょう。これが(今日の)玉鷲、これが(昨日の)貴景勝(現湊川親方)。背中には(一昨日に)勢(現春日山親方)につけられたものもある。大事な肉が取られちゃうよ。もう1キロ痩せた」
 
1キロ痩せた、というのはいささかオーバーだが、爪を切るのは大事なマナーだし、誰に、いつ、どこを引っかかれたか、ちゃんと覚えているのもすごい。翌場所、魁聖はこのお返しはちゃんとしたか、調べてみると、勢とは当たらず、玉鷲と貴景勝には負けている。やられっ放し、というのも辛いものがありますよね。

月刊『相撲』令和3年12月号掲載

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