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2018-09-09

偉大な先輩たちに続いた慶大・永田駿斗 日本インカレ男子100mⅤ 長い時を経て再び頂点に

9月6~9日に行われた日本インカレ。男子100mは、日本代表の多田修平(関学大)や宮本大輔(東洋大)らに注目が集まるなか、慶大4年の永田駿斗が頂点に立った。

写真:日本インカレでライバルたちを抑えて優勝した永田(右、写真/中野英聡)

自分の走りに徹して先輩に続く日本一

 トップでフィニッシュしたのを確信すると、高々と一本指を立てた。そして、男泣きした。

 大学日本一を決める日本インカレ。男子100mを制したのは永田駿斗(慶大4年)だった。予選から明らかに好調で、向かい風2.2mのなか自己記録10秒36に迫る10秒39をマーク。準決勝では10秒31(-0.3)と自己ベストを更新した。

「昨年までは自分の走りをしても勝てないと思っていました。でも、今年は予選、準決勝を終えて、自分の走りができれば勝てると思いました」

 スタートが得意の多田修平(関学大4年)が飛び出すのは想定していた。あとは最後までリラックスして走るだけ。多田や昨年3位の竹田一平(中大4年)や宮本大輔(東洋大1年)らが追ったが、良い意味で力感のないスムーズな走りでフィニッシュ。10秒34(-1.4)で、最後のインカレで初制覇だった。

 今季、永田は慶大の主将を務めている。先輩には、山縣亮太(セイコー)、小池祐貴(ANA)がおり、共にインカレのタイトルを獲得し、現在は日本代表で活躍。「少しでも近づきたかった」と刺激を受けていたという。

 4年目にしてうれしいタイトル。永田にとって、高1の国体少年B200m以来の日本一。「ずっと長崎から応援に来てくれた両親に感謝したいです」と喜びを語った。

久しぶりの日本一に感情を爆発させる永田(写真/中野英聡)

エリートスプリンターの挫折

 永田は小学生時代から常に世代のトップを走ってきた。小4で陸上を始め、全国小学生100mは5年で2位、6年で4位。2011年の奈良全日中では100m優勝、200m3位と結果を残した。諌早高に進学後も、国体優勝、世界ユース出場と順風満帆かに思えた。

 だが、少しずつ同世代や後輩たちとの差がつまると、高3のインターハイでは100m・200mで入賞を果たすが、下級生にタイトルを奪われてしまう。「いつも春先に注目選手で取り上げてもらっているのに、結果が出せずにすみません」と言ったことも何度もあった。

 高校を卒業し、「自分で考えて陸上をやってみたい」と、AO入試で慶大に進学。しかし、「なかなかうまくいかなかった」と振り返る。

 それでも、地元・長崎在住のトレーナーで長く見てもらっている林田義博さんのウェイトトレーニングなどで、華奢だった体も少しずつできてきた。そんななかで、永田にとって忘れられないレースを経験する。

 昨年6月の学生個人100mの準決勝。追い風4.5mのなか、多田が9秒94をマークしたレースだ。永田は同じ組で走り、はるか前を行く多田の背中を見ていた。

「一緒に走っていてショックを受けました。悔しくて悔しくて、1週間くらい寝つけませんでした」

 同級生が見せた衝撃的な走りが、永田にとって大きな転機となった。

臼井コーチとの出会い

「最終学年を迎え、勝負弱い自分を変えたいと思っていました。関東インカレのあと、小池さんに声を掛けていただいて臼井さんに指導を受けることになりました」

 小池がアジア大会200mを制すほど躍進を遂げた一つに、臼井淳一氏の指導を受けた背景がある。走幅跳の元日本記録保持者で陸上界の“レジェンド”の一人だ。その指導法はこれまでの永田の考えを180度変えた。

「これまでトップスピードで行っていた練習を『いかにリラックスして走るか』と指導されました。まったく逆の考えだったんです」

 昨年5月に指導を受け始め、最初は「スピードを上げていなくて、こんなので大丈夫かな?」と思うこともあったが、7月のトワイライトゲームズに出場すると感覚の違いに驚いた。

「接地したときに脚や骨盤の動き、腕振りのタイミングなどを合わせれば推進力が出ました」

 大学3年間で培ってきた土台に、臼井コーチの指導が完全にハマった。

 久しぶりの日本一。永田は支えてくれた人たちへの感謝を何度も口にした。「両親にメダルを渡すとすごく喜んでくれました。少しは恩返しができたと思います」。スプリントの“エリート選手”の多くが歩んできた“早熟”という言葉との戦いに勝った。

「多田や竹田の存在はもちろん、同じ全日中を戦った大野晃洋(東洋大4年)が関東インカレのリレーで勝ったりして、同級生が諦めずにやっている姿を見て、自分も頑張ろうって思えました」

 競技を続ける環境は決まっていないが、これからも永田は走っていく。

「正直、まだ日本代表どうこういえるほど今のトップは甘くない。まずは10秒2台を目指して、先輩たちと戦えるようになりたい。そうすれば来年以降につながっていくのかなと思っています」

 腐らずに、地道につくり上げていけば、いつか必ず道は開ける。永田の復活劇は、多くの選手たちにとって確かな光となるはずだ。

文/向永拓史

準決勝では10秒31と自己ベストを更新。次は10秒2台を目指す(写真/大賀章好)

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