11・30後楽園でスーパー・ササダンゴ・マシンを相手にKO-D無差別級&DDT UNIVERSAL王座の2冠防衛に成功した上野勇希は、その場で D GENERATIONSの選手たちを呼び込み、DDT名物のじゃんけんで次期無差別級王座挑戦者を選出。その結果、最後まで勝ち残った正田壮史が初挑戦を決めた。ただ、その後のマイクのやりとりではキツい言葉を浴びせられ、とても落ち込み現在も引きずっているという。そんな自身と向き合いながら正田が出した結論は、未来という言葉に対するケジメだった。(聞き手・鈴木健.txt)
上野さんに何も言い返せなくて…
帰り、車の中で叫びました
――先ほどまでTo-y選手がギャンブルについて1時間弱にわたり熱く語っていたのですが、去り際に「今の正田は本音を言わず、嘘しか言葉にしない」と言っていました。正田選手本人にもそれは言ったと。
正田 言われました。うーん、なんでだろう…いい人になろうとしているのかもしれないです。あとは、ちゃんとした人になりたいと思っているのかな。でもそこは、もうやめようと思っていて、今は本音ばかりで生きようとしているんですけど。
――いつから本音を隠すようになったんでしょうか。
正田 実はそれって前々からずっと言われ続けていることで。悪く言えば嘘ばっかり言っているってなるんでしょうけど、よく言えば…まあ、自分でよく言う必要はないんですけど、自分の中で何が本音なのかもわからないし。難しいですね、人生って。
――自分の本音がわからないなんて、あるものなんですか。
正田 自分の頭の中に浮かんではいるけど、どうやって言葉にしたらいいかわかんないから結局、ありきたりな一番無難な正解を喋ってしまう癖が。普段はそんなことなくて、適当ばかり言っているのでそういうふうに生きていった方がいいのかなって思い始めています。
――適当に。
正田 ここで言う適当とは、軽々しく何も考えていないという意味ではなく、考えた上で物事を適切に進めるために相当する方法のことです。
――えーと、今言っていることは本音ですか。
正田 これは本音です。試験でも「次の中から適当なものを選びなさい」っていう設問があるじゃないですか。そっちの「適当」ですよ。
――最大公約数的な。昔から本音を言葉にするのが苦手だったのでしょうか。
正田 そうでした。このプロレスという仕事をやる上で、相手と喋る機会が多いじゃないですか。そもそもあまり人と関わってこなかったんで、相手とか公の場での対話の仕方を知らなかったんですよね。かといって喧嘩もしたことがないから、口喧嘩の方もできない。
――リング上でのマイクのやりとりが、まさにそれに当たります。
正田 ええ。だから、ああいう場面で適当なこと…無難なことを言ってしまうんです。
――ああ、波風が立たないこと、穏便に済ますことを言ってしまう。
正田 まさにそれです! To-yさんはそれを嘘だと言いましたけど、そういう言い方によって誰にも怒られず、指摘されずに来た。それが(上野に対しては)逆鱗に触れてしまったのかもしれないけど。本音を隠しているんじゃねえよ!っていうことで。
――じゃあ、あれは上野選手にものすごく核心を突かれたわけですね。
正田 そこはおそらく、去年(12・28)の両国(前回の一騎打ち)でも言われているんですよね。自分の中で「言えた」と思ったけど、やっぱり本心はそれじゃないんかなと思っちゃって、本当の自分がどれなのかが…わかんないですね。
――本当の自分がわからないって、ヤバくないですか? 自分が見えていないということじゃないですか。
正田 本当の自分は無口なのかもしれないんですよ。喋らず、静かに生きてきた人間なんで。
――人前で何かをアピールするのが得意ではなかったと。
正田 昔はピアノの発表会にも出たことがありますけど、自分の思いを大勢の中で喋るのはしてこなかったです。読書感想文もヘタクソで…どういうことかというと、あらすじを書いちゃうタイプなんですよ、感想じゃなく。そういうのも影響しているのかも。
――よくプロレスラーになりましたね。
正田 そこはカッコいいというだけで選びました。だからこそ驚いたんですよ、ここまで話すことが重要であることを見ていなかったから。
――そのようなものが付随してくるとは想定していなかったんですね。
正田 ビックリしました。闘いにも勝たなあかん、試合にも勝たなあかん、喋りでも勝たなあかんって…困りましたね。
――困ったというわりにはさっきからニヤニヤしているじゃないですか。
正田 ウハハハハハッ!
