close

2026-07-03

【アメフト】Xリーグ史上最高? 富士フイルム海老名QBコルデイロ2年目の覚醒

【富士通vs富士フイルム海老名】第4Q、QBコルデイロが長身WR小山を狙ったパスは、惜しくも決まらず=撮影:小座野容斉

全ての画像を見る
アメリカンフットボールの国内最高峰リーグ「Xプレミア」で、一人の選手が輝きを増している。富士フイルム海老名ミネルヴァAFCのQBシェバン・コルデイロだ。第3節、富士通フロンティアーズ相手に、見事なパスオフェンスを展開し、才能の片りんを垣間見せた。

Xプレミア第3節
富士通フロンティアーズ 31 - 14 富士フイルム海老名ミネルヴァAFC
2026年6月20日@富士通スタジアム川崎


試合後、富士通のQB高木翼は「彼はあれくらいはやれると思っていましたよ」と話した。昨年まで在籍していたグレゴリー・ゴードンQBコーチが、コルデイロを「Xリーグ史上最高の米国人QB」と評価していたという。富士通に来る前は、米国の数多くのカレッジでQBコーチやオフェンスコーディネーターを務めてきた大ベテランコーチの高評価だった。

確かに、試合前半のQBコルデイロのパスは水際立っていた。

第1Q、最初のオフェンスシリーズ。ファーストプレーで、WRジェイソンマシュー・シャーシュへのクイックスラントがヒットして13ヤードのゲイン。これで波に乗った。パスが立て続けに成功して、ゴール前へ進んだ。仕上げは、コルデイロ自らキープ、18ヤードをゲインして、ゴール左隅に先制TD(タッチダウン)を挙げた。
【富士通vs富士フイルム海老名】第1Q、富士フイルム海老名QBコルデイロが先制のランTD=撮影:小座野容斉

次のドライブでも、富士フイルム海老名は10プレーで76ヤードを進んだ。TDまで8ヤードと迫りながら結局FGも失敗した。このドライブのコルデイロのパスは4/7で、決まればTDだった失敗があった。

第2QのTDが秀逸だった。シュアハンドなWR安達絹心へ3本連続で通すと、長身の小山昭瑛、さらにジェイソンマシューにもパスが決まった。このドライブのパス失敗は1回だけ。最後はコルデイロがインサイドを突いてランでTDを奪った。

前半、コルデイロのパスは17/21で成功率81%。さらに自らのランも含めて、ファーストダウンを14回も更新し、237ヤードを進んだ。前半の攻撃時間は富士通7分11秒に対して、富士フイルム海老名は16分49秒だった。

コルデイロの持ち味はクイックリリースだ。長いパスを狙わず、ショート、ミドルのパスをタイミングよくレシーバーに決めていく。加えて、ラン能力がある。40ヤード4秒6のスピードだけでなく、パスからランに切り替える判断も優れていた。

強敵・富士通に爪痕を残す
【富士通vs富士フイルム海老名】第2Q、富士フイルム海老名QBコルデイロが2本目のTD=撮影:小座野容斉


後半は富士通が、ブリッツ、DLのスタンツなど、多彩なディフェンスで、コルデイロを苦しめた。富士フイルム海老名は、切り札のDLテレンス・レーンを負傷で欠いていたディフェンスも息切れし、逆転を許した。ランが比較的非力で、リードされてからは、さらにパス一辺倒となった。

富士フイルム海老名のオフェンスは、パスでは282ヤードと、268ヤードの富士通を上回ったが、ランは27ヤード、112ヤードの富士通に完敗だった。

ただ、最終的には敗れたが、この試合の特に前半のフットボールは、富士フイルム海老名にとって、大きな収穫だった。

過去10年で日本選手権・ライスボウルを7回優勝した富士通は、富士フイルム海老名から見れば、立ちはだかる巨大な壁そのものだった。トップリーグ(昨年まではX1スーパー)に昇格後、2年連続で秋シーズンの開幕戦で戦い、7-36(2024年8月)、0-37(2025年8月)と完敗していた。その相手に爪痕を残すことができた。

