自分たちを見つめ直した法政戦の敗戦。だから苦手の明治に、勝って終われた。2025-2026シーズン、中央大学は2年連続5回目のインカレ王座に輝いた。前回はキャプテンのFW角丸陸斗選手(かくまる・りくと、4年)のインタビューをお届けしたが、今回は八戸了(はちのへ・りょう)監督。この1年間のチームの「答え合わせ」として、興味深い話を聞かせてくれた。
――あらためてインカレ連覇、おめでとうございました。角丸主将はインカレ優勝に際して「秋のリーグ戦で優勝を逃す原因となったファイナルリーグの法政戦」と、「インカレ前の全日本選手権で、釧路厚生社に1回戦で負けたこと」が転機になったと話してくれました。まずは秋の法政戦。監督として、どのように受け止めていたのでしょう。八戸 秋リーグはまず、角丸のケガがあって、GKの川合温大(かわい・はると、4年)が教育実習でチームを離れた。ファイナルリーグの初戦(11月15日)でオーバータイムで東洋に勝つことができて、苦しかったリーグ戦も優勝が見えてきたんです。選手に「気の緩み」はなかったと思うんですが、翌日(16日)の法政戦はポンポンと失点して、0-2のまま3ピリを迎えてしまった。チャンスはあったけれども点数が取れずに、結局、2-4で負けてしまったんです。これは結果的に、インカレに向けてターニングポイントになった試合でした。法政に負けて、自分たちを見つめ直すことができた。だからこそ明治との最終戦に勝てたし、1カ月後のインカレ優勝につながったんじゃないかと思います。
――東洋と明治に「連勝」しなければ、インカレは優勝できないわけですからね。八戸 はい。東洋はフィジカルが強くて、いつも簡単なゲームにはならないんですが、それよりもウチがやりにくかったのは明治なんです。個人個人のスキルの高さ、クリエイティブなホッケー。それに対応するのが厄介だったんですよ。東洋、そして明治に、リーグ戦で勝って終われた。そこは大きかったんじゃないかと思います。
――リーグ戦を通じて、「3ピリに強い中央」という印象でした。八戸 先制されても最後に追い上げて勝つ。そういう展開が多かったですね。他大学と比較して、3ピリに極端に運動量が落ちるというのがなかった。学生たちも同じ見方をしていて、「よし、3ピリだ」「俺たちの時間だぞ」という声がベンチ内でも出ていました。体力面が一番、大きかったと思います。
正GKとして、インカレでもゴールを死守した川合。秋のリーグ戦の合間には、教育実習でチームを離れた時期もあった印象に残った東伏見でのミーティング。学生だけでやる陸トレがチームを変えた。――インカレ前の全日本選手権では、厚生社を相手に敗れています。前年の2回戦では東北フリーブレイズに1-3の接戦。選手は大きな自信をつかんで、それがインカレ優勝のきっかけになった大会でした。それが、今回は1回戦敗退。チームの様子はいかがだったのでしょう。八戸 先ほど「法政戦がターニングポイントになった」と言いましたが、この厚生社戦も同じように貴重な機会だったと思います。全日本選手権も選手の気の緩みはなかったと私は感じているんですが、もともと、厚生社はアジアリーグでプレーしてきた選手が何人もいる力のあるチームですから。ただ結果として、ウチが負けてしまった。「このままインカレに行ってもいいのだろうか」「考え方やプレーの面を、もう一度自分たちで見直すべきではないか」。厚生社戦の負けは、法政戦に続いて、学生にそういう「気づき」を与えてくれたんです。負けた翌日は、泊まっていたホテルの前の公園で、がっちりと陸トレをやりました。そのあとで東京に戻って、翌日からはインターバルトレーニング。氷上練習もありますが、どこかのタイミングで陸トレをやりたかった。そういう意味では、いい機会になったと思います。
――角丸選手は「全日本選手権のあと、選手間で5~6時間、ミーティングがあった」と話していました。そのあとの話でしょうか。八戸 いえ、その前の11月30日の明治戦が終わった直後です。東伏見のロッカールームで、幹部の選手とスタッフ間でミーティングをしたんですよ。角丸たちから「スタッフと話す時間をもらえないでしょうか」と申し入れがあったんです。席上、「インカレの前に陸上トレーニングを氷上と並行してやりたい」と。時間にしたら30分くらいでしたが、このミーティングは、とても印象に残っているんです。「学生3冠」というのが彼らの目標にはあって、でも、秋リーグの2位でそれがなくなってしまった。学生のほうから「ミーティングをお願いします」と要望してきたので、もしかしたら「今までのやり方を否定する話なのかも」と思っていたんです。過去にも学生から「疲れがたまっているので、この練習はやめさせてくれませんか」という話し合いがありましたから。ところが、実際は真逆だった。「自分たちは、こういう練習をしたい」と角丸たちは言ってきたんです。あくまで前向きな態度で、「もう一度、学生だけでハードな陸トレをしたい」と。
