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2023-11-22

変形性ひざ関節症教室 第27回 変形性ひざ関節症の治療法① 保存治療―注射と装具療法

中高年になると増えてくる変形性ひざ関節症。治療目標は「ひざの痛みを解消する」ことです。治療は「保存治療」と「手術治療」に大別されます。今回は、手術をしない治療法の保存治療のうち、注射と装具療法ついて、ひざの専門医・田代俊之ドクターに解説いただきます。

注射で潤滑油をプラスする

  変形性ひざ関節症の注射には、腱や靭帯に注射する「局所注射」と、関節内に注射する「関節内注射」があります。局所注射は、腱や靭帯の痛みに対して、痛みのある部分に消炎鎮痛剤を注入します。関節内注射では、ヒアルロン酸やステロイドを、ひざの関節の中に注入します。

 ヒアルロン酸はもともと関節内に存在する成分です。衝撃を和らげる作用や潤滑液としての作用がありますが、変形性ひざ関節症が進行してくると、濃度や分子量が低下して、その作用が失われてきます。ひざ関節にヒアルロン酸を注射し補充することで、潤滑性や弾力性を補い、正常な状態に近づけます。また、ヒアルロン酸の補充には、炎症を抑える効果もあります。

 ステロイドは、副腎皮質ホルモンを化学合成して作った薬で、抗炎症作用が非常に強く、痛みが強いときに、一時的に使うことがあります。しかし、効果が強い半面、関節軟骨や骨を弱くする、感染に対する抵抗力が低下するなどの副作用があり、現在は使う機会が限られています。

 ヒアルロン酸の関節内注射

  正常なひざのヒアルロン酸濃度は、0.3~0.4%、分子量は約400万ですが、変形性ひざ関節症のひざでは濃度0.1~0.2%、分子量は約250万に減少しています。

 ヒアルロン酸注射では、変形性ひざ関節症で濃度や分子量が低下したヒアルロン酸を、ひざ関節に注入して補充します。

 主な効果は、①関節の痛みを抑える、②炎症を抑える、③関節の動きをよくする、④軟骨のすり減りを抑えるの4つ。効果は短く、長期間は続きません。注射の頻度は、一般的には1週間ごとに連続3~5回、症状により間隔を広げていくこともできます。

 副作用はほとんどありませんが、アレルギーを起こす人もいます。ごくまれに針を刺した箇所から細菌が入って化膿性関節炎を起こすことがあります。注射した箇所を不潔な手で触らないようにしましょう。

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イラスト:庄司猛

装具療法ではひざにかかる負担を減らす

 装具療法は、装具を利用して痛みの軽減や変形の矯正を行う治療です。

 変形性ひざ関節症では、足底板という、靴の中敷きのようなものを利用します。ひざの変形が進み、O脚やX脚がひどくなった患者さんに、くさび状の足底板(そくていばん)を用いて、ひざの角度を調整します。靴に足底板を入れることよって、体重がひざにバランスよくかかるようになり、ひざの痛みが軽減します。医療用の足底板は、患者さんの状態に合わせたオーダーメイドの足底板です。

 サポーターや杖を装具療法で用いることもあります。市販の軟らかいサポーターにはひざを支える効果はありませんが、金属製の支柱が入った硬性のサポーターでは、支柱がひざの動きを支えるため、立ち上がりや歩行が楽になります。

 杖を使うと、体重を少し支えてもらえるので、ひざの痛みが緩和され、歩きやすくなります。場所をとらない1本杖、地面への安定性が高い多点杖など、種類が豊富です。医師や理学療法士と相談して、体格や生活に合った杖を購入します。

 足底板でひざの角度を調整する

 変形性ひざ関節症が進むと、アライメント(骨の並び)が悪くなり、O脚の人は内側の軟骨に体重への負担が増えてしまいます。この内側荷重を矯正するために、足の外側を持ち上げるような靴の中敷き(足底板)を入れると、アライメントが改善されて、内側荷重が分散されて、ひざの内側の痛みが緩和します。X脚の人は足の内側を持ち上げるような足底板を利用します。

 市販の足底板もありますが、医療用の足底板は、医師の診断と処方のもとで、専門の技術者が制作します。足を採寸し、型どりをし、フィッティングして微調整を行うので、制作に時間がかかります。費用もかかりますが、医療上必要と認められた足底板は医療保険の適用になります。

 寝るとき以外、1日中つけておくことが大切です。特に外を歩くときには必ずつけます。


イラスト:庄司猛 

プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さん
JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長
1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。

この記事は、ベースボール・マガジン社の『図解・即解!基礎からわかる健康シリーズ 変形性ひざ関節症』(田代俊之著、A5判、本体1,500円+税)からの転載です(一部加筆あり)。 Copyrightⓒ2022 BASEBALL MAGAZINE SHA. Co., Ltd. All rights reserved.

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