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2020-08-11

【アメフト】新型コロナ感染拡大の影響(2) 米カレッジフットボール 来春に延期説が急浮上

米国ではプロフットボールNFLに匹敵する人気のNCAA(全米体育協会)のカレッジフットボールが、今秋のシーズンを全面的に来春に延期する案が、急速に浮上してきた。シーズン開幕まで1カ月を切ったこの時期に、何が起きているのか。新型コロナウィルスの感染拡大により動揺する、北米のアメリカンフットボールの今を探った。【小座野容斉】

 8月9日、米国から驚きのニュースが伝えられた。スポーツ専門局のESPN電子版を始め、有力なスポーツメディアが、カレッジフットボールの5大カンファレンス、通称「パワー5」のコミッショナーが緊急ミーティングを開いて、今秋のシーズンを来年春に延期することを話し合ったと伝えたのだ。結論はここ数日のうちに出るという。

 少なくとも、つい1週間前までは、「パワー5」の各カンファレンスは、公式戦試合数を縮小する案で今秋のシーズンを実施する予定だった。

 ここで、これまでの動きをまとめておきたい。新型コロナウィルスの感染拡大に対して、最初に対策を打ち出したのは、BIG TEN(ビッグ10)カンファレンスだった。

 ビッグ10は6月9日、今季をカンファレンス内の対戦だけに絞って行う縮小案を発表。翌6月10日には、カリフォルニア、ワシントンなど太平洋岸に広がるPAC12(パック12)が同じ方式を表明した。

 6月29日には、大西洋岸の大学が集まったACCがカンファレンス内対戦に、1試合だけカンファレンス外対戦をする権利を加えた方式でシーズンに臨むことを明らかにした。ACCのシーズン方式には全米が注目する、もう一つの理由があった。フットボールでは独立校のノートルダム大学が、他の競技ではACCに加盟している関係から、今季だけはノートルダムがACCに加わるとしたのだ。

 ACCとノートルダムの判断が、ほぼ流れを決めた。共に米南部の大学が名を連ねるSEC(サウスイースタンカンファレンス)、BIG12(ビッグ12)も、7月末に、カンファレンス内対戦+1の10試合でシーズンを戦うと発表した。

シーズンの開幕時期こそ、ばらつきはあったが、「パワー5」が、カンファレンス内対戦を基本とする10試合でシーズンを戦うことで足並みをそろえたのだ。これは後述する、現在の全米王者決定戦「カレッジフットボールプレ―オフ=CPF」にとっても意味のあることだった。

 試合開催時の観客の有無や、選手やスタッフの感染を防ぐ対策などに、焦点は移ったかに思えた。しかし、このパワー5の決定は、新型コロナウィルスの感染者が累計で500万人、死者も16万人を超える米国の現状とはかけ離れたものだったようだ。

MACは秋シーズンを全面的に春に延期すると発表した=photo by Getty Images

 異議を唱える形となったのが、同じトップカテゴリー、FBSのマイナーカンファレンス、MAC(ミッド・アメリカン・カンファレンス)だ。MACは8月8日に、「今秋のすべてのスポーツを2021年春に順延する」と発表した。

 その数日前に、独立校のコネチカット大学が、今秋をオプトアウト(選択的辞退)すると発表した時点で、予兆はあった。現地8月10には、マウンテン・ウェスト・カンファレンス(MWC)も、MACと同じように、秋シーズンを春に延期した。。

 NCAAは、ディビジョン2以下のすべてのスポーツで、今秋はチャンピオンシップを行わないと明言。フットボールでも、ディビジョン1の下位カテゴリー、フットボール・チャンピオンシップ・サブディビジョン(FCS)は、アイビーリーグなど、今秋シーズンの春への延期を明らかにしているカンファレンスが多い。

 一方で、来年春のNFLドラフトで全体1位指名の最有力候補、トレーバー・ローレンス(クレムソン大QB)を筆頭に、カレッジのスタープレーヤーたちが、ツイッターに #WeWantToPlay のハッシュタグで、投稿。今秋のフットボールを開催するよう求める動きに出た。プロ入りを控えた有力選手たちにとって、春への順延は今季が消滅するのに等しい。NFLにアピールする場が欲しいのは当然だろう。

 さらに、このローレンスの動きを、米国のドナルド・トランプ大統領がリツイートする形で支持している。

 現職大統領まで巻き込んでの論争。米国のフットボールはどうなるのだろうか。<続く>

<備考1>カレッジフットボールのカンファレンスとディビジョン

日本では、プロのNFLに比べ、今一つ認知度の薄いカレッジフットボールだが、米国における存在感は極めて大きい。テレビの視聴率や、観客動員数、グッズ類の売り上げなどが巨額のマネーを動かし、NFLに勝るとも劣らぬマーケットとなっている。実質的に米国で2番目に人気のあるスポーツリーグという見解もしばしば耳にする。

カレッジフットボールは主に土曜日、NFLは主に日曜日に試合をする。2人の巨人は、共存共栄だ。お互いに、試合のある日を侵食しない。土曜日はカレッジ、日曜日はNFLをテレビで見るのが、アメリカ人の秋から冬にかけての生活のリズムとなっている。

トップカテゴリーのFBS(フットボール・ボウル・サブディビジョン)に130校、上から2番目のFCS(フットボール・チャンピオンシップ・サブディビジョン)に124校が所属している。この2カテゴリーを合わせたのがNCAAディビジョン1(1部)だ。

