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2026-03-13

【名古屋ウィメンズマラソン】田中希実インタビュー 未知の距離を走って

名古屋ウィメンズマラソンでペースメーカーとして15km、選手を先導した田中

3月8日の名古屋ウィメンズマラソンで、田中希実(New Balance)がマラソンのペースメーカーを初めて務めた。未知の距離だった15kmを走り終えて、感じたこと、得たものとは……。

強い追い風と向かい風、走り方をどう変えたのか。

――追い風となった8kmまでは、設定された1km3分19~20秒より速く走ったところ(テレビ中継のタイム表示は3分17~20秒)もありました。

田中 追い風と少し下っていることもあったのですが、後半の向かい風のときに絶対にペースが落ちるので、序盤の楽なうちに、3分20秒ぴったりで走るより、ちょっとずつでも貯金をつくっておいた方がいいのでは、と思いました。その方が向かい風になったときに焦らないで済むかな、と。少し速いペースで行けるのにブレーキをかけてリズムを崩してしまったら、かえって後半乗りづらかったりします。そういったことをいろいろ考えたとき、3分15秒以内にさえならなければ、ちょっとずつ速い方がいいかな、と考えました。

――それは走る前から、ある程度は考えていたのですか。

田中 オーストラリアから名古屋入りしましたが、ロストバゲージがあって着いた翌日は1回しか練習ができなくなりました。1回の練習で何をするかってなったときに、やっぱり試走をしておこう、となって。レース3日前に試走したのですが、そのときもすごい風を感じました。これは機械のように3分20秒を守っていくレースではなく、追い風の間は速くなるし、向かい風の間は遅くなるレースになると確信しました。大会側に聞いたら生身の人間がするのがマラソンなので、神経質に3分20秒を守らなくてもいい、ということでした。それだったら、走っている選手たちの感覚に合わせてレースをつくっていく方がいい。そうした感覚に任せていったら、あの入りになった感じです。

――向かい風になったところでは、どんなことを考えながら走ったのでしょうか。

田中 覚悟していた以上の向かい風がありました。試走の時は7.5km手前の新瑞橋で右に曲がってからの向かい風がすごかったんですけど、当日は新瑞橋で右折してからと9km付近の折り返し後は、意外と風が弱くて(テレビ中継のタイム表示は3分18~23秒)。でも11km付近で左に曲がって環状線に戻ったときは、試走の時以上の向かい風が吹いていました。自分の感覚としてはそんな変えているつもりはないのに、ラップがすごく落ちていて(テレビ中継のタイム表示は3分22~30秒)。でも、そこで焦ってもいけないと思って、無理やり上げる走りはしませんでした。

――他の選手とコミュニケーションを取りながら走ったのでしょうか。

田中 序盤は同じペースメーカーのイジ(イソベル・バットドイル/オーストラリア)選手が、隣を走っていました。5kmで給水を取りたいとか、そういった部分でのコミュニケーションはありましたね。風が強くなったところでは、特に何も言ってこなかったので、可もなく不可もなく、という状況だったのだと思います。環状線に戻ってからはペースが落ち過ぎていたので、ちょっとずつ戻していこうと、イジ選手を見て、他の選手たちも見て、ちゃんと付いて来られているかを確認しつつ、気持ち頑張り始めました。

15kmを走って感じたトラックとの違い

――ペースメーカーで15kmを走ってみて、フルマラソンをイメージできましたか。

田中 いえ。風の影響もあったと思うのですが、やはり10kmを過ぎたあたりから体のアライメント(身体の各部位の意図した並び)のズレを感じ始めました。股関節周りの重心移動の部分で、トラックでは地面に接地した瞬間に自然に推進力が生まれる動きを利用して走るのですが、ロードになってくると違ってきます。疲労や関節の曲がり方、腰の入り方が、走りながらどんどん変化していくのがマラソンです。そこが10kmを過ぎて変化し始めた時に、まだそれに合わせる体にはなっていないな、という気はしました。

――15km以上を走ると思った動きにならない?

田中 そこで筋肉を使う走りになります。筋肉でカバーできているうちはまだいいのですが、マラソンは30kmを過ぎてから筋肉のエネルギーも枯渇すると思うので、筋肉が機能しなくなった時に本当に動かなくなると想像できました。今回は10kmとか15kmという取っ掛かりの距離なんですが、こういうことか、というところは理解できましたね。名古屋のペースメーカーに向けてそこまでの練習をしてきたわけではありません。仮にマラソンをするとして、そのための練習をしっかりして、できるようになるものなのか、分からないことはたくさんありますが、だからこそマラソンに取り組んでいる選手たちの偉大さは身をもって感じました。

――純粋に楽しみながら走りたい、と話していましたが……。

田中 追い風のときは楽しめました(笑)。

――精神状態をうまくコントロールして、とも話していましたが、15kmをしっかり自制しながらコントロールできたのでしょうか。

田中 必死さだったり、焦りだったりは無意識に出てきてしまうので、そのたびに自分を落ち着かせようと意識しました。ペースメーカーとして走らせてもらっているメリットとして、自分は勝負に絡んでいないのだから、練習だと自分に言い聞かせて、ペースが遅くなって焦りだしたときにタイムではなく感覚を戻していくことや、感覚にとにかく集中することを意識しました。もしも自分のレースだったら沿道の歓声に気を取られたり、雰囲気に飲まれたりすることがあったかもしれません。そっちに気持ちがいきかけた時には、自分の感覚や自分の目線に戻してくることを繰り返せたと思います。

――もう一度マラソンのペースメーカーをしますか。あるいはハーフマラソンのレースに参加することもありそうですか。

田中 ハーフマラソンはもっと、10000mの経験などを積んでいかないと走れないと思います。ハーフは10000mの延長だと聞きますが、10000mの勝負の仕方さえまだつかみきっていないところがありますから。もっと場数を踏んで、引き出しを増やしていってからかな、と思っています。今回走ってみないと分からない部分がありましたが、15km以上の距離よりも10000mや、1500mから5000mまでのトラック種目に、今回の経験を還元したい気持ちの方が大きくなりました。

構成/寺田辰朗 写真/中野英聡

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