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2017-12-01

【トレマガ研究会】 第1回 「人類、皆スクワット!」

『トレーニングマガジン』における老舗連載の1つ、研究会シリーズ。リニューアルして続編も登場しましたが、Vol.52をもって大団円を迎えました。6年半にわたって、編集部から提示したお題に対して「あーでもない」「こーでもない」と激論を繰り広げた4人の研究員たち。このまま眠らせるのはもったいない! というわけで、web上で復活します。今回はもちろん、記念すべき第1回をレビュー。テーマはキング・オブ・エクササイズ・スクワットです。研究員の若さにも注目!?
(取材・構成/鈴木彩乃、撮影/黒崎雅久)
※本稿は『トレーニングマガジン』Vol.16(2010年12月22日発行)に掲載の「それゆけ!スクワット研究会」の一部を再構成したものです。

SQの目的とは?

(写真左から)朝倉研究員、遠山研究員、澤木研究員、伊藤研究員

澤木 まずは伊藤研究員が歴史に関して調査をしてきてくださったようですね?
伊藤 えぇ。スクワットは人類の間で、いつから行われていたのか、調べてまいりました。
遠山 なるほど。昔から、下半身に効くと言われていたんですか?
伊藤 実はですねぇ…当時は下半身にフォーカスしていたわけではなかったらしくて。むしろ、スクワット動作はあまり重要ではないのでは? と言われていたほどです。けれども、雑誌『アイアンマン』の創始者であるペアリー・レイダー氏が、1950年の同誌で「スクワットこそ下半身にプラスになるのではないか?」と提言したことをきっかけにして、下肢にフォーカスされるようになった、と。
遠山 かなり調べましたね(笑)。
澤木 スクワットは「キング・オブ・エクササイズ」と呼ばれます。朝倉研究員、アメフトの現場ではどういう位置づけになりますか?
朝倉 体が弛むことなく相手、そして地面に力をぶつけられるようにするためのエクササイズと位置づけています。アメフトの場合、体幹部が強い力を出せる位置できちんと固定したまま、肩や股関節をパワフルに使えることが大前提です。スクワットのもつ、縦方向に加重して下肢からの力を漏らさずに伝える動き、そして重量物を上下させる動きは、パワーを鍛える環境づくりにもってこい。スクワットの動きはスポーツに対して特異的な動きではありませんが、特異的な動きをするために必要な環境をつくるのに必要不可欠なんです。だから「キング」なのだと考えます。
澤木 フロントスクワットをメインで指導していると聞きました。
朝倉 最も重要なのは、力を出すことそのものではなく、力を出せる環境づくり。自分で背骨と骨盤を一体化させた上で、股関節を動かす能力をつけることが目標です。しかし、前傾姿勢が強ければ強いほどエラーが出やすい。そのため、前傾角度の少ないフロントスクワットをメインにしています。副次的な効果として、アメフト選手でわかりやすいのは力を伝える方向。彼らは自分の前方に向けて力を伝えること、特に掴んで力を伝えることが多い。だから、部位を固定したまま力を伝達させるスキルを体に教え込ませるのに、フロントが有効なんです。
 あと、これらの効果を求めてつくったのがリバースグリップ・スクワットなんですが、実は違う効果もありました。1つは、動き的に体軸から離れていくので、相対的に体を起こした状態で行えること。もう1つは、体が前に倒れていこうとするのを留めるには、骨盤からの複合体として角度をつけて一括して戻さないと不可能という点。バックスクワットで力を伝えることができないと、腰椎もしくは胸椎から角度をつけようとしてしまいがちで、違いも感じづらいんです。
遠山 僕はスキー連盟の科学サポート部会に身を置いて、モーグルとスノーボードを指導しています。スノーボードにはアルペン、クロス、ハーフパイプと3つあり、特にハーフパイプとモーグルは、エンターテインメントの延長線上に生まれた種目で、トレーニングの習慣がなかった。それでトリノ・オリンピックの2年前に、監督から「チームにトレーニングの習慣をつけてほしい」と依頼されました。
 彼らは、トレーニングが楽しいと感じられないと続けてくれません。鍛えている感と速攻性があり、楽しいと思える種目といえば、ベンチプレスかスクワット。そこでスクワットは重量をターゲットにせず、全身に効かせて股関節を大きく使うようスタンスはややワイドに設定しました。ただ、それを取り入れると、行うべき種目が少なくなるんです。だから初期はベンチプレス、スクワット、デットリフトで回していました。そのため、僕にとってのスクワットは、選手たちに楽しくトレーニングさせるための導入ツール。今は彼らもトレーニングをする集団となったので、ウオーミングアップにスクワットを用いています。
朝倉 全身に効くので、体が仕上がりますよね。
澤木 僕はアップでヒンズースクワットを200~300回やってから、通常のトレーニングを始めています。
遠山 澤木研究員は回数でなく、時間で区切るときもありますよね?
澤木 はい。30分でちょうど1000回できるんですよ!
遠山 興味深い話があって、30分間連続してスクワットを行ったとすると、前半15分より後半15分のほうが、回数が多くなるそうです。体の使い方も、徐々にうまくなっていくんでしょうか。
朝倉 自分は最近「たくさんシリーズ」というのをやっていまして、いわゆるハイレップスの10倍くらいを…。
一同 いやいやいや!! 
伊藤 サラッと、すごいことを言いましたよ、今(笑)。
朝倉 そうですか? スクワットなら運動休息比を1対2。例えば、4レップで10秒弱。20秒ほど休んで30秒前にスクワットをセット、トータル25分。これがとてもいいんです。私くらいの年齢になると、体のいろいろなところにガタがくるじゃないですか。だけど徐々にコーディネーションがよくなり、股関節や膝の動きの調子もよくなるし、痛みも出にくくなりました。当然、筋肉痛はすごいですが(笑)。
澤木 一番の目的は何ですか?
朝倉 関節の安定化と動きの環境づくりです。クイックリフトにしても、もう少し重たいスクワットにしても、いろいろなことができる環境づくりをしたかったんです。

