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2021-09-09

【ボクシング】中谷潤人がLAキャンプ打ち上げ V1戦に向け「やりきった」

初防衛戦に備えアメリカ合宿で鍛えた中谷(中央)

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 WBO世界フライ級チャンピオンの中谷潤人(M.T)が9月6日(日本時間7日)、初防衛戦に向けたアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスでの最終調整合宿を打ち上げた。指名挑戦者で元WBO世界ライトフライ級チャンピオンのアンヘル・アコスタ(プエルトリコ)との決戦地アリゾナ州ツーソンへ、明日7日に移動。ゴングは10日夕刻(日本時間11日朝)となる。

濃密なキャンプ

 8月20日にロサンゼルス入りしてから2週間半。70ラウンドに及ぶスパーリングを含む最終キャンプを打ち上げた23歳の世界チャンピオンは、ひと息ついて言った。

「やり切ったな、という気持ちです。スパーリングも最後まで悔いなくできたので。あとは本当にもう、体重調整だけですね。練習終わった状態で、あと2キロくらい。順調です」

 その表情にみえる疲労感と充実感が、このキャンプの濃密さをあらわしている。日本でも週40ラウンド、2カ月にわたって実戦練習を積み、渡米後も翌日からスパーリング。2週目には隔日10ラウンドを行い、間の日はフィジカルを追い込むトレーニング。試合直前、体重をつくりながらのキャンプでも、何度も重ねてきたロス合宿と強度はかわらない。

「今回に限らず、いつも直前まで追い込んだ練習をします。きつくてもやり切ることが、リングで戦う上での支えになるので」という長身サウスポーにとって、今回の厳しい練習も自ら望んだこと。それでも、かなり苦しい時期もあったと告白する。

「2週目(23日からの週)は、時差ボケがあるなかで、スパーリングのラウンドが長くなって、きつかったです。ほんと、カラダが寝ているな、と感じていました」

 そんな時期も乗り越えて、翌週は2度の12ラウンド・スパーを敢行した。パートナーは、先週と同じく、東京五輪アメリカ予選フライ級優勝のアンソニー・エレラと、現WBA中米連盟バンタム級チャンピオンのサウル・サンチェス(ともにアメリカ)の二人。最初の水曜日は、早い回にエレラのいいパンチをもらう場面があった。が、表情に出すことなく、ルディ・エルナンデス、岡辺大介、両トレーナーの指示を各ラウンド試し続けた。そして最終金曜日の12ラウンドでは、前回からの修正に手ごたえを感じることができたという。

「水曜日があって、修正をして、金曜日の内容があったと思います。ここでのスパーリングはやっぱりものすごく緊張感があります。二人ともアグレッシブな選手で、ほんの少しの緩みでも突いてくる。そういう意味で、実戦にかなり近い練習ができたので、あとはやってきたことを、試合で出したいと思います」

アメリカに「凱旋」

 挑戦者となるアンヘル・アコスタは、2017年当時、WBO世界ライトフライ級王者だった田中恒成(畑中)に敗れた印象が、日本のファンには残るはず。その半年後に田中が返上した王座を獲得し、4度目の防衛に失敗した後、フライ級に上げてきた。163cmという数字より小柄にみえる体格だが出入りの幅は広く、独特のタイミングに自信がみえる積極派のフッカーだ。

「左フックを力強く打ってくる、“振る”系のボクサーですよね。打たせると勢いづいてくるでしょうから、相手をじらして、パンチをはずして、当てさせない、というのがまず大事。遠い距離のボクシングが自分本来のボクシングですが、中で打ち合うこともあるかもしれない。どこでも対応できるボクシングを見せたい。元世界チャンピオンで、名前を知られているアコスタに、いい勝ち方でアピールしたいと思います」

 世界チャンピオンになることを夢見て中学卒業後に単身アメリカに渡り、エルナンデス家という“第二の家”を築いた中谷が、日本でプロの階段を上がり、世界チャンピオンとなって、アメリカで初防衛戦を迎えるのだ。いわば、凱旋試合である。

