close

2026-06-05

【NFL】キッカーの椅子は、ひとつ──松澤寛政、レイダースで挑む53人のロースター枠

ラスベガス・レイダースでボールを蹴る松澤寛政 photo by Matt Aguirre/Las Vegas Raiders

全ての画像を見る
背番号38。松澤寛政は、ラスベガス・レイダースの一員として、いまNFLの練習場に立っている。4月のドラフトで指名は受けなかったが、直後にレイダースとドラフト外(UDFA)で契約。オフシーズンのチーム練習(OTA)に加わり、53人の最終ロースター入りを目指す日々が始まっている。オンラインの合同取材に応じた27歳は、現在地を淡々と語った。「たくさんのベテラン選手やコーチに指導をいただきながら頑張っています。まずは自分にできることをしっかりやって、53人の中に入れるように」【北川直樹】

指名漏れから契約へ 今感じる「桁違い」の基準

ドラフト当日、松澤は会場のあるピッツバーグにいた。「なかなかキッカーが指名されない状況で、周りの様子も含めて……。レイダースから連絡が来たときは、素直に嬉しかったです」

チームに合流して約1カ月。施設も食事もコーチングも、大学とはまるで違う。「毎日毎日、本当に新しい発見です」

驚かされたのは、選手とコーチの「基準の高さ」だった。「一人ひとりの意識の高さ、細かいことへの追求の姿勢。ルーキーはそれ以上にやらないと、このチームには残れない」。アメリカの大学と比べても、選手の意識は「桁違い」だと表現した。

ルーキーの一日は長い。朝5時半に施設へ入り、夕方5時ごろまで。キック練習そのものは2時間ほどで、残りはトリートメント、ウェイト、リーグの仕組みを学ぶルーキー向けのミーティングに充てられる。「治療も含めて、すべて施設の中で完結できる。ありがたい環境です」

ベテランと競い、ベテランに学ぶ

チームにはもう一人、ベテランのキッカーがいる。マット・ゲイ。松澤はその存在を「コンペティションの相手として、しっかり捉えています」と言い切る。だが、争う相手は学ぶ相手でもある。パンター、ロングスナッパーを含めたスペシャルチームの面々に、松澤は遠慮なく質問を重ねる。「どうすればNFLで長いキャリアを築けるのか。一つひとつのプレーに集中するために何をしているのか。知識をたくさん共有してくれる」

ゲイから受けた助言で、印象に残った一言がある。「スイングを力強く、と。少し縮こまっていたのかもしれません」。この1カ月でキックは伸びた、と松澤は感じている。

武器は、ぶれずにフィールドゴールの正確性に置く。「それを変わらず続けることが大事」。一方で、適応が必要なのはキックオフだという。「カレッジとNFLでは少し違うので、そこに合わせていく必要がある」。ミスへの向き合い方は大学時代から一貫している。「大事なのは、外したキックではなく次のキック。リセットのプロセスや、メンタル面のツールを持っておくことが大切です」

「結果として、NFL選手になれたら」

日本人初のNFL選手。その肩書きに、重きは置かない。「自分のキックに集中することが大事。結果として日本人初の選手になれたら嬉しいですが、まずは結果を残して、自分のプロセスに集中することかなと」。証明したいものを問われても、答えは変わらない。「証明することは、本当に何もないと思うんです。1日1日、選手として成長して、試合に出る。それを1年1年積み重ねていけたら、素晴らしいキャリアになる」

20歳で初めて楕円球を蹴り、独学でここまで来た選手として、これから目指す選手にも言葉を残した。「早いうちからアメリカに来てプレーできれば、NFLに来られるチャンスは増える。そうじゃなくても、僕みたいにゼロから始めてもチームと契約できると示せたと思う。自分を信じてほしい」

ラスベガスは、ハワイの「9番目の島」と呼ばれる。「スタジアムの半分くらいがハワイのファンで埋まることもある。その影響力の大きさは、すでに実感しています」

OTAは6月後半まで続く。その先にトレーニングキャンプとプレシーズンが待つ。松澤の本当の勝負は、ここからだ。

まつざわ・かんせい
1999年生まれ、千葉県出身。千葉県立幕張総合高校までサッカー部に所属し、フォワードとして高校3年時には千葉県ベスト8に。大学受験に失敗し、父の勧めでアメリカへ渡り、本場の試合を観戦したことをきっかけに、「NFL選手になる」という強い決意を固めた。夢をかなえるために東京のステーキ店で働き、渡航資金を貯めて、2022年にオハイオ州のホッキングカレッジでキャリアをスタートさせた。23年にハワイ大学に編入したが、初年度はレッドシャツの扱いで公式戦出場はなかった。24年シーズンに正キッカーに昇格すると、フレズノ州立大戦の残り15秒で勝ち越しのエクストラポイントを決めて1点差の勝利に貢献、大学からの奨学金受給が決定した。25年シーズンは、FGは26本中25本成功、成功率96.2%、トライフォーポイントは37本すべてを決め、総得点は162点に達した。開幕から25本連続FG成功はFBS(Football Bowl Subdivision)記録に並ぶ。コンセンサス・オール・アメリカン、マウンテン・ウエストファーストチーム、マウンテンウエスト・スペシャルチーム・プレーヤーオブザイヤーに選出。25年12月には、NFLの国際選手育成プログラム「インターナショナル・プレーヤー・パスウェイ(IPP)」に選出されている。2026年のNFLドラフトで日本人史上初のドラフト指名が期待されたが、指名されず、ドラフト終了後、ラスベガス・レイダースとドラフト外選手として契約した。

北川直樹

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事