――どこまで本音なんですか。
正田 いや、これは本音です。でも、避けては通れないんで。上野さんにあの場で言われたのは正直、落ち込みました。何も言い返せなくて…ああいう時って、僕は思考停止しちゃうんです。頭がパッカーンとなって。帰り、車の中で叫びました。
――なんて?
正田 「うぇあ~~~っ! やってしもうた~~!!」って。
――悔やんでも悔やみきれない。上野選手は、昔からああいったことを直接言ってくるタイプなんですか。
正田 そうですね。これが的確なんですよ。しかもリング上であんな早口で言われたら理解が追いつかなくて、実際のところ何を言われているのかわからない。でも、いい負かされているのはわかるから落ち込むという。
――まあ、言われてみればあの場で瞬時に理解するにはいささか情報量が多かったかもしれません。
正田 あの後楽園のあと、新宿の時も言われてラップバトルをしているみたいでした。
――でも、そこまで核心を突いてくるということは、正田選手の表に出ていない部分を引き出そうとしていたのでは?
正田 うん、そうですね。だからこそ、それにどう対するかを考えるんですけど、難しいんですよ。
――言葉でやり返すつもりはあるんでしょうか。
正田 ここまでやられたら言葉でやり返さないと見ている人も納得しないし、自分自身も中途半端に終わらせたくない派なんで言い返したいんですけど、勝算がまだなくて。初めての口喧嘩…難しいッスね。
――いっそのこと、試合で勝てばいいと割り切るのも手ではないですか。
正田 うーん…試合で勝ちたいですけど、これって今後も続いていくことじゃないですか、僕が無口にならない限りは。しょうもないことを喋るのは好きなんで…喋りが苦手というよりも、真面目な話が嫌いで。進路相談でも毎回先生に口で負けてはよく怒られていました。
――真面目な話が耐えられない性分?
正田 ああ、そうです。真面目、真剣な話になると脳が思考停止する。授業中も先生の話は聞かずにいました。
――何をやっていたんですか。
正田 先生が書いた文字を追っていました。雑談は憶えているんですけど、授業になるとまったく憶えていないという。
――正田選手は、いっていること自体は面白いのに。
正田 だからこそ難しいんですよ。
じゃんけんは分析力による闘い。
それに勝っての挑戦は自分に来ている
――今回、団体最高峰のベルトに初めて挑むのがじゃんけんで決まるというのは、本人的にどうなんでしょうか。
正田 これはですね、じゃんけんで挑戦できたらそれに勝るものはないです。上野さんによって D GENERATIONSとされるみんながリングへ上がった中で、もしかすると一度も挑戦できない選手もいるわけじゃないですか。ここを逃すと一生、挑戦できないとなるかもしれないのだから、これはやった方がいいだろうと思っていました。
――ちなみにじゃんけんは強いタイプですか。
正田 得意です。
――じゃんけんに得意とかあるんですか。
正田 集中すれば見えるんで、答えが。全部解説できるんですけど…まあ、所詮は運なんですが、男の人って最初はリキんで絶対グーを出すんです。だから、とりあえずグーを出しておけばあいこになるからと思って出したら、瑠希也さんがチョキを出したんで1回戦は勝ちました。2回戦のTo-yさんは1回戦でチョキとパーを出していて。
――それをちゃんと見ていたんですね。
正田 全員のを見ていました。だから2回戦もそれで来ると思って、とりあえずパーは危険だと。そう考えてTo-yさんにも勝ったんです。で、最後の石田さんはずっとどすこいのパーを出していた。ここで僕がチョキを出して勝ってもいいけど、いったんパーを出して沸かせてやろうかなと。
――ええっ、観客のことまで考えていたんですか!?
