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2026-08-06

【陸上】U20世界選手権女子100mH高校記録保持者の藤田紗季が「居残り練習」で強化されたスプリントで世界に挑む

北信越大会で高校記録となる13秒20をマークした藤田がU20世界選手権に挑む(写真/黒崎雅久)

8月5日からU20世界選手権がオレゴン(アメリカ)で開催。代表に選ばれた高校生はインターハイを回避して、U20世界選手権に出場する。世界に挑む日本代表選手のなかから、注目選手を紹介していく。

藤田が体感した2台目のスピードとハードル間の素速い刻み

衝撃のパフォーマンスだった。インターハイ北信越予選の女子100mHで藤田紗季(敦賀高2年・福井)が13秒20(+1.8)と、高校記録の13秒29を0秒09も更新した。5月に13秒38(+1.9)を出してはいたものの、昨年のインターハイ、国スポで優勝争いをした実績はない。

だが藤田自身はその気でレースに臨んでいた。

「日本高校記録を更新したい、絶対に(13秒38より)もっと行けると思ってやってきました」

自己記録を大幅に更新できる根拠は何だったのか、という質問には1週間前の日本選手権の経験を挙げた。予選3組で4位(13秒45、+0.1)。「準決勝に進めずめっちゃ悔しかったんですけど、会場の雰囲気とかで、もっと頑張らないとな、っていう勇気をもらって、それで頑張ることができました。1週間は調整練習だけでした。技術とかではなく、気持ちが変わっただけだと思います」

レース中の動きは明らかに変化が生じていた。藤田自身が一番感じたことは、2台目のスピードだった。男子110mHも同様だがスプリントハードル種目は、2台目までの区間タイムが3台目以降より遅くなる。ところが北信越予選の藤田は、「いつもは1台目から2台目でスピードが落ちちゃうんですけど、そこが落ちずに行けた。そこがすごくよかったです」というパフォーマンスができた。

インターバルも「結構さばいて走ることができて、いつもより速いな」と感じた。「今日はスタートから上手くできて、そこから1台目が上手く入れて、それが後半にもつながったと思います」

ハードル間がいつもより速いスピードになっても、踏み切り位置が「近くなることはなかった」と藤田。敦賀高の橋本洋監督が藤田の能力の1つとして、「アジリティ(巧緻性)の高さ」を挙げたが、高校新のレースでもそれが発揮された。

高校新に結びついた敦賀高の練習は?

藤田はどんな練習を行って高校新を出したのだろうか。橋本監督は藤田だけの特別なメニューではなく、「敦賀高の2年生がやるべきメニューを行っているだけ」だと強調する。

藤田自身は朝練習で毎日行っているハードルドリルが、ハードル間を「速く刻む動きにつながっている」と言う。木原靖之前監督の頃から15年以上、敦賀高のハードル選手全員が行っているメニューである。敦賀高では藤田を含め、13秒台の選手が6人誕生してきた。

橋本監督は100mの能力アップも要因の1つだと言う。「100mのタイムが伸びてくれば脚さばきが速くなり、ハードリングの速いさばきにもつながります」。藤田自身も「100mが0秒5くらい上がって、100mHのタイムも0秒5くらい上がりましたね」と話す。昨年のシーズンベストは12秒66(+1.3)と13秒81(-1.6)、今年は7月18日時点で12秒24(+1.6)と13秒20(+1.8)だ。

橋本監督は100mHでも、「100mのようなスタートダッシュをして、そのなかにハードルがある、みたいに行けたら12秒台も行けるんじゃないか、と藤田と話していました」と明かす。それが上手くいったことで2台目のスピードが、いつもより上がっていたのだろう。

藤田本人は100mが速くなった理由の1つとして、「居残り練習」を挙げる。「土日は朝の8時半から練習を始めてお昼までなんですが、自分のやりたいことができなかったら、午後の3時くらいまで練習します。例えばサーキットの練習が最後に組まれていた場合は、サーキットの動きをやって、それが走りにつながって納得いくまで練習することがあります」

選手自身が何をやるかを自分で考え、納得する動きをするまで練習する。日頃からコーチ陣と選手がしっかりコミュニケーションを行っているからできることだろう。この練習だけは「フリー練習」と位置付けられ、選手個々でやることは違ってくる。

藤田は「先生にいろいろなことを聞いたりすること」も、脚が速くなった理由に挙げている。チーム全員が行うメニューで基礎となる部分のベースアップはなされるが、指導者とのコミュニケーションや日本選手権の経験などで、他の選手とは違う藤田の能力が引き出された。

U20世界選手権出場で期待できる成長の加速

北信越予選の13秒20でU20世界選手権代表選考規定をクリアした藤田は、「高校新記録で決着すると思う」と話していたインターハイを回避。U20世界選手権出場を選択した。決断の理由を橋本監督は「インターハイは来年もありますし、将来的に見て、世界を見てくる機会があるのであれば、その体験を大事にしたいと考えました」と説明する。

敦賀高は14年のU20世界選手権(当時・世界ジュニア選手権、開催場所は今回と同じ米国ユージーン)に北川貴理が出場し、4×400mRの3走で銀メダルを獲得。帰国した翌日に甲府インターハイ400mに優勝し、翌15年の北京世界選手権代表に成長した。

女子100 mHの過去の上位成績を見ると、条件が良ければ3~4人が12秒台を出すこともある大会だが、準決勝は13秒4~5台で通過できる。メダルはやってみないことにはわからないが、入賞は十分期待できる。

しかし藤田陣営は、「私も含めて未知の大会に挑むことになるわけで、特にタイムや順位は考えていません。未知なところを体験する中で、今後に生かしていける」(橋本監督)と、結果にこだわらないスタンスで臨もうとしている。

インターハイ北信越予選も、高校記録ではなく「自己記録が出る」(橋本監督)という結果を敦賀高コーチ陣は予想していた。自己記録は13秒2台と限定する必要はなく、「12秒台も行けるかもしれない」とスタッフ間では話し合っていたという。普段の練習を見ている立場の人間からすれば、その選手が成長していることがより重要に感じられるのだろう。

北信越予選前の日本選手権も、U20世界選手権と同様に目標は設定しなかった。思い切り挑戦した結果、準決勝には進めなかったがメンタル面で大きく成長することができた。1週間後の北信越予選に藤田自身は高校記録を目標に出場し、周囲の予想を大きく上回る結果を出した。

U20世界選手権出場も同様の成果が期待できる。

「世界を経験したいと言いながら、そこになかなかたどり着けない選手が多いなか、本当に貴重な経験ができます。その機会を大事にしたいと思っています」(橋本監督)

先輩の北川は、U20世界選手権から帰国した翌日にインターハイの会場に到着し、橋本監督に「記録会みたいですね」と話したという。日本選手権の経験から1週間で動きが大きく変わった藤田が、U20世界選手権を経験することでどう変わるか。「来年は絶対に12秒台を出したい」と話す藤田の成長が、さらに加速する可能性がある。

文/寺田辰朗 写真/黒崎雅久

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