この試合では、レシーバーユニットの集中力が光った。ハワイ大でコルデイロと共にプレーしたジェイソンマシューが、ホットラインとして機能。10レシーブ130ヤードを記録した。富士フイルム海老名のチーム歴が長い安達や小山の他には、今季加入の2人、開幕戦でTDパスを決めた山口基樹、米国育ちで英語はネイティブな今中希も良いレシーブを決めた。

コルデイロのパスが決まれば、プレミアの上位チームとも十分に戦える。そういう手ごたえを感じさせる試合だった。

タゴバイロアの控えQBだった高校時代
【富士通vs富士フイルム海老名】富士フイルム海老名QBコルデイロのパスは前半、絶好調だった=撮影:小座野容斉


コルデイロは1999年1月生まれの27歳。ハワイのセントルイス高校時代は、最初の3シーズン、プレー機会がなかった。1学年上のQBが、あのトゥア・タゴバイロアだったからだ。既に全米レベルのスターだったタゴバイロアは、名将ニック・セイバンが自らハワイまで足を運んで、アラバマ大へリクルート。アラバマ大、そしてNFLのマイアミ・ドルフィンズで名を馳せた。

それに引き換え、コルデイロは地味だった。3シーズンのバックアップの後、高校最終学年だけスターターに。10試合でパス3157ヤード、29TD・8INT、ラン454ヤード10TDという傑出した成績で、チームも10戦全勝だった。しかしスカラシップは地元のハワイ大からしかなかったという。

ハワイ大で4年プレーしたのち、サンノゼ州立大へ転校。レッドシャツの1年と、新型コロナ感染症による特例で、2シーズンが残っていた。コルデイロはここでブレークした。2022年はパス3251ヤード、23TD・6INT。2023年はパス2773ヤード、20TD・4INT。ランでも2シーズンで537ヤード12TDを記録した。

カレッジ通算では、61試合出場、先発した46試合は27勝19敗だった。22年には、SECの強豪オーバーン大を破ったし、NFLに進むタレントが揃うUSC(南カリフォルニア大)相手に、敗れたもののパスで3TDを奪ったこともあった。この時のUSCのQBは、前年のハイズマントロフィー受賞、ケイレブ・ウィリアムズ(現シカゴ・ベアーズ)だった。

パス・ラン合計1万3811ヤード、113TDはカンファレンス記録
【富士通vs富士フイルム海老名】米カレッジ時代はパスとランの合計でカンファレンス記録を作った富士フイルム海老名QBコルデイロ=撮影:小座野容斉


ハワイ大とサンノゼ州立大は、同じマウンテン・ウェスト・カンファレンス(MWC)に所属する。2大学で記録したパスとラン合計1万3811ヤード、113TDは、MWCの記録となった。実績面なら、「Xリーぐ最高」というゴードン前富士通コーチの評価も頷ける。


2024年のNFLドラフトはQBが豊作で、1巡で6人が指名されるほど。コルデイロは指名がなかった。UDFA(ドラフト外FA)でシアトル・シーホークスへ進んだが、わずか10日で退団した。NFLへのチャレンジはここで断念した。

その後、春季プロフットボールのUFLを経て、昨年夏、富士フイルム海老名にたどり着いた。しかし、1年目の昨シーズンは苦労した。まだOLが弱く、プレッシャーにさらされた。レシーバーの落球も多かった。レシーバーに合わせたパスを投げればインターセプトされた。Xリーグは甘くなかった。

来日する前から、youtubeでコルデイロの米カレッジ時代の優れたプレーを何試合も見ていただけに、愚問と承知の上で尋ねずにはいられなかった。「USCのディフェンス相手に、素晴らしいTDパスを決めたあなたが、どうしてこういう結果になるのか」と。

コルデイロは、淡々と「フットボールは1人でプレーしているわけではないから」と答えた。そして「カレッジフットボールのように、シーズン中、毎日練習出来たら、ずいぶん違うのだが」と、これまた当たり前の答えを付け足した。

