元3団体統一世界ミドル級チャンピオンのゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)が12月18日(日本時間19日)、フロリダ州ハリウッドで、現在保持するIBFタイトルの初防衛戦を行い、同級1位の指名挑戦者カミル・シェルメタ(ポーランド)を7ラウンド終了TKOに下した。全盛期の凄みはうすれても、ゴロフキンは重いジャブ、的確なコンビネーションで無敗の挑戦者を圧倒し、4度のダウンを奪う、ワンサイドマッチ。7回終了後のインターバルでシェルメタ陣営が棄権を申し出た。14ヵ月ぶりの試合でもGGGに不安なし ながく世界のミドル級をひとりで牽引した“GGG”ゴロフキンも38歳になった。2年前、宿敵サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)との再戦に敗れてWBA、WBC、IBF王座を譲り、2010年8月にWBA(当初は暫定王座)のベルトを巻いて以来8年ぶりに無冠となった。再起2戦目となる昨年10月、カネロが返上したIBF王座を賭けた王座決定戦で、技巧派強打者セルゲイ・デレビャンチェンコ(ウクライナ)からダウンを奪って判定勝ちしたが、後半は大いに追い詰められた。歴戦、加齢によるかげりは否定できない。
シェルメタとの指名試合は、コロナ禍以前にゴロフキン自身の脚の不調で延期されている。キャリア最大、14ヵ月のブランクも影響するだろう。だが、試合前のオンライン会見で「不安はまったくない。この戦いにむけて、十分に時間をかけて準備をすることができた」と自信を語ったゴロフキンは、その言葉を証明するような圧倒劇を披露する。
強烈なジャブと多彩な角度からねじ込む強打で4度のダウンを奪った7ラウンド終了後に挑戦者が棄権 世界初挑戦のチャンスに積極的な姿勢をみせるポーランド人を、ゴロフキンは左のジャブでたちまち下がらせた。かつて対戦者をそれだけで絶望させた、こん棒のようなジャブである。その左でシェルメタの顔をはじきながら相手の大振りのスキに強打を差し込み、初回終了間際、左フックを叩きつけて最初のダウンを奪った。第2ラウンド、攻め入るシェルメタに右クロスをかぶせてフロアに落とし、2度目のカウントを聞かせる。4ラウンドには右のオーバーハンドに左2発をフォローしてキャンバスを這わせた。
無敗のチャレンジャーはタフだった。映画『ロッキー』の主人公ロッキー・バルボアに憧れたという男は、倒されるたびに立ち上がり、ビッグネームに一撃を見舞おうと挑み続ける。しかし、力量の差は埋めがたい。ゴロフキンを脅かすのは、相手というより自身の体力だったのではないか。ボディを叩き、アッパーを突き上げ、ハイピッチでラウンドを攻め進むうちに息が荒くなっていく。そんな中で7ラウンド、ゴロフキンはダブルのジャブでダメ押しのダウンを奪うのだ。なんとか追撃をしのぎ切った挑戦者は、コーナーに戻ると陣営に促されて降参した。
「次はベストな戦いを実現する」 久々にみせる晴れやかな笑顔で、ゴロフキンはDAZNのインタビューに答えた。「とても気持ちよく戦えた。2ラウンドで終わっていたら、早すぎたでしょう? 長く戦ってたくさんの視聴者を引き込みたかったんだ」。戦績はこれで43戦41勝(36KO)1敗1分。チャンピオンの表情がとびきり明るいのは、通算21度目となるミドル級世界王座防衛を果たしたこと以上に、この快勝で健在をアピールし、世界の中量級ビッグビジネスの中心にポジションを確保できたからだろう。シェルメタ戦を前にした会見では、過剰なほど“今後”に関する問答が制限されたが、試合後のゴロフキンは饒舌だった。「次は、みなさんが望んでいる“ベスト”な戦いが実現しますよ」。
近未来の対戦者候補には村田諒太の名前も見えるゴロフキンはいまだミドル級の大事なリーダー ストリームサービスDAZNは2年前から大金を注いでカネロ、GGGと契約を結び、プロモーションに勤しんできた。ふたりの第3戦が最大の狙いであることは間違いない。今秋、ゴールデンボーイ・プロモーションとの契約を解消し、フリーエージェントとなってDAZNと仕事をするカネロは、ゴロフキンの戦いの翌日となる19日(日本時間20日)、テキサス州サンアントニオでWBA世界スーパーミドル級チャンピオン、カラム・スミス(イギリス)と対戦する。その前日にゴロフキンの防衛戦をセットしたのも、プロモーション的戦略とみるべき。
明日、カネロが順当に勝利すれば、2021年、カネロ対GGGのラバーマッチ実現へ、両陣営は進んでいくのだろう。ふたりの“第3戦”が決裂しても、決着がついても、その先の中量級戦線には新たなシナリオが描かれる。WBA世界ミドル王者・村田諒太(帝拳)をはじめ、WBA暫定王者クリス・ユーバンク・ジュニア(イギリス)、WBO同級王者デメトリアス・アンドレイド(アメリカ)らがいかに絡んでいくかも興味深い。
文◎宮田有理子 写真◎ゲッティ イメージズ