――これはアイスホッケーの「落とし穴」なのですが、シーズンに入って氷上練習がメインになると、どうしても陸トレが調整的な意味合いになりますね。特に「走る」ことが、ないがしろになってしまう。八戸 しかも今回は、陸トレを「自分たちだけで」やりたいと言ってきたんですね。スタッフが陸トレについているのも、それはそれで効果がありますが、そうすると「俺たちはこういう目標をもってトレーニングをやっているんだ」という、意識や自主性といったものが芽生えてこない。氷上に乗る際にも、時間ギリギリでリンクに乗ってくる学生もいたので、「そういう部分も自分たちであらためていきたい」と、すごく前向きなミーティングができたんです。「氷上でも自分たちで考えてきた部分があるので、このメニューで練習させてほしい」と。もちろん練習の仕切りの部分はスタッフでやりましたが、彼らの考えたメニューを多く取り入れてインカレに臨みました。2位に終わった秋リーグ、そして全日本でも1回戦負けしてしまった。これが、よりいっそう彼らの気を引き締めたと思うんです。
春の秩父宮杯では4つ目に入るケースもあった1年生の中谷。インカレでは2つ目として東洋戦のサヨナラゴール、明治との決勝でも優勝を決定づけるエンプティを決めている対戦相手がどこであったとしても、「尊敬できる」試合運びをしたかった。――やがて12月23日からのインカレを迎えます。1回戦は、九州学生リーグの福岡大学でした。八戸 インカレは、関東大学の1部のような試合にはならないケースもあるんですが、とにかく相手に失礼のない試合をしたかった、というのはあります。2019年の阿部翼(現・日本製鉄室蘭スティーラーズ)がキャプテンの時に、インカレ1回戦で名古屋大学と対戦したんです(第92回・釧路インカレ)。試合後、名古屋のキャプテンがあいさつに来てくれて、「学生最後の試合を中央大学とやれてよかった」と言ってくれたんですよ。
――確か「32-0」の試合でしたが、阿部さんが「このインカレで一番、印象に残ったシーン」と話していました。八戸 そのときのことを思い出して、「先輩たちと同じように、相手からリスペクトされる試合をしよう」と言ったんです。試合は28-0で勝ったのですが、(GKを除いて)全選手が得点するまであと1人というところまでいって、守りでは相手をシュート「0本」に抑えることができたんです。
――準々決勝では、東洋と対戦しました。立ち上がり59秒に東洋FWの森田琉稀亜(もりた・るきあ、4年)選手が、3分には角丸選手がスコアし、お互いのキャプテンによるゴールで試合が動き始めました。2ピリ25分に中央が勝ち越し点を上げて、しかし3ピリの54分に追いつかれた。60分を終わって2-2と、我慢の展開になりました。八戸 そんなに簡単に勝たせてはくれないな…と思ったのと同時に、あの試合は角丸とか関椋太(せき・りょうた、FW・1年)とか、手や足をつる選手もいたりして、けっこう大変だったんです。その反面、まだまだ行けるという選手もいた。それほど嫌な感覚にはなっていませんでした。
――延長になって、61分にFW中谷采士郎(なかや・さいしろう、1年)選手がサヨナラゴールを決めました。59分に相手のペナルティがあって、延長では中央の「4人対3人」でした。八戸 60分の戦いでは通常「5人対4人」ですから、東洋は4人が引いて、完璧に守られたと思うんです。ただ、これが延長に入って「4人対3人」になった。これがポイントでした。東洋の守りが追い付かずに、中谷に対してノープレッシャーだった。「4人対3人」だったからこそ、ああいうシチュエーションになったんです。この試合はお互いに気持ちが入っていて、4年生は、ここで負けたらホッケー人生が終わる選手もいるわけです。夢中になるあまり、水分を補給しないまま試合に没頭した選手もいたんですよ。
――決勝は「苦手」としていた明治戦でした。1ピリの6分、14分に失点して0-2。1ピリ残り7秒という場面でFWの下坪久晃(したつぼ・ひさあき、4年)選手が1点を返しました。八戸 下坪は去年の決勝で、胃腸炎になったんです。それで試合を休んだのですが、1年前のことを覚えていて、それで先制点を取ってくれたんです。
