陸マガの箱根駅伝カウントダウン企画「箱根駅伝の一番星」は出場20校の注目選手を紹介。国士大の曽根雅文(4年、横浜高・神奈川)は日本人エースとして、2年連続山下りに挑む。箱根を3度走った父の激励を受けた前回は区間9位。シード権獲得を狙う今回は、もちろん、それ以上の走りを披露するつもりだ。
ゲームチェンジャーになる! 山下りには特別な思いがこもる。国士大の曽根雅文(4年)は、幼い頃から跳ねるようなフォームで坂を駆け下りるのが得意だった。陸上経験者の父には、いつも言われていた。
「下りのほうがよく走れるな。下り向きだ」
箱根駅伝の希望区間は、言わずもがな。迷うことなく6区を選んだ。
箱根予選会は全体52位、チーム2番手となる1時間02分51秒の自己新でチームの5位通過に貢献 昨年度は3年目で初めて箱根路のスタートラインに立ち、芦ノ湖から無我夢中で山を下った。17km付近の函嶺洞門辺りにはよく知る顔が見えた。言葉の内容までは聞き取れなかったが、父親の大きな声ははっきりと曽根の耳に届いた。そして、小田原中継所でも急ぎ足で駆けつける父の顔を発見。区間9位の好走に興奮して声はうわずり、誰よりも喜んでくれていたのだ。
「これまで一度も見たこともないリアクションでした。僕もうれしくなりました」
父は昔も今も変わらず良きアドバイザーだという。大学に入ってからもレースごとにLINEでメッセージをくれる。特に生活面については厳しい。「寝る時間に気をつけ、食事にも気を使え」と自らを律する重要性を説かれている。父の言葉には説得力があるのだ。名門の早大で3度も大舞台に立っている元箱根ランナーの助言を無下にできるわけがない。父の雅史さんは10区で2回(第63回大会、64回大会)、9区で1回(65回大会)出走しており、息子の雅文は今も尊敬する。
「父は早大三羽烏(櫛部静二、武井隆次、花田勝彦)が入る前の谷間世代だったと謙遜しているのですが、やっぱりあの早稲田大で3回も箱根を走っているのはすごいことです」
父・雅司さんは早大のメンバーとして、箱根路を3度走った。 曽根はその父が見守った箱根を経験したことで、ひと皮むけた。今年度は充実した練習を重ね、確実に力をつけている。厳しいポイント練習や距離走の前に不安を覚えたりすることもすっかりない。課題のスタミナを強化し、余裕を持って走れている。
「箱根で自信をつけ、精神面をうまくコントロールできるようになったのは大きいです」
レース前でもメンタルが安定するようになり、箱根駅伝予選会では1時間02分51秒の好タイムをマーク。ライモイ・ヴィンセント(3年)に次いでチーム2番手の記録を出し、名実ともに"日本人エース"として最後の舞台に臨もうとしている。希望する6区のコースは頭にしっかりインプット。ポイントとなるのは、序盤の上り基調とラストの平坦気味の緩やかな下りだ。
「強化すべきところを強化しました」
目安のタイムは58分半切り。目標は区間5位以内。復路のスタートとなる6区の重要性は、十分に理解している。
「僕のところで一気に流れに乗れるようにしたい。ゲームチェンジャーになるつもりです」
勢いよく山を下れば、きっと見えてくる。最後に目指すのは、51年ぶりのシード権獲得だ。
陸上競技マガジン 1月号
箱根駅伝2021完全ガイド(陸上競技マガジン1月号増刊)