SQ都市伝説を斬る!

伊藤 実は私、かつてジャズダンサーをやっておりまして…。トレーナーに転向したきっかけは、自分自身のケガでした。トレーナーさんにお世話になったことで、自分でも勉強を始めたのですが、ダンサーって本当にトレーニングをしないんです。女性が多い世界ですから、スクワットを提案しようものなら「脚が太くなる」と怒られます。
 障害予防も遅れていますね。ジャズダンスはクラシックバレエが原点なので、股関節を外旋動作させるのですが、この動きがしっかりできていないと、どんどんニーインして悪い方向にいってしまうのですよね。ちゃんとした動きを覚えるためには、スクワットやデットリフトを行うべきだと教えました。半信半疑だった仲間も、指導した通りに行うことでケガが減り、疲れにくくなったという事例が出てきました。アミューズメント・エンタメ業界もスクワットを取り入れていくべきです!
澤木 確かにスクワットの重要性って、一般には伝わりにくいですよね。罰ゲームとか、悪いイメージがあるのかも?
伊藤 空気イス、とか?
遠山 それにしても脚が太くなるって…もはや都市伝説。でも、都市伝説といえば、やっぱりアレ、ですよね(苦笑)。
一同 膝をつま先より前に出すな!
遠山 どうやっても膝は出ますよ。
朝倉 出ないようにするには重心が脚の上にこないといけないから、かなり前傾する必要があります。関節がきちんと動く人ならいいですけど、動かない人だったら、骨盤が倒れないのに重心を前にもってこようとして…それが「理想のスクワット」?
遠山 逆に、重要なのに言われていない注意事項として、足裏を床にべったりつけること。現場では、膝より足の裏を重視した指導をすべきです。
澤木 私は基本、一般向けにフィットネス指導をしていますが、そのなかでスクワットは、高齢者であればあるほど重視する種目です。年配の方は「年を取ったから、私はもう運動しなくてもいいの」と考えがち。でも、だからこそ衰えないためにやるんですよ、と。片脚でのスクワットやルーマニアン・デットリフトは、70歳オーバーの方でも練習すればできます。多くの方が驚かれますが、私に言わせれば、レッグエクステンションをやらせるほうが罪ですよ。
朝倉 スクワットのほうが、圧迫力だから関節に優しいですしね。
伊藤 ピストルというシングルレッグ・スクワットも、高齢者に向けたセッションに有効です。変形性膝関節症で膝が痛いおばあちゃんに、「人間は地面に足をついて生きているでしょ? 階段を登ったり坂道を上がったり、片脚で自分の体重を支えることの連続です。最終的にはこういうことができるといいですね」と、ピストルを見せてあげる。すると「これができたら痛みも和らぐかしら?」と興味をもってくださいます。モチベーションを上げるための1つの要素。まさに、生きるためのエクササイズです。
澤木 私のイチオシはジェファーソンスクワット。失われたエクササイズの1つで、別名、ストラドル(straddle=またがる)スクワットです。バーをまたいで行う特異な姿勢が印象的ですが、なかなかに効くのです! 私はスノーボーダーのストレングストレーニングで採用しました。体幹・股関節を回旋したポジション、脊柱を前傾しすぎないフォームでのスクワットは、スノーボーダーにも有効でした。
遠山 僕はオーバーヘッドですかね。頭上に重さがあると体幹の不安定性を導き出すので、体の使い方をマスターさせるのに有効です。ただし、いきなりやってしまうと脱臼する危険性があるので要注意。指導する上では最終段階に近いですが、肩の柔軟性も高まるので推します。
朝倉 僕は、先ほども話したリバースグリップ。目的は2つあって、1つは体がより直立したポジションでスクワットできるよう、相対的に体をより前にもってくること。もう1つは体に前方回転のストレスをかけるため、それを体の体幹全部で抑えて、引き戻しながら体幹の安定性を取ること。下肢というよりも体幹固定のエクササイズですね。軽い重量でも体幹部にストレスがかかりますし、股関節と肩関節にも刺激が入る。アップにもいいですよ。