10万人を超す観客の前で試合をするオハイオ州立大

=photo by Getty Images

FBSは、10のカンファレンスがある。カンファレンスは大まかに地域で区分したリーグのようなものと考えてよい。

そのうち、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア、イリノイなど、米東部から中部にかけて広がるBIG10、フロリダ、サウスカロライナ、ルイジアナ、テネシー、アラバマなど南東部諸州を本拠とするSEC(サウスイースタンカンファレンス)、カリフォルニア、ワシントンなど太平洋岸諸州のPAC12、テキサス、オクラホマなど米南西部諸州のBIG12、南北大西洋岸を本拠とするACC(アトランティック・コースト・カンファレンス)の5つが、メディア露出が多くテレビ中継の頻度も高いメジャーカンファレンスで、一般には「パワー5」と呼ばれている。

残りの5カンファレンスは、MAC(ミッドアメリカンカンファレンス)、C-USA、MWC(マウンテンウエストカンファレンス)、サンベルト、AAC(アメリカンアスレチックカンファレンス)で、「グループ5」と呼ばれる。

このパワー5とグループ5の間には明確な格差が存在している。

パワー5とグループ5の計10カンファレンスには、昨シーズンの場合、124校が所属。残りの6校は独立校となっている。独立校の中には、有名なノートルダム大学がある。この独立校の数字は年によって変化がある。

FCSには合計13のカンファレンス/リーグがある。ハーバード大学やコロンビア大学、プリンストン大学などからなるIVYリーグは、FCSに所属している。

<備考2>カンファレンス戦とノンカンファレンス戦

FBS所属大学の年間の公式戦数は最大12試合。これにはカンファレンス優勝決定戦、ボウルゲームや、全米4強からスタートするカレッジフットボールプレーオフは含まれない。

FBSでは、8試合もしくは9試合が、カンファレンス内対戦となる。カンファレンスタイトルはこの勝率で争われる。そうなると、年間12試合の公式戦の中で、タイトル争いに関係ない試合が3~4戦生じる。

ここにカレッジフットボールの独特な仕組みがある。

ノンカンファレンスゲームは、
(1)他カンファレンスの強豪校や伝統校との対戦
(2)独立校との対戦
(3)パワー5所属校とグループ5所属校との対戦
(4)下位カテゴリーのFCS所属校との対戦
に分けられる。

たとえば、カンファレンスに所属しないノートルダム大学は、(2)で他の有名校と対戦することで、主な対戦が埋まる。ノートルダム大学は、単独でテレビ局と全米放送の契約を結んでおり、注目度が高いため、対戦するのは強豪校が多い。対戦相手もノートルダム相手となると、ノンカンファレンス戦であっても真剣にたたかうことになる。そこには後述するランキングも影響している。

パワー5カンファレンスの伝統校、例えばオハイオ州立大(BIG10)の場合、過去5シーズンのノンカンファレンス戦16試合中14試合が、試合種別的には(3)に該当し、ホーム開催だった。平均すると、ほぼ年3試合だ。オハイオスタジアムは、全米で3位の10万2800人収容。カンファレンス内対戦は原則ホーム&アウェイなので、最大でも5試合しか本拠地開催ができない。それが3試合も増えるのだから、「ありがたい権益」だろう。

本拠地開催のメリットだけではない。パワー5の強豪校とグループ5所属校は、実力差が大きい。ある程度勝利を見込める対戦相手を3試合確保していることになる。ここで、控えや下級生選手を試すことなどもできる。

それでは、グループ5所属校のメリットはどこにあるのか。

まず大きいのは対戦料だ。グループ5所属校のスタジアムは3万~4万人収容のスタジアムだ。テレビ放映料もけた違いに安い。カンファレンス内だけで試合をしていたらチームの収益が上がらない。

 強豪校のホームで試合をすれば、そこで得られた大きな収入の一定部分はアウェイチームの取り分となる。対戦相手によっては、1試合で「億」を超える収入がアウェイ側にももたらされるという。選手から見ても、全米が注目する大学との対戦で活躍すればNFLのスカウトに注目されることになる。

加えて、「金星」を狙える。実力差は大きいが、フットボールに絶対はない。グループ5の所属校が、パワー5の強豪校を破るアップセットは、カレッジフットボールの醍醐味の一つだ。

そして、ノンカファレンス戦に一、大きな意義を与えているのは、ランキング制度だ。

 NCAAの全スポーツの中で、最もメジャーであるフットボールの最上位カテゴリーだけに、王座決定戦がなかった。そして現在行われているのも、NCAAのオフィシャルなチャンピオンシップではなく、「実行委員会方式」によって王者を決めているに過ぎない。

 1998年から始まったBCS(ボウルチャンピオンシップシリーズ)選手権で、カレッジフットボールには、初めて「全米王者決定戦」が創設された。それより前は、記者投票やコーチ投票によって、全米1位を決める仕組みしか存在しなかった。とはいえBCSも、ランキング1位と2位の大学が戦う仕組みだったし、2014年に、現在のカレッジフットボールプレーオフに引き継がれたが、これもランキング上位4チームによるトーナメントに過ぎない。

ランキングは、公式戦の勝敗や試合内容に影響される。ランキングの中では、ノンカンファレンス戦もカンファレンス戦と同様に選考対象となる。

 カンファレンスタイトルだけを狙うのであれば、ノンカンファレンス戦は無視してもよい。だが、パワー5のメジャー大学の本音は、「全米王者決定戦出場>カンファレンスタイトル」だ。そのために、ノンカンファレンス戦と言えども負けるわけにはいかない。

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