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2017-10-11

解剖学・物理学・力学に 基づいた IH式トレーニングとは(3)

日頃はゴールドジムアドバンストレーナーとしてトレーニング指導に従事している、ボディビルダーの井上浩選手。「いかに筋肉をインプルーブさせ、より完璧な状態でステージに立つか」という飽くなき探求心と向上心が、ボディビルダー・井上浩を支えている。そんな井上選手のトレーニング哲学の根幹を成しているのが、いわずと知れた「IH式トレーニング」である。その詳細について、ご紹介いただいた(取材協力/日本体育大学 岡田隆准教授)
※本稿は『トレーニングマガジン』Vol.51~52に掲載の「トップビルダーのカラダづくり大解剖」を再構成したものです。

超高重量ネガティブワーク

 IH式の特徴の1つが、超高重量でネガティブオーバーロードをかけていくというもの。
 その効果を最も実感しやすいのは、背中のトレーニングだ。

 動きには「ポジティブ」と「ネガティブ」とがある。
 ポジティブワークとは能動的な動き、つまり重りを持ち上げようとする行動のことである。一方でネガティブワークとは受動的な動きを指し、重りを持ち上げた状態で懸命に耐えようとする行動のことだ。

「例えば300kgの岩の下に台を組み立てて、その下に潜り込めるスペースをつくった上で『持ち上げてみて』というのがポジティブワークです。
 ネガティブワークは、クレーンで300kgの岩を吊り上げ、立っている人の背中にのせて『今からケーブルを切るから、頑張って岩を持ってね』というイメージです。

ポジティブワークとネガティブワークのイメージ①
能動的に持ち上げなければならないポジティブワークに対して、ネガティブワークは強制的に持たされるイメージ(資料提供/井上浩氏)

 前者は台という支えがありますから、たとえ持ち上げることを諦めたとしても、300kgに押しつぶされることはありません。『無理です!』でおしまい。
 ところが後者は、たとえ潜在能力をすべて引き出して100%に近い力で抵抗したとしても、押しつぶされて死に至るはずです」(井上選手)

ポジティブワークとネガティブワークのイメージ②
高重量のネガティブワークによってフルパワーが引き出せることは一目瞭然(資料提供/井上浩氏)

 人間の最大パワーには、生理的限界心理的限界の2つが存在する。
 生理的限界を迎えたとき、ヒトは当然進化しようとするのだが、根性のない人間や諦めの早い人間の場合には、心理的限界が先にきて早々に折れてしまう。
 1人でトレーニングする際のポイントはここだ。
 すなわち、自虐的になって潜在能力をどれだけ引っ張りだせるか、ということである。

 このことから、ポジティブワークとネガティブワークのどちらがフルパワーを出せるかは、一目瞭然。耐えようとするけれども、それよりもさらに強大な力で押し戻される局面において、潜在能力の出し惜しみは絶対にしないからだ。

ベンチプレスやスクワットに効果があるのは、基本的にネガティブワークだからです。つぶれるという行為はここにヒントがあります。すなわち、ネガティブワークによって最大パワーが発揮される確率が必然的に高くなり、筋肥大に効果があるのではないかといわれているのです

IH式ラットプルダウン①

 井上選手が普段実施しているストライブマシンでのラットプルダウンは、両手で引っ張り、引っ張り切ったところで片手をリリースするというもの。
 両腕でなら下げられるが、片腕では止められない。重りに引っ張られるのを止められず、元の位置に戻っていくはずだ。
 これによって収縮位から伸展位までフルで動かすことになり、ネガティブワークだけれどもフルレンジで、絶対にオーバーロードがかけられるというわけだ。

ストライブのマシンを用いたIH式ラットプルダウン

「ポジティブワークであれば、気合いが入らないときや体調が悪いときも『今日は重く感じるな』『無理だな』で済みます。
 ところがマシンでのIH式ラットプルダウンを行う場合、片手をリリースすることで重量は倍に変わります。どんな人でも両手で発揮する力より片手で発揮する力のほうが絶対的に弱いため、もれなくオーバーロードがかかってしまうのです」

 ちなみに、マシンによるIH式ラットプルダウンのセットは、次のように組む。

 まず両腕では下げられるが片腕では止められない重量を設定する。
 両腕でバーを下げたら、一方の手のみ残してもう一方の手を離し、支え切れずに戻されることを6回。今度は同じことを反対側の手で6回。その次は両腕でさらに6回追い込む。
 ここでIH式ドロップセット法にのっとり、重量を下げて、両腕でより正確なフォームで6回追い込む。そして再び重量を下げ、両腕でさらに正確なフォームで9回追い込むのだ。(つづく)

PROFILE
いのうえ・ひろし
1962年、大阪府生まれ。96年以降、毎年ボディビル大会に出場し続けている。99~2015年日本クラス別選手権(90kg以下級もしくは90kg超級)17連覇。00年アジア選手権(90kg以下級)4位。02年ジャパンオープン優勝。日本選手権での最高位は8位(01年)。ゴールドジムアドバンストレーナー。

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