『サッカークリニック』10月号で、「ゲームモデル」について11人の指導者に聞いていた。最年少だったのが、25歳の林舞輝さん。今年から奈良クラブ(JFL。10月3日、奈良クラブは今季初の連勝で一ケタ順位に)の監督を務めている林さんは、ゲームモデルをどのように考えているのか?
出典:『サッカークリニック』2020年10月号
ゲームモデルで判断の基準を提示JFLの奈良クラブを2020シーズンから率いているのが、25歳の林舞輝監督だ。林監督は、18歳でヨーロッパへ渡り、イングランドとポルトガルでサッカーを学んできた指導者である。このほど、『「サッカー」とは何か』(ソル・メディア)という本を出版し、戦術的ピリオダイゼーションと構造化トレーニングについて解説。その中でゲームモデルについても詳細に触れていた。新進気鋭の監督に、ヨーロッパで習得した方法論で日本の育成年代でも無理なく落とし込める「ゲームモデル」のつくり方を聞いた。
――そもそも、何のためにゲームモデルをつくるのでしょうか?林 サッカーは意思決定のスポーツで、何をするにしても選手が自分で判断して決めなければなりませんが、その判断がバラバラだと、チームとして機能しないからです。同じ方向性で判断できるように、同じ絵を頭の中で描けるようにしたいわけです。
ウイニングイレブンの「2人協力プレー」と同じです。一方が「ドリブルが大好き。サイドで持ったら突破あるのみ」とプレーしているのに、もう一方が「パスをもらえる」と思ってサポートポジションをとったら、ドリブルのスペースをつぶしかねません。
――一方がスルーパスをもらおうと動き出しているのに、ボールを持っているほうはワンツーをやりたくて寄ってきてほしいという場合もあります。林 そうなんです。つまり、たった2人でプレーしていても、サッカー観が違うと、ぶつかって機能しなくなるんです。攻撃でも、守備でも、攻守の切り替えでも、そうした「基準の違い」による問題が発生します。
――そこでゲームモデルが必要になるのですね。林 モデルは日本語で模型です。ゲームモデルは「試合の模型」なのです。簡単に言うと、相手がボールを持って攻めてきたときに、ある選手が「これはピンチだ!」と思っているのに、別の選手が「ここで持たれる分には問題ない」と考えたら、ダメなわけです。
――いわゆる「戦術」とは違うものなのでしょうか?林 英語の「Tactics」とゲームモデルは近似した概念だと思います。ただ、「戦術」という日本語の単語のニュアンスとは違います。変な話ですが、日本語の「戦術」にはちょっと「小手先感」があります。「相手に対して、こうしよう」とする方法だったりしますが、それはゲームモデルとは違います。日本語の「作戦」とは違う概念です。
――「原則」が近い言葉なのでしょうか?林 その言葉を説明に使っていいとすれば、確かに近いと思います。「原則の集合体」と言うのが良いかもしれません。ただ、単なる集合体ではありません。例えば、縦に速いカウンターをやろうとするチームがあるとします。その場合に「ポジティブトランジション(守備から攻撃への切り替え)では支配率の回復を優先させ、ゆっくり大事につなごう」ということが原則の1つとしてあったら、それはゲームモデルとして成立しません。
――原則同士が矛盾しているからですね。林 サッカーの4つの局面(攻撃、守備、攻撃から守備への切り替え、守備から攻撃への切り替え)における「原則の集合体」という言い方をしてしまってもいいのかもしれません。そして、それが相互に矛盾していないのが肝心になります。
――ゲームモデルは判断の基準になります。判断の一つひとつの良し悪しをあとからジャッジすることもできます。林 それが大きいと思います。判断の基準があると、何をやるといいプレーなのかがわかります。こうしよう、ああしようという話ができますし、ピッチ上での判断がそもそも速くなります。サッカーは正解のあるスポーツではありませんが、だからこそ、指導者は判断の基準を選手に提供する必要があります。「これがサッカーの正義ということはないが、私たちのチームではこれを良い判断とし、こっちは良くない判断とする」と提示するわけです。これがゲームモデルを用意するメリットでしょう。サッカーは短距離走のように最速を競うスポーツではなく、チームとしての最適を選ぶスポーツです。何が最適なのかについて、指導者が定義してあげないといけません。
――もめそうな要素について基準を決めておくということですね。林 まさにそういうことです。まずはサッカーの方向性が大きくあって、それに合わせて4局面の主原則が存在します。そして、必要に応じて準原則、準々原則という形でより細かく設定していくイメージです。もめそうな要素について基準をつくっていくわけです。
次ページ >