福岡国際マラソン2025が12月7日、福岡市内の平和台陸上競技場を発着点とする福岡国際マラソンコースで開催され、エチオピアのバイエリン・イエグゾーが2時間07分51秒で初優勝した。
今大会は、来年秋に開催される愛知・名古屋2026アジア大会の男子日本代表選考競技会のひとつ。さらに2028年ロサンゼルス五輪の選考レースMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)出場権を懸けたレースとなり、日本人トップの西山雄介(トヨタ自動車)、同2位の細谷恭平(黒崎播磨)、同3位の大石巧(スズキ)が27年開催のMGC出場権を獲得した。
2時間08分51秒と自己記録を3分以上更新した大石とは、どんな選手なのだろうか。
高3春の大決断 15kmを過ぎて先頭集団が2つに分裂した。西山と細谷は第2集団で自重し、ペースメーカーを除く日本勢では大石だけが先頭集団で走っていた。自己記録は2年前の福岡国際マラソンで出した2時間12分34秒(23年福岡国際)の選手である。
「春から福岡でMGCを狙うことを決めて、長い期間を準備に充ててきました。今までで一番自信を持ってスタートラインに立つことができましたね。レース中も、MGCを取ると思って走っていました」
5km毎が15分00秒以上と、例年よりスローペースだった。西山や細谷が後れたのは牽制し合ったからだが、テレビでは分からないペースアップもあったのかもしれない。大石が「詰めて、また差が開いて、また詰めて、を繰り返したくなかったんです」と話したことからも、そういった状況があったと推測できる。「そこまで速いペースではありませんでしたし、自信があったので自分1人でも先頭集団に付きました」。
大石はもともと、1人でも思い切った行動ができるタイプだった。袋井高(静岡)ではサッカー部だったが、箱根駅伝を走った従兄弟に憧れて「大学では箱根駅伝を目指す」と、高校3年時の4月に決断をした。「大学の陸上部に入るにはタイムを持っている必要がある」と、11月には5000mの記録会に出場して15分30秒で走った。
「入学してから陸上部に入部できなかったら嫌なので、いくつもの大学に電話をしました。監督の連絡先は分からないので、入試課にかけたんです」
そんな行動をする高校生は、まずいないだろう。電話を受けた大学の職員も対応に困ったと推測できる。そんな中で城西大だけが、櫛部静二監督に取り次いでくれた。大学に行って1000m×3本を監督の前で走り、箱根駅伝を目指す道を切り拓いた。そのときの1000mのペースは、3分00秒を指示されたという。
大学1年時に箱根駅伝16人のエントリーメンバーに入ったというから、長い距離になるほど適性があった。2年時にはチームが予選会を通過できなかったが、3年時は8区で区間4位(チームは7位)と好走した。4年時はチームが2区から19~20位を走り続けた影響もあったのか、8区で区間21位(チームは20位)に終わった。
「実業団ではマラソンをやりたい」と、大学3年の夏にスズキの練習に参加。藤原新監督に認められて19年に入社。今回の福岡が6度目のマラソンだった。
大石は優勝候補たちの前を走ったが、先頭集団に追い付いた西山が32kmで強いスパートを見せた。それに付くことができなかったが、大石も最後まで崩れることはなかった。日本人3位でフィニッシュし、27年秋開催のMGC出場資格を獲得した。
「日本代表への思いも心の片隅にはありますが、まずはMGCの出場権を取ることに集中していました。今回の結果ではまだ、MGCで優勝争いができる自信は持てませんが、力が付いていることは確認できました。MGCまで2年近くあるので、準備期間は今回以上に長くとることができます。MGCが10月開催になったら来年10月の海外マラソンに出場して、そこまでの練習の流れを経験したいと思います」
高校3年時に城西大へ電話をかけ、1000m×3本を3分ペースで走った大石が、大きく成長して3分ペースのマラソンを臆せず走った。11年前のように、人生を変えることになるかもしれない。
G1大会の福岡国際マラソンは、2時間09分00秒を切った日本人上位6名がMGCへの出場権を得られる。西山、細谷、大石の3人がその条件をクリアした