正田 もちろん!(得意げ) それでパーを出したら、グーやったんですよ。だから運だけじゃないんです。ちゃんと考えてやっていました。
――両手を逆手に組んで中を除くのをやっていたじゃないですか。あれをやる人、久々に見ましたよ。あれも参考にはなっていたんですか。
正田 あれも計算とルーティンです。だから、あのじゃんけんはちゃんと分析力による闘いだったんです。闘って、みんなに勝った上で今回は無差別級に挑戦するんです。昔から大事な時はそこまで考えてじゃんけんやっていました。どうでもいい時はそこで運を使って何も考えずにやって、ダメになるパターン。運と実力の両方を使わないとじゃんけんってなかなか勝ち進めないんですよ。
――そういうことはすこぶる雄弁に語りますね。ということは、じゃんけんで初めてのKO-D無差別級王座に挑戦するという流れは、ご自身的には納得できていると。
正田 まあ、チャンピオンが言いましたからね、じゃんけんで勝ったやつとやりたいって。それに納得できないやつは帰っていいよと言われても誰も帰らなかったということは、みんな納得していたと思うし、僕はこのチャンス、一生に一回しかないというマインドでやりましたね。幸いだったのは、僕がじゃんけん好きだったということです。
――じゃんけんに好きとか嫌いとかあるものなんですか。
正田 楽しいじゃないですか。
――楽しさを味わえるのであればいいですよ。ギャンブルに走らないと刺激を得られないプロレスラーと比べたらよほど健全です。
正田 だからあれは、完全に自分のために訪れたシチュエーションですよ。自分に来ているのがわかるんですよね、この流れは自分が勝ちそうだなという雰囲気が。
――9月に鈴木みのる選手のDDT UNIVERSAL王座に挑戦して完敗を喫したじゃないですか。正直、これはしばらく浮上の機会は巡ってこないだろうなと思ったんです。それほどの負け方だったので。
正田 僕もあの時は、ここで振り出しに戻って頑張っていかなあかんのか…って思いました。その前のUNIVERSAL挑戦から2年ぐらいかけて漕ぎつけながらダメだったわけですから、また列の後ろに並んでと思っていたら、いきなりの下剋上チャンスですよ。運やないと言いましたけど、やっぱり運も実力のうちですから。ただ…鈴木さんとの試合は前哨戦も含めて何もできなかった悔いが残りました。自分の思っていたものとちゃうなあって。
――思っていたもの?
正田 描いていた試合にはならなかった。結局、鈴木さんのペースに持っていかれていたって、振り返っても思います。ああいう圧をかけてくる大人はめちゃ嫌だし、怖いし。令和であれですよ。昭和の人たちはあれがいいんやって言うんでしょうけど、やられてみればわかりますよ。怖いッスよ。怖いからこそ「怖くない」って言っていたんです、あの時は。怖くなかったら「怖くない」なんて言わないんですよ。ひとことで言うと、あの試合は「やってしまった…」でした。
――ああいうタイプの大人をこれまでの人生の中で通過してこなかったでしょうからね。
正田 怖さを前面に出してくるDDTのプロレスラーって坂口(征夫)さんぐらいでしたから。プロレスラーを続ける上でそういうタイプの相手とやる時はいつか来ると想定はしていたんですけど、圧が想像以上だった。
――その結果を踏まえてどうするべきかというのは考えましたか。
正田 ……頭がパンパンです。
――?
正田 今の質問、難しかったです。
――そうですか。自分が前に進む上での何かしらの答えは出なかったのかという質問です。
正田 それで言うなら自分らしくいかないとなとは思いますね。あれを経験したから自分も鈴木さんのようにガツガツと強くいっても、僕はそういうのが本当に苦手なんですよ。プロレスラーとしてどうかと思われるかもしれないですけど、それが本当の自分ですから。
――以前、若手らしい若手でいるのは苦手と言っていましたね。
正田 それです。「うおおぉぉっ~!」とか声を出すのが恥ずかしい。
――声を出すぐらいいいじゃないですか。
正田 自然に出るのは自分の中でヨシとしているんですけど、意識して「ここで気合を出すために叫ぶぞ!」ってなるのが嫌なんです。
――考え方がスタイリッシュなんですかね。
正田 どうだろう…恥ずかしいんですよ。根が暗いかもしれないです。
――根が暗いのはなんとなくわかりますが、恥ずかしがり屋には見えないですよ。ちゃんと人前でパフォーマンスできていますし。
正田 そう言われると、確かにプロレスラーとしてやっているのであれば恥ずかしくはないのかもしれないですけど、あとになってそれを自分で見ると、モノによっては虫唾が走るんです。自己分析ができていないかもしれません。
――いや、むしろそこまで見ていたらできていますよ。