研究員が推す、次にくるSQ選。(左上から時計まわりに)遠山研究員「オーバーヘッド」、澤木研究員「ジェファーソン」、伊藤研究員「ピストル」、朝倉研究員「リバースグリップ」

日常生活、すべてがSQ!?

遠山 「スクワット」は「しゃがむ」「かがむ」という意味じゃないですか。ということは、その動きはすべてスクワットと定義できますよね?
伊藤 人類、皆スクワット。
澤木 電車で座れば、スクワット。
伊藤 座るのに必死なオバチャンはランニング、からのスクワット。
澤木 まだまだ日本も元気ですね!
遠山 しかし、お尻をしっかり使えるか使えないかは重要ですよ。普通に座る人は、大腿四頭筋優位で動いてしまいますから。
伊藤 理想の座り方としては…、ゆっくり椅子を探るように。
朝倉 もしかしたらガムが落ちているかも? くらい、慎重に。
澤木 画鋲があっても避けられるくらいの速度でようやく…着席!
遠山 「スクワット好きと公言する人は、本当のスクワットをやったことがない」との名言があります。本当にやったことがある人は、あまりのつらさに嫌いになるはずだ、と。
澤木 実際、我々もスクワットが好きか? と聞かれると…。
(一同 沈黙)
伊藤 …嫌な間です(苦笑)。
遠山 最初はつらさが先行しますけど、やらなきゃ逆につらくなる。習慣にしてしまえば、続けられますから。
澤木 トレーニングはニコチンと同じような習慣性があるらしいです。
朝倉 トレーニング外来、作ります?
澤木 ヒップアップしたいという女性、多いじゃないですか。目的を達成するにはスクワットをおいてほかにないのでは? 
朝倉 スクワットすることで、生活が股関節優位になるんじゃないかなと思います。すると、生活全体がヒップアップ効果を生むわけです。
伊藤 スクワットは、人生を変えるエクササイズということですね。
3人 おぉ~。
澤木 といったところで、今回はお開きにしましょう。合言葉は!?
一同 人類皆、スクワット!!

【PROFILE】(写真左から)
朝倉全紀(あさくら・まさき)…LIXILディアーズディレクターオブアスレティックパフォーマンス。CSCS、USAウエイトリフティング協会認定クラブコーチ、スポーツパフォーマンス。
澤木一貴(さわき・かずたか)…㈱SAWAKI GYM代表取締役、NESTA JAPAN理事。一般層からアスリート、バレリーナ、格闘家まで幅広い層にパーソナルトレーニングを実施。健康運動指導士。
伊藤謙治(いとう・けんじ)…エフ・フィットネス・サポート代表。主に一般向けフィットネス指導を行う。CSCS、JATI-ATI。
遠山健太(とおやま・けんた)…株式会社ウィンゲート代表取締役。一般社団法人健康ニッポン代表理事。CSCS。

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