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2021-03-02

【第93回センバツ出場校の指導法】仙台育英高 Part2 実戦力を見極める数値を部内リーグ戦で導き出す

Part1の測定会が「基礎力」を測るものなら、「実戦力」を見極める舞台が部内リーグ戦だ。測定結果を元に、野手は12~ 15人のチームを構成、投手は先発・中継ぎ・抑えの役割をすべて経験できるようにローテーションを組み、試合を積み重ねる。評価基準となる項目は事前にすべてを選手に伝えるようにしており、その結果により測定会の評価を覆してメンバー入りするチャンスもある。

 野手は測定会の数値を元に、レベル別にチームを構成します。4チームあるとすると、Aチームが最もスターティングメンバーに近く、B以下の選手は実戦の結果で自分の価値を証明していくしかありません。投手は野手4チームに対して20人いるとすれば、1チーム5人の投手陣をつくって、対戦するチームをローテーションし、対戦する顔合わせを平均化するようにしています。平等な条件での数値を比較するためです。

 選手評価の指標とするには、ある程度の打席数、イニング数が必要です。バッターは50打席以上、ピッチャーは20イニング以上与えれば、調子の良し悪しや運・不運のようなものもならされて、実力相当の数値が表れてきます。


東北大会2試合で先発を任された松田隆之介

 この部内リーグ戦で抽出するスタッツの意味や理由のおおもとになっているのが、野球のゲーム性の解釈です。まず、野球は得点を競うスポーツであり、攻撃ではいかに得点を取るか、守備ではいかに失点を防ぐかということに具体的な方策を立てていく必要があります。

 そして、勝敗を決する得点は、「出塁1+進塁3」とひも解くことができます。そこからは、攻撃面では出塁する能力が必要であることとともに、進塁する能力、進塁させる能力の重要性も見えてきます。逆に守備面では、出塁させない、進塁させないことができる選手こそ、貢献度が高い選手だととらえることが可能になります。

 つまり、「塁を取る」「塁を取らせない」という陣取りゲームのような野球のゲーム性において、必要な能力を持っている選手を適切に見極めるためにスタッツを活用しているのです。先に説明した測定会も、この考え方を元に項目を選んでいます。

 そうした点から、打者のスタッツで重視するのが「出塁率」と「OPS」です。出塁は得点1のために4つの塁を進むうちの「1」にすぎませんが、それがなければその先も生まれませんから、出塁率は打者として持っていなければならない数値であることが明らかです。それに加えて、単打、四死球での「出塁1」よりも、長打によって「出塁1プラスアルファ」を一人で稼げるほうが、得点貢献度が高いと言えます。

 測定会で長打につながる打球速と飛距離を数値化するのは、この点につながっています。さらに走者として、アウトを取られることなく塁を進む方策としての「盗塁」も重視します。

 そのほかに、走者としてどれだけ進塁することができたかを「奪進塁率」(図2)として数値化しています。例えば、ワンヒットで2つの塁を進めているか、一塁走者時の内野ゴロで二塁でアウトになっていないかということが違いになって表れます。ここには当然、盗塁による進塁も含まれており、その数は自分の力で塁を奪っていることの証明です。それを可視化するために奪進塁数における盗塁の割合を「盗塁占有率」で表しています。


 また、打者として走者をどれだけ進めることができたかを「助進塁率」(図2)として出します。OPSが高くなくとも、犠打、進塁打、犠飛などで自身がアウトになっても走者を進めることができる選手は、この数値が高くなるので得点に貢献できる選手と見ることができます。


犠打などで走者を進めることのできる能力も高く評価されている

 ピッチャーはストライク率55%以上が最低条件です。それ以下だと試合をつくることが困難になります。60%以上になると、ストライク先行の投球ができます。70%に近づくとほとんどのケースで、3球で1ボール2ストライクのカウントをつくることができ、チームから「リズムが良い」「テンポがある」という評価が得られるようになります。

 そのストライク率を前提として、次に被打率を評価します。これは対戦するレベルによって変わってくるので、ラインで切ることはありませんが、重視している指標です。当然、数値が低いほうが高評価になります。

 また、走者一塁時の被出塁率も抽出するようにしています。ビッグイニングをつくらせないことを優先しているので、その要因となる走者一塁からの連続出塁をさせていないかどうかを見るのがポイントです。走者二塁、走者三塁では、状況によって四球を与えることがやむを得ないこともあるので、そのケースとは分けて評価しているのです。

 さらに奪三振能力は投手にとって非常に重要なので、K/BBで四球1あたりに三振をいくつ奪えているかを見ていきます。三振を奪う能力は四球との関係性が強いので、単純な奪三振率に惑わされないことが大切だと思っています。


走者を先の塁に進ませない「投力」が守備力の評価で明確な基準になるという。写真は木村航大

 バッター、ピッチャーはこのようなスタッツで評価をしていきますが、一方で、野手の守備面の評価は難しい点だと思います。守備率で比べるにしても、高校野球の場合は対戦するチームによって打球速が大きく違うので、指標として使いにくい面があります。そのため、守備力は指導者の主観的な評価になりがちな部分だと思います。

 ただ、その点でも明確にできるものに「走力(守備範囲の広さ)」と「投力」があります。測定会で測っているのは、この2つの能力です。その数値によって、走者を先の塁に進ませない選手か否かが見えてきます。

Part1はこちらから

Part3に続く

【ベースボールクリニック2020年11月号掲載】

写真◎BBM

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