正田 社会人として働いている人たちは、自己分析の果てに今の会社についているわけじゃないですか。僕も一回、就職した方がよかったのかもしれない。僕よりも今の社会人の方々の方がよほど本人のことを知っていると思うんで。あれだけ在学中にみっちりと自分を見つめてから社会に出ていくんですから。
――でも、そういう人たちが経験できないことをこの年齢で経験できているのがプロレスの世界ですよ。
正田 ああ、それも痛みとともに覚えたという。昭和ですね、プロレス界って。
落ち込んでいるのを見られるのが
恥ずかしいからヘラヘラしてしまう
――令和の今でも。上野戦に関してですが、先ほども出た前回の一騎打ちのようにはさせないということですよね。
正田 前回はベルトが懸かっていなかったシングルマッチでしたけど、今回はタイトルマッチということで感じ方も緊張度も変わってくる。前回はただペケがつくだけだけど、今回は負けたらベルトが懸かった上でのペケですから、そこが気になります。前回も年末ギリギリにやって、今回も年末年始はのんびりできるかと思ったらこれですよ。でも、内心では嬉しがっているんです。じゃんけんで負けて、たとえば決勝で勝った石田さんが挑戦するのを眺めていたら、同世代の高鹿さん、須見、次は石田さんと挑戦していたら「俺の枠がなくなる!」ってめっちゃ焦っていたでしょう。だから今は落ち込んでいますけど、それでも挑戦できるのはよかったと思います。
――やはり同世代の選手が先に無差別級へ挑戦した現実は刺さっていたんですね。
正田 はい。「俺がDDTの未来や!」とか言ってデビューしているくせに、まだ最高峰にたどり着いていないのかっていう話になりますから。まあ、ここで未来とか言ったらまた上野さんに言われますよね。あれで未来っていうのが言いづらくなりました。未来と言って「まだそこにいるのか」と上野さんに言われた時は、めっちゃオツムをフル回転させて考えて確かに“未来”というものに保険をかけているだけやなって思ったんです。それって、負けても「俺にはまだこの先があるんや」って言い訳しているものやないかって。DDTの未来としてデビューさせてもらったからには、いつかは“現在”にならないといけないんですよね。それが今、めっちゃ難しく感じている。頭パンパンポイントですよね。
――KONOSUKE TAKESHITAもデビュー時は“ザ・フューチャー”と呼ばれて、そこから現在のステータスを築いてきました。そのようにならなければならないと。
正田 このままいって、自分が30歳になっても「俺が未来だーっ!」なんて言っていたらみんな違和感しかないだろうし。おそらく、今回のここで僕はそこから脱却しないといけないんですよ。
――そこは自覚しているんですね。
正田 反省ばかりの日々です。今年に入って、試合が終わってニコニコで帰ることが少ないです。「ああ…」って溜息ばかりつきながら帰っている。
――わりと深く刺さっちゃうタイプなんですね。
正田 だからヘラヘラしてごまかしているんですよ。落ち込んでいるところを見られるのも恥ずかしいから、怒られてもヘラヘラしちゃうタイプ。そういうところでも無難にするというか、波風を立たせないようにしているんでしょうね。でもそれは表面的なものではなく、そう生きていたいっていうのが自分なんで。
――そういう人間であることを知っている上であれを言ったのだとしたら、上野選手は相当キラーだと思います。
正田 それまでもさんざん言われてきたんで、上野さんは知っているはずです。だから凄いんです。なんていうか、人間という生物として強いんでしょうね。僕は生物学的に最弱なタイプで、マンボウと一緒ですね。
――マンボウって生物学的に弱いんですか。
正田 あんな顔してひょうひょうとしているようでいながら、けっこうメンタルやられるんですって。今の僕がまさにそれで、一番ダメな状態にいます。褒められても素直に喜べないし、怒られたら落ち込む。
――褒められたら喜びましょうよ。
正田 いや、なんか気を遣って褒めてくれているんじゃないかって、褒められ疑心暗鬼状態でうまく喜べない。かといって、何も言われないのも違うよな。でも怒られたら真に受けちゃうしで。
――他人を疑うような受け取り方はよくないですよ。
正田 ポジティブなことは疑って、ネガティブなことは真に受ける…ヤバいッスよね、これ。典型的な今のダメな日本人ですよ。自己肯定感が上がらない。
――プロレスラーこそが自己肯定感の塊なのに。少なくとも褒められた時はそのまま受け取った方が精神衛生的もいいんじゃないですか。
正田 それが怖いんですよ。自分のやり切った感と褒められるのが値しないんです。自分はこの程度は頑張ったと思っているのに、それ以上に褒められると「いやいや、ここまででしょ」って考えてしまう。僕がものすごく頑張って、ものすごく褒められたら受け入れられるんでしょうけど…。
――過大評価と受け取ってしまうんですね。お友達の藤田晃生選手に褒められたりはしないんですか。
