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2025-12-11

【陸上】西山雄介と細谷恭平の心理戦。届かなかった日本代表からの再出発

写真/上野弘明

福岡国際マラソン2025が12月7日、福岡市内の平和台陸上競技場を発着点とする福岡国際マラソンコースで開催され、エチオピアのバイエリン・イエグゾーが2時間07分51秒で初優勝した。

 今大会は、来年秋に開催される愛知・名古屋2026アジア大会の男子日本代表選考競技会のひとつ。さらに2028年ロサンゼルス五輪の選考レースMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)出場権を懸けたレースとなり、日本人トップの西山雄介(トヨタ自動車)、同2位の細谷恭平(黒崎播磨)、同3位の大石巧(スズキ)が27年開催のMGC出場権を獲得した。

新しい可能性を感じた

 東京で開催された今年の世界選手権で、共に日の丸を背負えなかった西山と細谷の「優勝を狙った、細かなけん制や仕掛け合い」(細谷)がレースを彩った。

 一度は先頭集団から遅れた2人は、それぞれのタイミングで30kmまでに先頭集団へ追いついた。32km付近で最初に仕掛けたのは、「ここでレースを動かしたら楽しいと思った」という西山だった。しかし細谷は「心理的には仕掛けて(後ろに)つかれる方がキツイと思った」と、冷静に追った。

 イエグゾー、西山、細谷の3人が優勝争いを繰り広げるなか、39kmで再び西山が動いた。

「パリ(五輪)、東京(世界選手権)と代表にあと一歩届かず、引退も考えた。ここ数年は代表を狙う試合が多く、陸上を楽しめていなかったので、今年はMGCとか考えず、陸上を楽しむ1年にしたいと思った」(西山)

 陸上を楽しむ“本能”で動いた39kmから、西山とイエグゾーの一騎打ちになった。しかし40kmあたりから、イエグゾーが徐々にリードを広げる。西山は平和台陸上競技場でも力を振り絞ってスパートをかけたが、前回大会に続く2位(2時間07分56秒)でフィニッシュした。

「タイムよりも昨年のリベンジとして、優勝だけを目標にしていた。結果的に勝ち切れなかったのは反省点だが、32kmと39kmでレースを動かすことができた部分は、新しい可能性を感じられた」と西山。ランナーとしての“本能”を取り戻し、新しい一歩を踏み出したレースになった。

 一方、「25kmから一人で(先頭集団を)追ったことで、結果的に脚を使ってしまった」と話した細谷は、2時間08分09秒で3位フィニッシュ。

 今年2月の大阪マラソンでは日本歴代7位となる2時間05分58秒の自己ベストを出しながら、東京世界選手権は補欠だった。「補欠というプレッシャーもあり、ここまで長かった」と細谷。そのなかで、「最低限MGCを獲れたことは合格点」と今大会を振り返った。

「今後MGCファストパス(2時間03分59秒)を狙うか、アジア大会を狙うか。MGCを獲ったことで、選択肢の幅が広がったことが良かった」(細谷)

 あと一歩のところで日本代表を逃した2人にとって、再出発の舞台となった福岡。優勝という目標を達成できなかった悔しさの奥に、次なる目標への一歩を踏み出せた充実感も垣間見えた。

文/新甫條利子 写真/上野弘明、JMPA

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