10月27日、山形で行われた全日本50km競歩高畠大会で、川野将虎(東洋大3年)が従来の記録を2分22秒更新する3時間36分45秒の日本新記録で優勝し、東京五輪に内定した。
 川野が所属する東洋大は競歩の強豪としての伝統があり、今回の川野の代表内定でオリンピックには3大会連続で現役生からオリンピアンを輩出することに。20km競歩でも東京五輪出場を狙う池田向希(3年)もいる現在の競歩陣の強さを支えているのが、監督の酒井俊幸と妻の瑞穂コーチである。
 今年7月のユニバーシアード(イタリア・ナポリ)では20km競歩で、池田が金メダル、そして川野が銀メダルを獲得。その際、酒井夫妻にインタビューした「陸上競技マガジン9月号」での記事を、ここであらためてご紹介する。

写真上=全日本50km競歩高畠を驚異的な日本新で東京五輪代表内定を決めた川野(中)。右は酒井俊幸監督、左は瑞穂コーチ
撮影/寺田辰朗

福島から埼玉へ

 昨春から競歩を指導する酒井瑞穂コーチ(旧姓・佐藤)は、福島西女高(現・福島西高)時代の1994年、国体の3000m競歩で6位。日女体大では日本インカレの5000mWで97年に8位、98年は7位に入賞している。大学卒業後は福島で公立高校の教員に。当時は国体の指導スタッフに入っており、福島大の川本和久監督からコーチングの基本を学んだという。光南高での教え子のなかには、東洋大に進んで2001、02年に日本インカレ10000m競歩を連覇、03年の世界選手権20㎞競歩に出場した松崎彰徳がおり、教員時代から東洋大との縁があった。

 結婚後も「インターハイや国体で上位入賞する選手を育てることを第一に考えていました」と、福島の競歩の発展に尽力していた。ところが、09年春に夫である酒井俊幸監督が学法石川高の教員を辞して東洋大に着任することになり、家族で埼玉へ。「県の強化委員長に快く出していただいた」と、現在でも福島への恩義を心に留め、学生指導に当たっている。

 酒井監督就任以前の東洋大も競歩の強豪ではあったが、専門の指導者がいなかったため、選手たちは外部のクラブで練習させてもらっていた。そこで酒井監督は、競歩と長距離が寮で同じ生活サイクルになるよう整え、練習も一緒に指導することにした。

 瑞穂コーチは当初から、部員の生活面をサポートしていた。正式にコーチとなった現在も、「主人の競歩指導のサポートをしよう、部員のためにやろうという気持ちが強いです」と、自身が表に立つのではなく、監督の補佐というスタンスは変わらない。

選手層の厚さゆえの現場復帰

 瑞穂コーチは、大学で競歩を指導することは全く考えていなかった。しかし、池田向希、川野将虎(3年)が1年時の12月に歩型が大きく崩れたことがあり、酒井監督は「このままでは2月の日本選手権、3月の全日本競歩能美大会で戦うことは厳しい」と判断。また、長距離と競歩両方の国際大会選考レースに向けた指導をするには、体制を充実させる必要があった。加えて、川野が挑む50㎞競歩は、現役学生が本気で世界を狙うケースが少なく、専門の技術者の目が重要になる。「生活指導、監督の補佐ができ、他のコーチ陣とすでに円滑なコミュニケーションが取れていることなどを考慮すれば、妻が適任だった」と酒井監督。瑞穂コーチは「自分でいいのかなという思いはありましたが、やはり選手たちを勝たせてあげたかった」と言い、その心からの指導に選手からの信頼は厚い。

画像: 7月のユニバーシアード20km競歩でワンツーフィニッシュを果たした池田、川野(左)と談笑する瑞穂コーチ。細やかな指導でふたりの成長を促している 撮影/井出秀人(陸上競技マガジン)

7月のユニバーシアード20km競歩でワンツーフィニッシュを果たした池田、川野(左)と談笑する瑞穂コーチ。細やかな指導でふたりの成長を促している
撮影/井出秀人(陸上競技マガジン)

「高校生はレベルの差が大きいので、福島にいたころはそれぞれにどうやったら伝わるかを考えながら、競歩用語の使い方、言葉の選び方を選手一人ひとりに合わせていました。それが今に生きています」

 技術面では国際審判に話を聞き、最も注意すべきは何かを確認。技術や練習メニューについて適切にアドバイスするだけでなく、食事で必要な量や栄養素は選手それぞれに違うことから、体調管理や食生活にも丁寧に気を配る。

 日本の競歩が世界でも有数の強豪国となったことについて、瑞穂コーチは「競歩は他人からジャッジされる競技。失格もあるし、素直でないと受け入れられない。毎日考えながら技術面を修正しなくてはいけないし、大雑把な感覚や動物的な勘ではできません。コツコツやることは、日本の職人芸に近い。日本人に合った種目だと思います」と強さの要因を分析する。

 2020年東京から、さらにその先へ――。今後も夫婦二人三脚で、東洋大、そして日本のお家芸である競歩の躍進を支えていく。

文/石井安里

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