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2021-06-28

【陸上】男子110mハードル:泉谷駿介が見せた世界トップレベルの日本記録更新劇

まだまだ高い潜在能力を秘めている泉谷 写真/中野英聡

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東京五輪代表選考会を兼ねた陸上の第105回日本選手権。4日目の6月27日に行われた男子110mハードル決勝で泉谷駿介(順大4年)が13秒06(追い風1.2m)とこれまでの日本記録13秒16を大きく更新しての優勝を果たし、東京五輪代表内定を決めた。

 5月の関東インカレ予選で13秒30と東京五輪参加標準記録(13秒32)を突破していた泉谷。4月の織田記念で13秒16と大会前時点の日本記録を出していた金井大旺(ミズノ)、前日本記録13秒25を持つ高山峻野(ゼンリン)と共に三強の一角と目されていた。

 取り巻く状況が変わったのが準決勝だ。19歳の村竹ラシッド(順大2年)が13秒28とこちらも五輪標準記録を突破。関東インカレで泉谷に次いで2位に入っていた後輩の台頭に、「決勝に向けてのモチベーションが上がった」と準決勝後に気を引き締め直していた泉谷。代表争いは4者による3枠争いへと変わった。

 27日の決勝もすんなりとは動かなかった。静寂のなかでスタート、その直後にやり直しを告げるピストルが鳴る。不正スタートの判定で13秒37のベストを持つ石川周平(富士通)と村竹が姿を消した。

 村竹の隣のレーンにいた泉谷だったが、「2回目に向け、影響はなかった」と振り返る。その言葉通り、仕切り直しのレースではスタートから1台目までスムーズに加速し、ハードル間を刻んでいくと中盤から抜け出す展開に。そこに金井もついていけない。そのままフィニッシュに駆け込んだ瞬間にタイマーが示したのは13秒06の数字。日本記録を0.10秒更新する今季世界3位のタイムだった。

「今回の競技の感想はとりあえず率直な気持ちでうれしいが大きいです。うれしくて安心しました」

 これがレース後の第一声だ。誰もが目を疑う大記録にも本人はまず代表を決めたことに安ど感を示した。

 関東インカレ決勝では追い風5.2mの強烈な追い風の中、13秒05の参考記録で走っていた。「そのときは風に押された感じ。あまりスタートからいけなかったが、今回は自分の力で走ったイメージが大きいです。ハードル間のインターバルの刻み方やハードリングなどすべての動きがその時からつながってきました」

 特にこの日の決勝ではインターバルの動きが良かったと振り返る。1カ月前の経験がいいイメージトレーニングになったようで、追い風1.2mの公認記録の範囲内で見事に再現した形だ。

 武相高校(神奈川)時代から八種競技、三段跳で活躍し、マルチに活躍してきた泉谷。底知れぬ潜在能力は、まだ完全には開花していない。特にスタート部分。昨年から、これまで8歩だった1台目までのアプローチを世界基準である7歩へと変えるべくチャレンジしてきた。その完成度は「まだまだかな」と本人は言う。ここが改善されれば、より高みへと手が届くはずだ。

 今回の好記録で一気にオリンピックのファイナルが現実に考えられるところまできた。残り1カ月は「変わったことをしないでこのままのイメージでいきます」と今の技術を洗練させるために時間を使う。この21歳はもう世界が注目する存在へと変わったことだろう。7月の東京でどんな姿を見せてくれるだろうか。その走りに期待したい。

文/加藤康博

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