――2ピリは、一転して中央のペースだったと思います。八戸 時間が経つごとに、ウチがペースをつかんでいきましたね。32分に2点目を取り、その8秒後に3点目が入った。3点目はDF高崎泰成(3年)のダンプでしたが、ダンプの種類もいろいろあって、ウチのFWが積極的にフォアチェックに行ってくれていたので、「ゴールの周りに打ったほうがいい」というのがあったんです。それで、相手のGKも処理しにくかったんじゃないかと思います。
最終学年の今季、大会ベスト6で「3冠」だった横須賀。これからはアイスホッケーの道は進まずに、アメリカの大学へ留学する「別格」の伸びを見せてくれた横須賀。部員個々が成長してくれたのが勝因に。――2ピリの39分に決勝の4点目を挙げたのは、FW横須賀大夢(よこすか・だいむ、4年)でした(スコアは最終的には5-3)。2025-2026シーズンの大学で、彼がもっとも「化けた」選手ではなかったでしょうか。もともと母校の埼玉栄高のスタッフは、「大学で伸びるのは横須賀」と言っていたのですが、まさにその通りの活躍だったと思います。春の秩父宮杯、秋のリーグ戦、そしてインカレでも「ベスト6」。8月に行われた苫小牧サマーカップを含めて、4つの大会でベスト6を受賞するのは横須賀選手だけでした。八戸 昨シーズンの後半から横須賀の格が一段上がって、今シーズンは別格でしたね。もともと性格は素直なんです。1年目から主力で使っていましたが、試合で納得いかないプレーがあったのでしょう、下級生のころは気持ちに不安定なところがありました。ただ、上級生になって精神面でも大人になった。最後のインカレが終わって、横須賀から「1年生の時に叱ってくれて、うれしかった」と言ってくれたんです。
――「学生マジック」という言葉があります。いつもの力を出せば勝てるのに、気分が入らずに相手に負けるのも「学生マジック」。普通の力関係では勝てないような相手に、とんでもないパワーを見せつけて勝ってしまうのも「学生マジック」です。今季のチームにおいて、それを感じたのはどの瞬間でしたか。八戸 今シーズンの4年生を見て、「誰がリーダーになるんだろうな」と、最初は思っていたんです。去年のインカレの期間中に3年生、今の4年生ですが、1人1人、意見を聞いてみたんです。その中で「角丸をリーダーにすべき」という声が大きかったんですよ。私の印象では、角丸はマイペースで、ホッケーに対しては熱いけれども性格的に向いていないんじゃないかと思っていたんです。でも、いざ角丸がリーダーをやってみたら、物事ははっきり言うし、プレーの面でもチームの信頼が厚いから、みんな彼の言うことを聞く。スタッフ間では、違う人間にキャプテンを任せようと思っていたんですが、学生たちの意見を聞いて「角丸に任せてみよう」と思ったんです。大人が見えている部分と、学生が見ている部分との「乖離」がある。それを再認識しました。
あと1つ付け足すと、学生の「本気スイッチ」が入ったときに、中央大学は本当に強いチームになれるんです。逆に監督やコーチの「言うことだけ」をやっていると、自発的に「何かをしよう」というエンゲージメントが向上しない。チームのために頑張ろう。大学のために頑張ろう。家族のために頑張ろう。そういうスイッチが、監督、コーチの「言うことだけ」をやっていると入りづらいんです。それを、今回のインカレを見ていて、あらためて思いました。今年も3月中旬に「新チーム」が動き出しますが、今年は春から「本気スイッチ」を押したい、そう思っています。
――川合選手が秋のリーグ戦の最中にチームを離れて教育実習に行ったり、横須賀選手がこの春から海外に留学したり。中央は「アイスホッケー以外のもの」を大事にしているのが、チームの存在感であり、個性という気がします。マネジャーの広報活動もそのひとつです。YouTube、X、インスタグラム。試合やチームのことを自主的に報道していくという点においても、今季すべての大学の中で「優勝」ではなかったか、と。八戸 マネジャーは、1つの試合が終わるたびに「ゲームハイライト」をつくってくれて、それが年間を通して選手のモチベーションになっているんです。練習でも、マネジャーはリンクで仕事をしたあとに、1時間後には映像をアップしてくれる。インカレ優勝は、選手の力だけじゃない。マネジャーを含めた、部員全員の力によるものなんです。