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2018-09-21

[野球食]もう一度学ぼう! 栄養のキホン第1回「重要な五大栄養素とその働き」

 近年、「食育」という言葉は浸透してきているものの、栄養についての知識に偏りがあり、「とにかく量を多く摂ればいい」といった勘違いをしているケースも多々見受けられる。技術力の土台となる強くてしなやかな肉体を保つため、そして中高生年代の選手には健全な発育発達を促進するため、「どのような目的で、どのような栄養を、どのように摂ればいいのか」を、あらためて確認したい。
※本記事は、「ベースボール・クリニック2018年9月号」掲載の「野球食レパートリー特別編 栄養のキホン」を一部再編集したものです。

海老久美子(管理栄養士、公認スポーツ栄養士)

食事はすぐに効果が出るのではなく
続けることで力となるもの

 中学・高校球児の食事には、5つの意味があります。
 まずは、日々の練習での体づくりを効果的にするため。そして、野球というスポーツの競技力を向上させるため。ケガや故障の予防。成長期の心身の健やかな発育のため。最後に、決して忘れてはいけないことですが、食事が持つ楽しさを感じること。

 最初の4つを追い求めるあまり、量の多さを競ったり、おいしさを二の次にして栄養価の高さだけから食べ物を選んだりしていては、球児にとって食事がつらいものになってしまいがちです。それらは、内臓の負担になることもそうですが、精神的にも負担になり長続きしないでしょう。食事とは、食べてすぐに球児の力になるのではなく、続けることで血となり肉となり、力となるものです。球児の食事には、5つの意味が過不足なく整うようにしてほしいと思います。

 知っているつもりだった栄養素の本当の働きを再確認することで、球児の食事はよりおいしく、さらに意味のあるものになるでしょう。

表 スポーツにおける栄養の役割と関係する栄養素

三大栄養素の 
働きは三者三様

 タンパク質、糖質、脂質の3つの栄養素は「三大栄養素」と呼ばれます。なぜこの3つが三大扱いになるかといえば、エネルギー源になる栄養素だからです。「五大栄養素」になると入ってくるビタミン、ミネラルは、大切な栄養素には変わりありませんが、エネルギー源にはなりません。

タンパク質
 タンパク質は、1gあたり約4kcalのエネルギー源になるので三大栄養素に分類されます。
 しかし、タンパク質をエネルギー源として使うのは、ある意味、非常事態です。人間の体は体内のエネルギー源が枯渇しそうになると、筋肉などのタンパク質を分解してエネルギー源にして乗り切ろうとします。ほとんどの球児は、筋肉量を増やしたいので、このような状況は絶対に避けたいことです。

 緊急時にはエネルギー源にもなり得るタンパク質ですが、その主要な働きは体の材料になることです。筋肉をはじめ、皮膚、髪の毛、内臓、そして血液の主原料です。成長期であり、競技力のために体をつくり上げていく球児にとって、タンパク質は特に意識したい栄養素と言えるでしょう。

 このタンパク質の構成要素がアミノ酸です。いくつかのアミノ酸が結びついてタンパク質の形になっていて、食べ物から摂ったタンパク質は、体内ではアミノ酸の形に分解されて利用されることになります。

 タンパク質は、1回に大量に摂るよりも、1日の間に何回かに分けて摂ったほうが有効利用できるという性質があります。

糖質
 糖質の主な役目こそがエネルギー源です。特に脳の主となるエネルギー源が糖質なのです。糖質は1gあたり約4kcalのエネルギーを持ち、種類によってエネルギー源としての性質が異なります。

 それ以上分解される必要のない「単糖類」は消化吸収に時間がかからないので即効性のあるエネルギー源となり、「二糖類」は2つの分子を1つずつに分解するので、単糖類よりは遅いタイミングでエネルギー源となり、「多糖類」は分解に時間がかかる分、消化吸収にも時間を要するので、腹持ちのいいエネルギー源となります。自分がいつエネルギー源を必要とするかを見極め、摂るべき糖質の種類を選べるようになれば球児として頼もしい限りです。

