close

2021-02-13

【ボクシング】ロイヤル小林、「ボディブロー」を語る。

在りし日の小林さん。現役時代の鋭さはなく、ひたすらに温厚で、丁寧に語ってくれた(2013年5月撮影)

全ての画像を見る
“KO仕掛人”の異名を持ち、左フックを主武器に対戦相手を次々となぎ倒して一時代を築いたWBC世界スーパーバンタム級チャンピオン、ロイヤル小林(本名:小林和男)。その戦いぶりもさることながら、日本のボクシングファンには、歴史に名を刻む名選手との対戦でも記憶に残る。昨年11月に亡くなられた小林さんは、トレーナー業を辞した後、故郷・熊本でひっそりと暮らしていらしたが、『ボクシング・マガジン2013年7月号』の特集のために、取材に応じてくれた。追悼の意を込めて、当時語ってくださった重みのある言葉、時代を先取りした思考をここに再掲載する。


 アレクシス・アルゲリョ(ニカラグア=元世界3階級制覇チャンピオン)は、最初にもらった左ストレートでパンチ力を感じましたね。右はそれほどでもなかったんだけれども。スピードのあるパンチじゃないんです。おもしろいもので、バーン、バーンって速いパンチは意外と避けられるんですよ。でも、アルゲリョのように、スローモーションのようにゴーンって来るパンチは、なぜだか避けられない。ボクシングの奥深さを感じさせられました。


アルゲリョのジャブ。小林さんはこれを「ストレート」と表現した Photo/Getty Images

 いくら速くても、スピードだけに頼ったパンチには、人間はある程度慣れてしまうものなんですよね。あとは、タイミングが大事になってきます。腹筋運動で鍛えてもダメなんですね。内臓を鍛えないと。腹を足で踏んでもらったりしてね。そういう衝撃を与えないと、ボディブローには耐えられない。半年か1年鍛え続けないと。

 アルゲリョと戦った当時は、いわゆる腹筋運動だけやって、鍛えていればいいだろうと考えていたものだから、それがとんでもない間違いでした。アルゲリョのボディブローを貰って(5回KO負け)それに気づきました。「腹筋運動は腹が硬くなるだけで、ボディ自体が強くなるわけではない」って。

 あの試合は、初めての世界戦だったしアガッてたのかなぁ。とにかくアルゲリョが強かったですよ。ただ、1発だけ私の左ストレートがガツンと当たったんですよね……。

 アルゲリョには負けたけれど、ああいう名選手と戦えてよかったですよ。ウイルフレド・ゴメス(プエルトリコ=元世界3階級制覇チャンピオン)も。そうですね。いまではそんな選手たちと戦えたことは信じられないですよね。

[追記]
 小林さんは、ただでは起き上がらなかった。アルゲリョに倒された左ボディフックを、今度は自らの武器として習得。これもまたひとつのキーパンチとして効果的に使い、アルゲリョに敗れた1年後、WBC世界スーパーバンタム級王座を獲得したのである。


PROFILE
本名:小林和男。1949年10月10日生まれ。熊本県下益城郡出身。アマチュア戦績37戦34勝(28KO・RSC)3敗。1972年ミュンヘン五輪フェザー級ベスト8。翌年2月15日、国際ジムからプロデビュー。76年10月9日、王者リゴベルト・リアスコ(パナマ)を8回KOで下し、WBC世界スーパーバンタム級王座を獲得した。世界3階級制覇の“貴公子”アレクシス・アルゲリョ(ニカラグア、1975年10月に対戦し5回KO負け)、同じく世界3階級制覇で世界戦17連続KO防衛の記録保持者ウィルフレド・ゴメス(プエルトリコ、1978年1月に対戦し3回KO負け)、19度防衛のクラスレコードを持つエウセビオ・ペドロサ(パナマ、1979年1月に対戦し13回KO負け)ら、歴史的名選手とグローブを交えた。プロ通算戦績は43戦35勝(27KO)8敗。2020年11月17日に他界。

取材&写真_本間 暁

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事