物事に動じない、一喜一憂しないマインドセット
【富士通vs富士フイルム海老名】第1Q、富士フイルム海老名QBコルデイロが先制のTD=撮影:小座野容斉


Xリーグでプレーした米国人QBの中でNo.1かどうかは筆者にはわからない。まだシーズンは始まったばかりだ。ただ、今までにいなかったタイプのQBであることは確かだ。

ステレオタイプかもしれないが、米国人選手は、朗らかで笑顔を絶やさず、積極的に人の輪に加わり、その中心となる。わかりやすい例が、SEKISUIチャレンジャーズのQBで主将のギャレット・サフロンだ。

コルデイロは違う。喜怒哀楽を表さない。ハドルでは後ろに立ち、皆の意見を黙って聞いている。チームの記念撮影でも最後列にひっそりと立つ。よく話をして、コミュニケーションは取っているが、人中で目立つ存在とは言えない。

富士フイルム海老名は、若い、成長途上のチーム。完成された強豪ではない。だからこそ、QBはチームの中心としてふるまい、選手たちをけん引してほしい。そんな歯がゆさを感じることもある。

ただ、富士フイルム海老名の松井孝夫GM(ゼネラルマネージャー)の見方は違う。「シェバンの、物事に動じない、一喜一憂しないマインドセットこそがQBに向いている」という。

松井さんは、1989年のミネルヴァ立ち上げ以来、常にチームに関わってきた。今は4人の米国人選手の「日本のお父さん」として、生活面でのサポートも担当している松井さんだが、1970年代の関学大黄金期に名DBとして活躍した。その見立てに間違いはないのだろう。

Xリーグで米国人QBが活躍するようになったのは、2012年、IBMビッグブルーのケビン・クラフトが最初だった。今年で15年目、今はどんなに凄いQBが来ても、簡単には結果は出せなくなった。

コルデイロは最初の谷が深かった分、これから高い山を築くのではないだろうか。彼の本来の能力は、まだまだこんなものではないと見ている。

「4クオーターを通じて、戦い抜く」コルデイロ一問一答
【富士通vs富士フイルム海老名】活躍はしたが試合には敗れ、コルデイロは悄然としていた=撮影:小座野容斉


富士通戦の後、QBコルデイロに話を聞いた。

ーーこの試合のパフォーマンスをどう思うか。

最初は好調だったと思うけれど、フットボールは、4クオーターを戦うゲーム。最後までやり切ることができなかった。

スタートは良かったし、やっていたことはすべてうまくいっていた。でもハーフタイム後の(オフェンスの)出だしが鈍く、後半は得点ができなかった。(反対に)富士通の後半のオフェンスは勢いよく出てきた。

我々はアジャストできなかった。前半と同じプレーを繰り返して、その中で、前半うまくいっていない部分を修正するべきだった。彼ら(の守備は)はアジャストしてきたのに、僕らが後半にやっていたことは、すべて、アジャストができていなかった。

ーーランプレーが課題だが

ランプレーについて話すのは私の役割ではない。それはオフェンスコーディネーターの仕事だ。ただ、ある種のバランスの取れたオフェンスを構築しなければいけない。結局のところ、富士通のオフェンスは後半、まさにそれをやっていたからね。

富士通のDLは、我々がパスを出すと分かっていたから、ただパスラッシュをかけていた。だから、彼らは後半、僕にたやすくプレッシャーをかけることができたのだと思う。

今日の試合から学ばなければいけない。去年とは全く違う試合ができた。実際、前半は試合に食い込んで、リードを奪った。後半も含めて、我々が今どんなチームなのかをまさに示した。今日のミスから学ばなければいけない。

ーー次戦のシルバースター戦に向けて

4クオーターを通じて、戦い抜くのだ。そう、次の試合は絶対に勝たなければいけない。我々が「輝く銀の星」にならなければいけないし、春のシーズンを2勝1敗で締めくくらなければならない。

【小座野容斉】

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事