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2020-12-23

「第99回全国高校サッカー選手権大会」開幕直前<3> 岡山県作陽高校の機能する戦術の話:前編

12月31日に始まる第99回全国高校サッカー選手権大会の1回戦で石川県の星稜高校と戦う岡山県作陽高校

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試合展開を観察し、対応する力が必要



――相手の戦術を理解して対応するためには、選手の戦術理解力も重要になりますか?

野村 少々仕込むくらいでは、試合中の戦術的な対応は難しいものです。相手がグーを出したらパー、パーならチョキ、チョキならグーといった、ジャンケンに近いとっさの判断ができる選手が対応を考え、周りの味方に的確に伝えなければいけません。ピッチに立つ11人のうち、戦術理解度の高い選手が最低3人いれば、コーチングで味方を動かし、戦術変更を機能させることができます。

戦術理解度が高い選手がいる代のチームは、私が「相手が変化してくる」と感じてベンチから立ち上がる瞬間には、そういう選手がピッチの中で状況を理解し、戦術を変化させていました。逆に言うと、戦術に応じて的確にポジションを考えられる選手がまったくいない状況でベンチから指示を出しても、戦術に変化を起こせないのです。全員でブロックをつくって90分間耐えるシンプルな戦術なら別ですが、時間帯に応じて戦い方を変えようとするなら、観察力を伴った戦術理解度の高い選手がいないと成り立ちません。

――そういった戦術理解力は、選手たちそれぞれが、もともと持っている素質なのでしょうか?

野村 素地がないと難しいのは事実ですが、ピッチ上に散らばった相手選手の人数を数えられるようになれば、戦術理解度は高まると考えます。ピッチを縦に3分割したときにこちらの選手が右に3人、中央に4人、左に3人いるとすれば、相手は広がった状態なので、手薄な中央を突破するのが得策でしょう。右サイドに5人、真ん中に3人、左に2人という極端な状況ならば、自陣左から一気に右にサイドチェンジすれば、効果的に相手を崩せます。

横に分割した考え方の場合だと、前からプレスをかけてくる相手について、「プレスをかけるのは2トップだけ」などと相手のやり方を見抜ける選手であれば、その2人を回避してからの展開が考えられます。このようにピッチ上の人数を数えられると、戦術的な考え方ができます。ところが、ピッチ上の人数を数えられない選手が意外と多いのです。私たちの練習では「カウント」という表現を使って、人数を数える習慣を身につけるように意識しています。

――3バックと4バックを臨機応変に使い分ける作陽の「可変式システム」は、相手にしてみるとピッチ上の人数を数えにくい戦術になるのではないでしょうか?

野村 私たちが可変式システムを採り入れた頃は、マンツーマンで相手を捕まえるチームが多い時代でした。私たちが配置を変えると、相手はどこに人数が多いのかが分からなくなり、あちこちにスペースが生まれていました。生まれた場所に応じてスペースを誰が使うかの約束事を整理できたときには、狙い通りに崩せていました。チーム戦術を機能させるためには、選手自らが対応をすべて考えるのではなく、指導者が約束事として教えなければいけません。約束事を教える際のポイントは、相手をいかに混乱させられるかです。

可変式システムで戦う場合、相手が自信と体力のある状態で挑んでくる試合序盤では、配置を変えても対応されます。しかし、センターバックの2人と最終ラインに落ちたアンカーの3人でボールを回す状況と、センターバックのみで回す状況を使い分け続けると、相手は誰を捕まえれば良いのかが分からなくなり、次第に頭が混乱してきます。そうなったときに1人でも出足が遅れると、相手はチームバランスを崩し、私たちにとって優位な状況が生まれます。そこから、より攻撃的に仕掛けようという考え方です。相手が混乱すれば、意図的につくったフリーの選手が活きます。「1対1」の対等な状況でも、相手としては迷いながら対応せざるを得ないので、こちらが優位な状況になります。

こうした状況をつくるのがチーム戦術です。相手が混乱するのを待つ場合もあれば、相手が混乱するようなアクションを仕掛ける場合もあります。可変式システムでは、自分たちのバランスをある程度崩してボールを動かしています。相手が元気なうちに仕掛けるとリスクが生じてしまうため、前半は混乱を待つ試合が多いです。どうやって混乱させるのかについては、私たちと相手の配置を踏まえた上で選択すべきだと考えます。

※後編に続く

プロフィール



野村雅之(岡山県作陽高校総監督)

1966年12月21日生まれ、東京都出身。広島国泰寺高校と筑波大学でプレーし、大学卒業後の90年に岡山県作陽高校のコーチに就任。99年に監督となり、2007年の全国高校サッカー選手権大会で準優勝した。同大会の決勝進出は岡山県勢初となる快挙だった。日本高校選抜の監督やU-17日本代表のコーチを務めた経験も持つ。同校校長になった17年以降は、男子サッカー部、同フットサル部、女子サッカー部の総監督を務めている。S級ライセンス保持

サッカークリニック 8月号

サッカークリニック 1月号

取材・構成/森田将義

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