正田 あー、ないですね。試合のあととかも「楽しかったな」ぐらいしか言われないんで。DDTの同世代の人たちからも褒められることってないッス…難しいですね。
――さっきから、さんざん「難しい」って言っていますね。
正田 今が難しい難しい期のようです。それは、このタイミングで無差別級に挑戦するからというのもあるんですけど、後楽園の一件(マイクで上野に叱責される)があってから、バックステージに戻って階段でふさぎ込みました。
――そういう時、お友達の藤田晃生選手に話して救ってもらったりはしないんですか。
正田 こっちがLINEも何もしないんで。そこは自分の弱い面を見られたくないんで、ヘラヘラしているところだけを見てほしいんです。
――じゃあ、ハケ口がないじゃないですか。
正田 友達は、楽しいことだけをしていたい対象ですから。難しいです。
――それだとすべてを自分で背負うことになっちゃいますよ。
正田 そうですよね…人生って難しいですね。
――大卒1年目でそれを言いますか。To-y選手といい、DDTの若い選手たちは二十代で大変な経験に直面しますね。
正田 さっきから難しい、難しいって言っていますけど、これって正解がないからなんだと今、思いました。正解があれば正解すればいいじゃないですか。でも、今回に関しては問題文もわからなければ答えもわからないような。足し算しかできないのに数学の証明問題をやっているようで。だから、答えを見つけ出すとすればそれがベルトを獲ることなんでしょうね。
――このキャリアで団体最高峰のベルトを獲得すれば、すべてが吹っ飛んでクリアになるのでは。
正田 新卒9ヵ月で役職就任みたいで、エグいですよね。チャンピオンになったらなったで説得力と言いますか、今みたいにわかりません、わかりませんなんて言っていたら、なんだあのチャンピオンは?って絶対なるじゃないですか。これがまた頭の痛い問題で…。
――いやいや、ベルトを巻けば周囲の見方も変わりますよ。
正田 こわっぱじゃなくなりますよね。それに耐えられる上野さんは凄いですよ。チャンピオンの期間も長いじゃないですか。今までのチャンピオンは全員凄いと思います。みんな、何か一つの信念を持ってやっている…そうか、僕も信念を見つければいいんだ。
――まだないんですね。
正田 それもわかんないんですよ。それこそ未来という信念を持っていたのに、それをパーン!とされちゃったわけですから。
――現時点で手元の信念がない。
正田 そう言ったら語弊があるのでやめてください。いっぱいかいつまむことはできるけど、実はないみたいな。
――それを再構築していかなければなりません。
正田 あとは、人生におけるボキャブラリーがないっていうのもありますね。
――そうですか? こうして話を聞いていてもある方だと思いますが。
正田 ないですよ。ヘンな言葉しか憶えていない。大事な言葉は教えてもらっていないんで。
――では、そのヘンな言葉をそのままリング上で出せばいいですよ。
正田 日常の会話で使う言葉とリング上で出ることはまったく別モノなんで。本当、いらんことを喋るボキャブラリーはあるんですけど真面目なのが、ビジネス用語がないっていうんですかね。
――ああ、正田選手って真面目なことに照れがありますよね。
正田 うおっ、まさにそうです。50m走も笑いながら走っていました。
――気味が悪いですね。
正田 真面目に走るさまが恥ずかしい。
To-y (音も立てず扉を開けてぬうっと顔を突っ込み)正田くん、先にいくよ。
――今のところ本音で喋っているようです。
To-y いや、早く帰りたいって言っていたんで本音じゃないです。
正田 さっきまで、外国からのリモートインタビューを受けていたんです。「今回のチャンピオンシップに対する意気込みを」とか振られても、それを言葉にするのがむずい。そういうのを経験すると、いい加減に答えを出せよって提出期限を早められているような気になっちゃう。だけど、これをやらないままだったら仕事としての生き甲斐もなくしそうで。ただやっているだけって、一番怖いじゃないですか。スキルも積めないし、社会人で言ったら転職もできずに窓際社員になるようなものですよ…今日の僕、前向きなことをまったく言えていないですよね。
――タイトルマッチに向けてのインタビューとしては異例です。でも、だからこそ本音とされるものが伝わるでしょう。
正田 いや、こういう時に前向きなことを言える人って本当にメンタル強いなって尊敬します。今、僕の中でハッキリとわかっているのは、これからは“未来”という言葉に自分自身が頼れないということです。負けてもそれを言い訳にはできないし、勝っても未来という言葉は口にできないところに来たんだなって。今を一生懸命生きない人に明日はないって、どこかで聞いたことがあるんで。
――今のは本音じゃないですよね。置きにきましたよね?
正田 ウハハハハハッ!