 糖質と言うと、炭水化物との関係が混乱しやすいので、ここで整理しておきましょう。
 炭水化物は、糖質と食物繊維の両方を含みます。つまり、糖質は炭水化物の構成要素なのです。そして、その糖質にもブドウ糖、果糖、乳糖など種類があり、エネルギー源として挙げられるでんぷんもこの中に含まれます。これらが前述の単糖類、二糖類、多糖類に分類されます。ブドウ糖や果糖は単糖類、乳糖は二糖類、でんぷんは多糖類です。

脂質
 脂質は、球児にとって大切な栄養素というより、なるべく避けたい成分というイメージがありそうです。この機会に、脂質の栄養素たる所以を押さえておきましょう。

 まず、人間が生きる上で必要な必須脂肪酸が含まれています。必須脂肪酸は、体内でつくり出せないので、必ず脂質として食べ物から摂らなければなりません。一定量の脂質を摂ることは、生きていく上で必須なことなのです。
 さらに、後ほど説明する脂溶性ビタミンの吸収を助けること、血液や細胞膜などの成分となること、体内に貯蔵しておけるエネルギー源になることも脂質ならではの役割です。

 エネルギー源としての脂質は、1gあたり約9kcalと高能率。糖質のようにどんどんエネルギー源として使われることはありませんが、溜めておけるので、いざとなった時に頼りになります。また、1gで約9kcalあるということは、球児が食事から十分なエネルギーを摂る上で大きな助けになります。

 ただし、やはり摂り過ぎには注意が必要です。高カロリーゆえに過剰になりやすく、過剰分は球児の敵の体脂肪の増加につながります。脂質は、食べ物の中でタンパク質と一緒になっていることが多いので、しっかりとタンパク質を確保しようとすると、気づかぬうちに脂質もたくさん摂ってしまう可能性があります。
 脂質は、その質(クオリティ)で選ぶことが大切になります。脂質のコントロールは、球児の食事の大切なポイントの一つです。

ビタミン・ミネラル
 上記の三大栄養素にビタミンとミネラルを加えて、五大栄養素と言われます。グラム単位で摂る必要がある三大栄養素に対し、ビタミンとミネラルはミリグラムやマイクログラムなど少ない単位で目標量を満たせるので微量栄養素とも呼ばれます。

 微量といえども役割は重要です。エネルギー源になったり、体の材料になったりはしませんが、代謝機能や発育など体の機能を正常に保つために欠かせない栄養素です。

 ビタミンもミネラルも種類が多いのでなかなか区別が難しいのですが、以下のことを頭に入れておくといいと思います。
 ビタミンには、A、D、E、Kという油に溶ける性質のある脂溶性ビタミンと、水に溶けるB群、C、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンという水溶性ビタミンがあります。
 体に必要なミネラルは16種類ありますが、その内のカルシウム、リン、カリウム、硫黄、ナトリウム、塩素、マグネシウムの7種類は必要量の多い主要ミネラルです。

 ビタミンやミネラルは、肉や米に走りがちな球児が不足させやすい栄養素です。中でも、球児の骨の強化に関わりながら不足させやすいカルシウム、特に夏場に汗とともに失われやすいナトリウムとマグネシウムは、量を摂れているか意識しておきたいミネラルです。
       
 

《PROFILE》
海老久美子(えび・くみこ)
立命館大スポーツ健康科学部副学部長。管理栄養士、公認スポーツ栄養士、博士(栄養学)。全日本野球協会医科学部会委員。JOC強化スタッフ。ジュニアからトップまで、各種目のアスリートへの実践的な栄養教育・サポートを実施。著書に『野球食』『野球食Jr.』『野球食のレシピ 』『女子部活食』(小社刊)などがある。

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