「いつかアメリカで試合をしたい、というのはモチベーションのひとつとしてありました。でも考えていたよりずっと早い実現です」

 昨年11月、度重なる延期を乗り越え、ジーメル・マグラモ(フィリピン)を8回KOに下して世界王座を獲得した時と同様に、コロナ禍中という状況は続いている。もし予定どおりに5月に日本で開催されていたら、“アメリカデビュー”は、まだだいぶ先だったかもしれない。

 世界随一の老舗プロモーター、トップランク社の興行という大舞台。ESPN+で広くライブ配信される機会である。エルナンデス・トレーナーは、この初防衛戦が教え子にとって、今後を切り開く大きなチャンスであると考える。

「勝つだけでなく、“ぜひ彼の試合をまたアメリカで”とプロモーターの気持ちを動かすような勝ち方を目指している」

ジュントが一番

 目利き、腕利きのトレーナーとして、カットマンとして知られるエルナンデス氏の、中谷に寄せる信頼は絶大だ。10年前にガンで世を去った実弟、元WBA、WBC世界スーパーフェザー級の名王者だったヘナロ・エルナンデスの勤勉さを引き合いに、こんな話をする。

「ヘナロほど、ボクサーとして自分の生活を律することができる人間はいないと思っていた。ヘナロが世界で一番だと信じていた。でもジュントを見ていると、ヘナロを二番にするしかない。ジュントが一番だ。どんな誘惑にも負けず、彼はジムを選ぶことができる。ランニングも食事も、すべて自分のことは自分で管理できる。100パーセント、ジュントを信用できる」

 1年半ぶりのロサンゼルス。前回と今回で違うのは、中谷潤人はすでに世界チャンピオンであり、初防衛戦を前にした滞在である、ということだ。しかし、何も変わらない。今までのキャンプと同様にエルナンデス家に居候している。それが「当たり前のこと」なのだという。炊飯器と米を持ち込み、自炊する。走る時間がくればひとり裏山の急な坂道で歯を食いしばる。50.8キロがリミットのフライ級で「日本で最近測って、まだ伸びていてびっくりしました」という171.6センチの長身で、減量が厳しいことは否定しない。が、あくまで淡々と言う。

「完全休養だった昨日の日曜日から、もう米は食べていません。今日はこれから……かぼちゃと、サラダ、です」

 これほど謙虚でひたむきな世界チャンピオンに、ボクシングの神様は微笑まずにいられるだろうか。

「世界チャンピオンになって、すぐに、まだまだこれからだな、と思いました。フライ級でいられる時間はそう長くないと思いますが、すごいビッグネームがたくさんいるスーパーフライ級に上がる前に、フライ級で自分の名前をあげておきたいです。統一戦もしたいですし、そのためにも、ほかのチャンピオンたちの意識に刺激を与えられるような、戦いをみせたいと思っています」

 M.Tジム陣営と、いつも試合を現場で見守る家族も明日、現地で合流。計量を終えれば、料理人の父が日本から持参する大好物のうなぎが待っている。コロナ禍の逆境をチャンスに変えて、アメリカのリングでインパクトを残してほしい。

<興行>
 試合はツーソンのカジノ・デル・ソル内の屋外円形劇場で行われる。禁止薬物陽性が発覚したWBC世界スーパーフェザー級王者オスカル・バルデス(メキシコ)は予定どおり出場が許可され、リオ五輪ライト級金メダリストのロブソン・コンセイサン(ブラジル)と初防衛戦を行う。これをメインに、9試合を予定。ESPN+のライブ・ストリーミングは午後2時半(日本時間午前6時半)にスタートし、中谷は7試合目とみられる。午後7時(日本午前11時)までには結果が明らかになっているはずだ。

写真
アンソニー・エレラ(左)は東京五輪全米トライアル優勝、その後の選考過程で東京行きはかなわず。10月にプロデビューを予定している。サウル・サンチェス(右)はタフネスを誇る好戦派。現WBA中米連盟バンタム級王者。9月24日に防衛戦予定。

文・写真/宮田有理子

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