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2020-10-23

青山敏弘と考えるサッカーのポジショニング[前編]

2015年にJリーグ最優秀選手賞(MVP)を受賞したサンフレッチェ広島の青山敏弘

どのポジションであれ、優れたプレーを可能にする上で欠かせないのがポジショニングだ。サンフレッチェ広島在籍17年目、日本代表として2014年のワールドカップを経験した国内有数のボランチである青山敏弘に、ポジショニングについて聞く。

出典:『サッカークリニック』2020年9月号


相手を迷わせる場所を探す

――ポジショニングという言葉を聞いて、どんなことをイメージしますか?

青山 ポジショニングは選択肢を生むものです。自分の選択肢だけでなく、相手の選択肢も増やします。例えば、自分の次のプレーを予測するときに、その予測が2つ以上あると相手は迷うと思うんです。相手を困惑させ、それを見て自分が選択するわけです。

――自分と相手との関係性の中でイニシアチブを握るようにするということですね。

青山 自分と対峙する相手だけではなく、その周りの相手も迷うようなポジションどりが大事です。例えば、自分がボールをもらう位置をずらすことで、対峙する相手が食いつくようにしなければいけません。そうなると、対峙する相手がいたスペースが空きます。そのときにそのスペースを埋める選手がいるかどうかで、対峙する相手の食いつき方は変わってきます。逆に自分がずらしてもらう位置に別の相手がアプローチできる状況だと、対峙した相手は動かないので、僕がずれて受けても得策にはなりません。そういうときは、僕が受けるふりをすることで周りの味方が空いて、新たな選択肢が生まれます。周りの状況を常に見て駆け引きをしながら、相手が迷うような場所を探しています。

――ゴールは複数のポジショニングがリンクして生まれるもので、青山選手はそこを巧みにつなぐ名手です。

青山 ゲーム展開は自分の立ち位置一つで大きく変わることがあると思っています。一見、意味のないような位置に見えても、周りを活かすスペースを生み出すためのポジショニングなんです。僕の頭の中にはまず、クサビがあります。最前線のフォワードにいいボールを送りたいんです。それは必ずしも自分が出さなくても良くて、チームとしてクサビを入れたいんです。

 ただし、それが前提としてありますが、相手は自分のところを抑えてきます。だからこそ、自分以外の誰がクサビを打ち込める場所にいるのかも、常に頭に入れてプレーしなければいけません。自分でクサビを入れるために、あるいはほかの選手にクサビを入れてもらうために、自分はポジションをどうとればいいのかという逆算ですね。そこには自分と周りだけではなく、周りに一度預けてから自分がクサビを入れられるポイントまで走り込む選択肢もあります。複数のポジショニングの中から、どれをリンクさせてゴールまでのルートをたどれるかを判断するのが重要だと思います。

――サンフレッチェ広島は「3-4-2-1」システムを採用し、過去には佐藤寿人選手や浅野拓磨選手のようなスピードとゴールへの嗅覚に優れたストライカーがワントップとしていました。青山選手は正確なミドルパスやロングパスで彼らの特長を最大限に活かしていました。

青山 そういうプレーをするには、練習から考えるのはもちろんですが、自分の体に染み込ませておかなければいけません。ワンタッチで縦に入れる、ボランチにボールが入ったタイミングで縦に入れるなど、普段の練習から意識づけと習慣づけをしていました。ミシャさん(ペトロヴィッチ、サンフレッチェ広島の元監督)から「横パスが来たら、必ずワンタッチで縦に入れろ」と言われ続けたので、それが攻撃のスイッチになっていました。ですから、ワンタッチで縦に通せるポジションをとることが必然的にプライオリティーの一番に来ることになります。

 そのための準備として、両足で「止める、蹴る」ができるのはもちろんのこと、パスを出せる場所への入り方や体の向きの部分まで、こだわってやらなければいけません。「どうしてあの場所にいるの?」、「どうして、あのタイミングで縦パスを出せるの?」とよく聞かれますが、僕からすると、普段の練習がそうさせるという印象です。

取材・構成/安藤隆人

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