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2019-02-04

野球のコンディショニング科学 「除脂肪体重や体脂肪に着目した体づくり」

コンディショニングとは「目的を達成するために必要と考えられる、あらゆる要素をより良い状態に整えること」を意味する。選手それぞれが持つ個性をパフォーマンス発揮へとつなげるための情報を得て、しっかりと活用しよう。
※本記事はベースボール・クリニック2014年7月号掲載「野球のコンディショニング科学~知的ベースボールプレーヤーへの道~」の内容を再編集したものです。

文◎笠原政志(国際武道大学体育学部准教授)

第2回「除脂肪体重や体脂肪に着目した体づくり」

 野球選手の身体的特徴として、身長あたりの除脂肪体重が多いという点があります。

 ある高校の硬式野球部のスタメンメンバーの身長あたりの除脂肪体重を5年間計測したデータと、その年の都道府県大会における競技成績を合わせた結果を紹介します(表)。
 身長あたりの除脂肪体重の値が高い値を示している年のほうが、他年と比べて競技成績が高いことがうかがえます。

 もちろん、ただ体を大きくするだけで良い成績を収められるわけではありません。勝敗にはさまざまな要素が加味されます。ただ、前回紹介したように競技レベルが高いほど身長あたりの除脂肪体重が多いのは事実であり、これもチームのコンディショニングの目安の一つとしてとらえていただければと思います。

自分の身長当たりの除脂肪体重を計測してみよう!

 身長当たりの除脂肪体重を計測するためには、体脂肪量を求める必要があり、その体脂肪量を求めるためには体脂肪率の値が必要になります。最近の体重・体脂肪計の多くは体脂肪率まで計測されますが、体脂肪量までは数字として表れないものもあります。

 そこで、体脂肪量、除脂肪体重、身長あたりの除脂肪体重の算出方法をご紹介します。
 例として、身長170㎝、体重70㎏、体脂肪率15%の選手Aをモデルとして説明します。

 まず、体脂肪量を計算するには、体重のうち何パーセントが体脂肪なのかという情報が必要になります。そこで必要になるのが体脂肪率です。
 選手Aの場合は体脂肪率が15%なので、体重70㎏のうち15%は体脂肪であることが分かります。体脂肪率は15%(0.15)ですから、選手Aの体脂肪量は10.5㎏となります。

体重(kg)×体脂肪率(15%)=体脂肪量(kg)
[選手A:70×0.15=10.5]

 体脂肪量が分かったら、今度は体重から体脂肪量を引くことで除脂肪体重(LBM)を算出します。
 選手Aの場合は、体重70㎏から体脂肪量10.5㎏を引き、除脂肪体重は59.5㎏となります。

体重(kg)-体脂肪量(kg)=除脂肪体重(kg)
[選手A:70-10.5=59.5]

 最後に、この除脂肪体重を身長あたりにします。身長当たりにするには身長をメートルにし、除脂肪体重を割ります。
 従って、選手Aの身長を1.7mとして除脂肪体重59.5kgで除算し、身長当たりの除脂肪体重は35.0だと分かります。

除脂肪体重(kg)÷身長(m)=身長あたりの除脂肪体重(kg/m)
[選手A:59.5÷1.7=35.0]

見過ごしてはいけない体脂肪率

 体脂肪は人間が生きていく上で必要不可欠なものではありますが、筋肉と違って力を発揮するものではありません。つまり、過剰な体脂肪の蓄積は体を重くし、機敏な動きを妨げてしまいます。

 それでは、体脂肪の過剰な蓄積はどれだけ動きの制限を引き起こすのでしょうか? 体脂肪を想定したウエートジャケットを着用して、さまざまな動きのテストをした研究報告があります(図1、2)。

 図1は、体脂肪率が3%、6%、9%増加したと仮定した、体重移動を伴うパフォーマンス測定結果です。30m走では9%増加した場合に著しくスピードが低下してしまい、10mの2往復走では3%、6%、9%と疑似体脂肪が増加するごとにスピードが低下していることが分かります。

 図2は、図1と同様に体脂肪率が3%、6%、9%増加したと仮定した、スピーディーな体重移動やストップ・ターンにおけるパフォーマンス測定結果です。反復横跳びでは3%の増加の時点で著しく結果が落ちており、5mの4往復走では3%、6%、9%と疑似体脂肪が増加するごとにスピードが落ちています。

 以上の結果から分かるように、体脂肪率の増加は体重移動を伴うスピードや動作の切り返し能力の明らかな低下につながってしまいます。

 野球界では、今なお身長や体重のみに着目して、体が大きい・小さいという判断をしているケースがあります。コンディショニング科学の観点から身体組成を考えるのではあれば、体脂肪率や除脂肪体重にも着目し、自らの体について知ってみることをおすすめします。

かさはら・まさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー。

文責◎ベースボール・クリニック編集部

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