アメリカンフットボールの第67回早慶戦が東京都世田谷区の駒沢陸上競技場で行われ、早稲田大学が慶応義塾大学に37-13で勝利した。早大のゲームMVP「カム・コーザ杯」には、創部史上初となる春の早慶戦5連勝に貢献した、QB#1の柴崎哲平(4年)が選出された。やられてもやり返す、早稲田が勝負強さを見せた試合だった。
柴崎は、「春の初戦で、ひとつ結果を出せたことは、チームにとっても良い流れにつながると思う」と、高校(早大学院)時代から数えて7年目の早慶戦を振り返った。
先攻の早稲田は、今季から先発したRB#44広川耕大(3年)のランなどで小気味よくドライブし、柴崎からWR #6ブレナン翼(4年)へのタッチダウン(TD)パスで先制した。ファーストシリーズにテンポよく得点できたことは、試合の主導権を握る意味で大きく、手応えも十分にあったという。
パサーのイメージが強い柴崎だが、この日は自らの足でもTDを奪った。オフェンスメンバーの総力で戦うスタイルを徹底し、常に「(自分では)走らない」と公言してきた柴崎だけに、印象的なプレーだった。このランは、素直に嬉しかった反面、TD後の表情にも垣間見えた「(パスで決め切れずプレーが崩れた中での)アドリブ的な側面もあったため、手放しでは喜べなかった」という感想が、緻密に攻撃を組み立てる柴崎らしい。
柴崎は後半に入り、一度ベンチに下がったが、慶応のスペシャルプレーでTDを奪われて2本差に詰められた第4クオーターに、再びフィールドに入った。ここでWR#19伊藤裕也(4年)にTDパスを決め、慶応を突き放した。このシリーズで攻め切れたことは、収穫が大きかったという。試合後、高岡監督がハドルで「集中力が切れなかったことが良かった」と総括した通り、チーム全体の意識としても、一定の成果をがあった。
QBとして反省もあった。第2クオーターに、慶応ディフェンスのエッジラッシュを受け、ボールをファンブル。ターンオーバーの末に慶応にTDを許し、試合のモメンタムを失いかけた。柴崎はここで、「一度冷静になり、ギアを入れなおした」と、崩れることなく冷静に攻撃を立て直し、前述のTDランに結びつけた。個人として勝負所で集中力を発揮できたのは、校外のトレーニングにも通い、意識的にメンタルを強化してきたことが、結果につながったという。
一方で、「的を絞らせないオフェンス」をテーマと考えた時、満足できるパフォーマンスにはまだ遠い。「どうしても結果を意識してしまい、まだまだWRやRBを生かし切れていない」と、控えめな「72点」だった。
元山&片岡という、下級生から出場してきた「RB二枚看板」が卒業したが、試合の序盤、#44広川、#25吉澤祥(2年)の2人のRBを見て、不安は消し飛んだ。2人はTDこそなかったものの、早稲田のRBらしいパワフルで気持ちの強い走りを見せた。柴崎も、「今年はより密なコミュニケーションが取れていて、合わせの調整やパートの練習時間も増えた」という。下級生ということもあって、日々成長が実感できており、「伸び代だらけ」とも表現した。秋に向けて成長が楽しみなユニットだ。
昨季、エースQBとして独り立ちした柴崎は、大きな怪我をすることなく、関東学生TOP8のリーディングパサーとして、甲子園ボウル出場に貢献した。甲子園では敢闘賞も受賞したが、チームとしても個人としても、「関西勢に勝つ」という目標はいまだ達成できていない。昨年は、一定の自信を持って臨んだが、関西学院大に歯が立たず、完敗した。
2015年、2016年、そして2018 年と過去4シーズンで3回出場。チーム内で「甲子園」へ向けた意識は着実に高まっている。しかし、改めて関西を意識したときに、チーム内の厳しさや、自分だけでなく周囲に気を配ることができるメンバーがまだまだ足りないとも話す。
今回の早慶戦では、これまで出場経験がないメンバーも多く試合に出場し、活躍した。その一方で、慶応に、第4クオーター冒頭に、パス失敗と見せかけてからのスペシャルプレーでTDパスを決められた。単に騙されたということではない。あの場面、審判の笛はなっておらず、プレーが続いていた。フォワードパスではないと、米国から来たベテラン審判のビル・レモニアさんがしっかり判断していたからだ。早稲田からすれば「笛がなるまでプレーをやりきる」という、基本中の基本ができていなかったことになる。
最終学年の今年、甲子園ボウルで優勝するという目標を達成するために、大小ひとつひとつの課題を、チーム全体で解決していく。それが、今季、オフェンスの司令塔と副将を兼務する柴崎の課題でもある。
【写真・文/北川直樹】
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