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2017-11-19

自分は堅く考えすぎていた! 陸上競技の可能性を感じさせられたプレスリリース、の巻。

駅伝シーズンの始まりは、1年の早さを実感するタイミングでもある。

 だが、自分にはシーズンの終盤に思えても、マラソンや駅伝がある長距離選手の本番はまだまだ続く。

 駅伝では、1区の選手は全員が同時にスタートするが、2区以降の選手は、タスキを受けた順に走り出していく。

 追いかけることで力を引き出される選手もいれば、他の選手と並んで走るときにこそ力を発揮する選手もいる。なかには、トラックレースでのタイムはそれほど良くはないのに、逃げもせず、追いかけもせずに一人でひたすら同じペースで走り続けることで順位をキープする選手もいるのだから面白い。

 前を行くチームとのタイム差と選手の走力に加えて、こうした選手個々の特徴を加味すると、かなり正確に最終順位を予想することができる。

「アンカーまでに、2位と1分差はほしい」「50秒差以内なら追いつけると思う」といった指揮官のコメントは、ライバルチームの選手を徹底的に分析した上でのものだ。

「毎分◯mで学校に向かっているAさんを、Bさんが毎分◯mで追いかけている。BさんがAさんに追いつくのは何時何分?」

 小学生のころの算数の問題。足し算や引き算、掛け算や割り算といった単純な計算は得意でも、旅人算(たびびとざん)と呼ばれるこの手の文章題では、とたんに鉛筆が止まってしまった。

駅伝中継を見ながら、当時のことをあれこれと思い出していた。

 だが、いつまでも感傷に浸っていられる職場ではない。気持ちを切り替えてメールを整理していると、こんなリリースが届いていた。

10km抜かされずに逃げ切れるか?
世界レベルの最速ランナーと真剣勝負 
「THE RUN AWAY」開催決定!!
2017年12月9日@荒川河川敷(東京都江戸川区)

tres.co.jp

 オリンピック男子マラソンで2大会連続のメダルを獲得したエリック・ワイナイナとサイラス・ジュイという世界的なランナーに追い掛けられながら、10kmの距離を逃げ切れるかを競うイベントだという。

 各自の予想タイムごとにスタート時間に差をつけて、全員が世界レベルのランナーとの真剣勝負を経験できるのがミソ。果たして、逃げ切れる人はいるのだろうか──。

 ちなみに、10kmの予想タイムとスタート時間はこうなっている。

筆者が独自に作表

 最速ランナーのスタート時間は発表されていないが、規則性から判断して、正午と仮定する。

 仮定する? なぜ?

 ……。

 お察しかもしれない…。

 そう。「旅人算」に取り組むべく、ペンを取ったのだ。


 最速ランナーの持ちタイムはいずれも世界レベルだが、計算のしやすさを優先して、ここでは10kmを30分で走ると仮定する。

 この情報をもとに、最速ランナーから逃げ切るために必要なタイムを一緒に計算していただきたい。目標時間は、最速ランナーと同じ30分としよう。配点は、これ1問で100点の大盤振る舞いだ。

問(配点:100点)

A、B、Cの3つのグループが10kmのロードレースに参加した。グループAのスタートから10分後にグループBがスタートする。グループBのスタートから10分後にグループCがスタートする。そして、グループCのスタートから10分後に最速ランナーがスタートする。最速ランナーが10kmを30分で走る場合、追いつかれずにゴールできる人のタイムを、グループごとに計算せよ。


 果たして結果は…。
 それでは、スタート。

・・・計算、なう。

計算をしている間に、リリースの内容をもう少し詳しく見てみよう。

 情報の発信元はトレスという会社で、ユニフォームの製造販売に加えて、スポーツイベントの企画運営もしているという。やはり、だ。

 同時スタートなら息も切らさずに優勝してしまうはずのランナーを「最速のChaser(追っ手)」と位置づけて、逃げ切れるか? と市民ランナーのノド元に迫ってくるあたり、やり手のプランナーによる発想だと直感していた。

 陸上競技の「走る」を少しアレンジするだけで、こんなに面白そうなことができるとは。陸上競技を堅く考えすぎていた自分に気付かせてくれた意味でも、記憶に残るプレスリリースになるだろう。

 荒川河川敷は市民マラソンや駅伝大会が行われる会場で、都営新宿線の東大島駅から徒歩10分とアクセスも良い。参加者の募集期間は11月26日までの先着500名。この原稿を書いている11月19日時点では、まだ応募が可能なようだ。

 この時期の東京は快晴の日が多い。イベントが行われる12月9日は過去10年間、一度も雨が降っていない。今年も、予報は晴れだ。

では、そろそろ時間である。

 筆記具を置いて、回答用紙から手を離していただこう。

【解答】
グループA:60分未満
グループB:50分未満
グループC:40分未満

 一見難解な問題には解法があるのが常で、旅人算にも「追いつくまでにかかる時間=2人の距離÷2人の速さの差」といった公式がある。計算をしてください、と求められると、つい、こうした公式を駆使することを考えてしまいがちだ。自分自身、最速ランナーのスピード計算から始めてしまった。

 だが、今回は、もっと簡単な方法があった。各グループごとに、最速ランナーと同時にゴールする人に注目するやり方だ。

 例えば、グループAは最速ランナーより30分先にスタートする。最速ランナーがスタートする時点で、すでに30分走っているわけだ。それを追いかける2人は10kmを30分で走るわけだから、10kmを60分で走る人がゴール地点で最速ランナーに追いつかれることになる。

 グループBについても同じやり方ができる。20分先にスタートしたランナーのなかで、10kmを30分で走る最速ランナーと同時にゴールするのは、10kmを50分で走る人だ。

 グループCについても、もちろん同じ。
 これを表にまとめると、わかりやすいかもしれない。

 答えを見れば拍子抜けしてしまうが、もちろん、ランナーの時速を計算して求めるやり方だって間違いではない。

 答えは1つでも、たどり着き方は1つとは限らない。あの頃の自分に会えるとしたら、そう、伝えてやりたいと思う。

 プレスリリースをここまで楽しんだことは、ないかもしれない。イベントの当日が快晴であることを願いながら、ペンを置くとしよう。

■「THE RUN AWAY」公式サイト
https://tres.co.jp/therunaway/

■株式会社トレスの公式サイト
https://tres.co.jp/

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