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2025-12-17

クイーンズ駅伝1区で2位以下を圧倒し、エディオン初Vに貢献した水本佳菜。「今日は最初から自分で行こう」と決められた理由

クイーンズ駅伝1区区間賞の水本佳菜(エディオン)。実業団3年目の20歳

クイーンズ駅伝(11月24日に宮城県で開催、6区間42.195km)に初優勝したエディオンの勝因は数多くあった。

そのなかでも1区の水本佳菜がスタートから積極的に前に出て、区間記録に3秒と迫った走りが大きかった。JP日本郵政グループや積水化学などの優勝候補チームや、3区に大砲を擁する資生堂に大差をつけたことで、エディオンは優位な展開に持ち込めた。

「スタートラインに並んだとき、今日は最初から自分で行こう、とふわっと思ったんです」。入社3年目の水本が、決断できた背景には何があったのだろうか。

世界を目指したことで成長

水本が「ふわっと」という言葉を使ったのは、“強引に考えたわけではない”ということだろう。不安もあったが自分に言い聞かせた、というケースではなかった。

「大会前から誰も行かなかったら自分で行こうと決めていたんですが、スタート前には(他の選手に関係なく)自分で行くと心を決めました」

そう考えられた理由の一番は、今季の戦績にあった。4月の織田記念5000mで15分25秒09と昨年までの自己記録を6秒更新すると、7月の日本選手権は15分13秒19で3位。8日後のロサンゼルスのレースでは15分06秒98までタイムを縮めた。東京世界選手権代表には惜しくも届かなかったが、日本代表に大きく近づいたシーズンを送った。

「春からレースがしっかりできていました。入社後2シーズンは夏場にケガをして、クイーンズ駅伝には急ピッチで合わせていましたが、今年はケガもなく練習ができていたから不安はありませんでした。だから挑戦しようと思えたのだと思います」

ケガが少なくなった理由を、大会前の取材で次のように話していた。

「以前は1日の終わりに“ここ張っているかな”と気になる箇所があっても、“大丈夫やろ”と軽く考えていました。それをなくして、気になったら、超音波治療などセルフケアをするようになりました。監督にも自分の状態を細かく説明するようになって、コミュニケーションがうまくできるようになったことも大きいと思います。継続して練習できれば、脚がつくれて筋力もついてきます」

スタート直後から先頭に立ち、4km過ぎに集団を吉薗栞※(天満屋)と山本有真(積水化学)の3人に絞った。吉薗は前回区間2位で、全日本実業団ハーフマラソンで2位(日本人トップ)の経験もある。山本は3年連続5000mで日本代表入りしている選手で、クイーンズ駅伝は昨年まで2年連続2区区間賞。ロードの実績では水本より上の2人だが、山本が5km過ぎに後れ始め、6km前後からのペースアップで吉薗も振り切った。

※吉薗の吉は正しくは「土に口」。

6km付近からのペースアップで吉薗を振り切った
6km付近からのペースアップで吉薗を振り切った

「過去2年(区間8位と区間7位)は後半きつくなったところが何度もありましたが、今日はそれがあまりありませんでした」

水本も薫英女高(大阪)時代には、全国高校駅伝1区で区間賞を取るなど駅伝で強さを発揮してきた。卒業後は世界を目指したことが、実業団レベルでも通用する選手に成長させた。

「(東京世界選手権の代表を逃して)悲しい気持ちも味わいましたが、その経験が大きかったと思います。田中希実(New Balance)さんや廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)さん、山本さんの走りを国立競技場のスタンドから見て、自分もこうなりたいと思いましたし、一緒に頑張りたい、世界に行きたい、とすごく思いました」

観戦しながら、「自分ならどういう走りができたんだろう、どういう走りをしたいと思うのだろう」とイメージできた。そこまで成長した自分と、昨年までのクイーンズ駅伝の経験を照らし合わせ、先頭を走る決断ができたのだろう。

エディオンはクイーンズ駅伝初優勝
エディオンはクイーンズ駅伝初優勝、前列左が水本

今後の目標として、「(日本人6人目の)14分台は明確にある」が、田中や廣中に勝つところまでは、まだイメージできていない。

「記録も上ですし、2人ともどの大会でも勝負強いですよね。速いし強い。そういう選手が世界選手権入賞など活躍をされています。自分はまだ経験もしていませんし、度胸もまだありません。それができるように修行中です」

駅伝では、スタートからトップを走るための経験と度胸があった。次は世界に挑戦するための経験と度胸を、身につけていく。

 クイーンズ駅伝区間賞で自信と度胸をつけた水本。5000m14分台、そして国際大会に向かう自信と度胸をつける
クイーンズ駅伝区間賞で自信と度胸をつけた水本。5000m14分台、そして国際大会に向かう自信と度胸をつけていく

文/寺田辰朗 写真/中野英聡、高野 徹

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