アメリカンフットボールの日本選手権「ライスボウル」を目指し、国内最高峰・Xリーグ「X1 スーパー」の上位チームが争うライスボウルトーナメント(RBT)は、いよいよ大詰めだ。4強に進出した、Xリーグ「BIG 3」のパナソニックインパルス(秋季リーグ1位)、オービックシーガルズ(同2位)、富士通フロンティアーズ(同5位)の現在位置はどこなのか。
今回は、王者パナソニックの今を探りたい。
「どこにも穴がない」圧倒的な強さパナソニックの強さは、今のX1スーパーでは一頭地を抜いている。富士通フロンティアーズの山本洋HCの言葉が、このチームを端的に表している。「どこにも穴がない。選手がみな脂がのっている。チーム状態がとても良い」。
今季のここまでの戦績がそれを表している。
スコアを書き出してみたい。
秋季リーグ戦70‐0 ハカタネクスト福岡サンズ38‐7 SEKISUIチャレンジャーズ44‐23 エレコム神戸ファイニーズ51‐7 オール三菱ライオンズ44‐0 オリエンタルバイオ・シルバースター42‐3 東京ガスクリエイターズライスボウルトーナメント1回戦52‐14 IBMビッグブルーリーグ戦6試合とトーナメント1試合の計7試合で、341得点、54失点。7試合は、すべて20点差以上で勝利。これはパナソニックだけだ。そして6試合は30点以上の大差をつけた。リーグ戦で富士通を破って3位となったSEKISUIは、アサヒ飲料時代からの好敵手で、僅差の接戦となることが多かった(昨年は14‐13)が、今季は圧勝した。

どの相手に対してもこれだけの差をつけるのは力量が抜きんでている証拠だ。また、スプレッドのようなパス多投によるハイスコアオフェンスを採用しているわけでもない。アメフトは点差がそのまま実力とは言えないスポーツだが、今季のパナソニックに限っては、実力がそのままスコアに反映されているといって間違いない。

絶対的な強さの予兆は、夏前に既にあった。パナソニックは、5月31日に富士通スタジアム川崎まで遠征し、富士通と合同練習をした。練習の後半は、実戦形式のスクリーメージだったが、そこでパナソニックは富士通を圧倒した。実戦なら、30点近い点差になっていた可能性があった。
今秋の盤石の強さは、そういう底力が結果となって現れたに過ぎない。
もともとチームのポテンシャルは、富士通と変わらないものがあった。しかし、日本一にはなかなかたどり着けなかった。転機となったのは、やはり2025年1月3日のライスボウルの勝利だった。
日本一で大きく成長したQB荒木就任2年目の高山直也HC(ヘッドコーチ)は、特にエースQB荒木優也の成長が大きいと話す。「あのライスの勝利とMVP(ポール・ラッシュ杯)獲得で、荒木は完全に一皮むけたと思う」という。

荒木の今秋のパス成績は732ヤードで8TD(タッチダウン)2INNT(インターセプト)。それほど目立った数字ではないが、前述したように、パスで大量点を取るオフェンスではない。若い小林宏充により多くの経験を積ませるため、前半からサイドラインに下がることもあったため、プレー数が決して多くないからだ。
しかしスタッツ以上に、荒木の存在感は大きい。プレー判断がよくなり、プログレッションが長足の進歩を遂げた。真後ろからプレーを見ていると、迷いがなく、ストレスも感じさせない。荒木のクオーターバッキングは、パスだけでなくランの決定力強化にも役立っている。現時点で、日本人で20代のNo.1QBであるのは間違いない。


RB陣は、ミッチェル・ビクタージャモー、立川玄明という、日本を代表する2枚看板に加え、ベテラン藤本拓弥、アスリートバック小泉誠実という、他チームならエース級のランナーを擁する。ラン攻撃は、Xリーグ最強だ。レシーバー陣ではブレナン翼、桑田理介、TEケイレブ・フィリップスら多彩な顔ぶれの中で、今季はWR當間義昭の台頭が著しい。

もともと、攻守ラインの大きさ強さはXリーグ随一。ディフェンスとキッキングは、単に強いだけでなく、ミーン「意地悪」なプレーが本領。対戦相手の心を折って、ターンオーバーを量産する。DLはベテランながらずば抜けたパワーの梶原誠人、有村雄也、最強米国人LBジャボリー・ウィリアムズ、DBはジョシュア・コックス、ワイズマン・モーゼス海人・・・。

そしてチームの柱は、LB青根奨太。外国人RBも一発で仕留めるタックルに加え、プレーリードにも優れ、パスカバーも進化しているフィールドの狩人。それだけでなく、最高のキャプテンシーを持ち合わせる。
どこをとっても、穴というか弱点のないフットボールチームであるのは間違いない。
パナソニック王朝の幕開けかパナソニックインパルスは、日本選手権・ライスボウルを連覇したことがない。これは「日本のアメフト七不思議」のひとつだと思う。日本社会人選手権は出場15回、優勝7回、ライスボウルは出場11回、優勝5回。
ライス優勝回数最多タイ(8回)の富士通とオービックが、それぞれ4連覇を達成していることを考えると、なかなか腑に落ちない事実だ。
充実するチーム、他チームとの実力差を考えると、パナソニックは「ダイナスティ(王朝)」の始まりにいると思える。今季はライスボウル連覇、そしてさらに伸ばしていける力がある。

ただ、高山HCは「ライスボウル連覇」を口にしない。もちろんライスボウル優勝が常にインパルスの最大の目標だ。しかし、あえて「連覇が目標」とは言わない。
仏像を思わせる、端正なたたずまいの高山HC。「キャプテンの青根とよく話をするのですが、結論としては、連覇はあまり意識しない。今年のチームは、違うチーム。日本一になった先に連覇があるだけやと思っています」と静かに語る。
「もちろんそうなりたいというのはありますが、チームのキーワードとして『連覇』というのはないですね」
「ライスボウルに勝ったことでチームのスタンダードが上がったのは確か」という高山HCだが、パナソニックのフットボール自体はそんなに変わらない。
「僕はラインにこだわるので、オフェンス、ディフェンス共に、ライン戦でしっかり勝つ。シンプルに自分たちのフットボールをやり続けるだけやと思っています。あとは、勝負所で何をするのかという、シチュエーションごとの準備をするだけ」
「気負い過ぎずに、一戦一戦成長していくということが大事。繰り返しますがライン戦で圧倒したい」という高山HC。
頂点に向けて、基本を大事に、ファンダメンタルを大事にして、時間のある限り、少しでもチームのスタンダードを上げていくつもりだ。