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2021-04-11

【ボクシング】スーパースターへの道をばく進。ジャロン・エニスがKO勝ち

豪快な右フック。エニスは右構えでもサウスポーでも、打ち込むパンチはどれもパワフル(Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME)

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 もっともホットな世界のウェルター級シーンで、期待の新鋭が大きなテストをクリアした。WBO世界ウェルター級7位のジャロン・エニス(アメリカ)が10日(日本時間11日)、アメリカ・コネチカット州アンキャスビルで、元IBF世界スーパーライト級チャンピオンのセルゲイ・リピネッツ(ロシア)との12回戦を6回2分11秒KOで終わらせた。

タフな元世界王者に何もさせないままKO

 デビューから丸5年、大型ホープとして注目を集めてきたエニスが元世界王者を圧倒。世界トップ戦線参入へ向け、新鋭という立ち位置からの『卒業』を宣言した。
 試合はスタートから一方的だった。丸太のように力強いエニスのジャブが、1階級下から上げてきたリピネッツを遠ざける。身長178センチ、リピネッツとの差は8センチとされるが、長くて速くて鋭いそのジャブの射程が、エニスをより大きくみせる。ジャブを軸に相手の打ち際に右クロスを合わせ、初回終盤にはサウスポースタンスにスイッチして左ボディストレートを突き刺すなど、思うがまま攻めを組み立てた。
 元キックボクシングの世界王者というバックグラウンドを持つリピネッツは、タフなファイターとして知られている。2017年11月に、元日本ライト級、WBOアジアパシフィック・スーパーライト級チャンピオンの近藤明広(一力)との王座決定戦を制して世界タイトルを獲得。翌年3月の初防衛戦でビッグネーム、マイキー・ガルシア(アメリカ)にベルトを譲り、2018年8月の再起戦からウェルター級で戦っているが、いまだKO負けはない。しかし、この日は軽やかに動くエニスの前で攻めの糸口をつかめないまま被弾を重ね、4回にはバランスを崩してフロアを這ってカウントを数えられた。このダウン自体はスリップ気味だったが、ダメージを貯めているのは明らかだった。
 頑張り続けるそんな元チャンピオンを、エニスは仕留めにかかる。6回終盤。右フックでふらついたところを見逃さなかった。追撃の右フックから左ストレートを叩きつけると、ついにリピネッツが力尽きたようにキャンバスに落下。ベテランレフェリーのアーサー・マーカンテ・ジュニアは、カウントを数えることなく即座にKOの判断を下した。
並みいるウェルター級のスターたちも含め、今一番強いのはこの男?(Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME)
並みいるウェルター級のスターたちも含め、今一番強いのはこの男?(Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME)

「年内の世界チャンピオンになる」

「リピネッツは世界のトップにいた選手。彼が粘り強いことはわかっていた。だから急がずに、時間をかけて崩していったんだ。彼に、試合を受けてくれたことを感謝したい。この勝利で“卒業”と言えると思う。もう上へ行くしかない。忍耐は大事だけど、今年の終わりか来年には世界チャンピオンになっているような気がするよ」と無傷で語った23歳のエニスは、27戦27勝25KO。リピネッツは19戦16勝(12KO)2敗1分。
 先月、同じく若手のウェルター級ハードヒッター、WBO2位のバージル・オルティス(アメリカ)が元世界王者のモーリス・フッカー(アメリカ)をKOして世界戦線にアピール、世界上位に進出したが、攻防の創造力、幅広さ、という点ではエニスのほうが優れているのではないか。WBC・IBF王者エロール・スペンス(アメリカ)やWBAスーパー王者ヨルデニス・ウガス(キューバ)、“レジェンド”マニー・パッキャオ(フィリピン)はじめショーン・ポーターやダニー・ガルシア(ともにアメリカ)ら、ウェルター級の大物たちと同じプロモーション・グループ(PBCプ=レミアムボクシング・チャンピオンズ)の中にいる。ただひとつの気がかりは、契約が今も有効だとする旧プロモーターから訴えられていること。問題に決着がつき、若き才能が晴れ晴れと世界タイトルのチャンスへ向かうことを祈りたい。

文◎宮田有理子 Text by Yuriko Miyata

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