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2021-08-15

【ボクシング】リゴンドー、“盗走”ならず。カシメロが攻め勝つ

勝利を喜ぶカシメロ。内容的にはパッとしなくても、勝てば次につながる

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 日本の誇るスーパーボクサー、井上尚弥(大橋)の近将来の対戦相手を占う注目の一戦、WBO世界バンタム級タイトルマッチ、WBOチャンピオンのジョンリエル・カシメロ(フィリピン)対WBA(レギュラー)チャンピオン、ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)の12回戦は14日(日本時間15日)、アメリカ・カリフォルニア州カーソンで行われ、期待を裏切り抜いた展開の末にカシメロが2-1の判定勝ちを収めた。

“手垢がついた”とか“百万遍聞いた”と言われても。この試合を表現するにはたった1つの比喩しか思いつかない。“砂を噛むような”。まさしく、そういう中身だったのだ。

 展開を細かく点検していけば、もちろんいろいろある。1ラウンド、首を引っ掛けられて両手をついたリゴンドーに、カシメロが追撃のパンチを何発か放ったこと。ようやくカシメロのパンチを見切ったリゴンドーが、中盤戦、ややフットワークを控えめにしてカウンター狙いをさらに印象づけた。ラウンド終了後にキューバ人がパンチを出して挑発した。あるいは、カシメロが両手を下げて“打ってこい”と挑発し、リゴンドーも同じく両手を下げて対応する。ただし、ボクシングが互いの拳を交換し、どちらが強いかを決する勝負だとするなら、そんなものはさざ波にすらならない。両者ともまるで手を出さないまま行き過ぎた3分間もあった。ラウンドマストというプロボクシングの採点の大原則がなかったとしたら、この一戦、120対120でもちっとも構わない。
クロスレンジで打ち合う。こういったシーンはきわめて少なかった
クロスレンジで打ち合う。こういったシーンはきわめて少なかった

 確かにパンチを当てた数なら、リゴンドーが上だったに違いない。ごく少数ながらサウスポーの右ジャブ、左ストレート、距離が近づきすぎたなら左アッパー。リゴンドーのボディワークが機能し出した4ラウンド以降、見当違いな空振りしかなかったカシメロに比べれば、より多くのパンチをヒットした。しかし、いずれもヒットではなく、タッチに見えた。あとは右に左にと足を使って逃げ回るだけだ。当然、場内からはブーイングが舞い飛ぶが、それもどこ吹く風とかつての2大会連続五輪チャンプは36分間、打ち合いからエスケープしきった。

 リゴンドーはむろん尊敬すべき大テクニシャンである。ただし、たまに自ら攻め込んでいったときの左ストレートにはスピードも、切れ味もまるで感じられなかった。だからこそ、40歳にしていまだ錆びついていないフットワークと、距離感覚をフルに稼働する戦法を選択したら、こういう戦いになったということか。最初はプレスをかけていたカシメロだが、動きと攻撃が単調で、結果として凡戦狙いにつきあってしまった。

 採点は115対113でリゴンドーが1人と、残る2人が116対112、117対111でカシメロ。無礼な言動で物議をかもすフィリピン人だが、より戦いに真摯だったと評価されたのだろう。ただし、本人が試合後にアピールしたノニト・ドネア(フィリピン)、井上との対戦を推し進めるほど魅力的な戦力の持ち主とは、とても評価できなかった。

文◎宮崎正博(WOWOW観戦) 写真◎ゲッティ イメージズ Photos by Getty Images

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