アメリカンフットボール・Xリーグの最上位「X1スーパー」は9月19日、第2節のオービックシーガルズ対IBMビッグブルーの1戦は、千葉・習志野市の第一カッターフィールド(秋津サッカー場)であり、今季初戦のオービックがIBMに快勝した。
オービックシーガルズ○41-20●IBMビッグブルー(2021年9月19日、第一カッターフィールド) 第1節のゲームが中止(オール三菱ライオンズの出場辞退)となったため、今季初戦の王者オービックが、2連覇に向けて好発進した。
先制したのはIBM。新米国人WRジェイソン・スミスの48ヤードのキックオフリターンで攻め込み、第1クオーター(Q)3分、K丸山和馬が41ヤードのフィールドゴールを決めた。
オービックは第1Q6分にQBジミー・ロックレイがTEホールデン・ハフに16ヤードのタッチダウン(TD)パスを決めて逆転。8分には、インターセプト後のファーストプレーでロックレイがハフに38ヤードのパスを決めた。
オービックは、11分にもロックレイがWR野崎貴宏に2ヤードのTDパスを決めて第1クオーターで21-3とリードした。
IBMは第2Q、K丸山が48ヤードのFGを決めるが、オービックは4分にRB地村知樹のランTD、6分には星野貴俊のFGで31-6として、後半へ折り返した。
IBMは第3Q 4分、QB政本悠紀からWRスミスにパスが決まって初TD。オービックは後半からロックレイを休ませて投入したQB小林優之が8分にWR小坂健太にTDパスを決め、差は縮まらず。IBMは10分に政本からTEジョン・スタントンに11ヤードのTDパスを決めたが、オービックは第4QにK星野のFGでダブルスコアとして試合を終えた。
オービックは、DTにルーキーの小山健太ら、若手を多数起用してローテーションした。ベテランのバイロン・ビーティ―JRや清家拓也、平澤徹がフレッシュな状態でプレーできたこともあって、試合を通じてIBMのQB政本にプレッシャーをかけ続けた。政本は完全にリズムを崩し、3インターセプトを喫した。
連覇に向けオービックのジョーカーになるか オービックにとって2年ぶりのホームゲーム。スタンドのファンを沸かせたのは、試合後のオービックTEハフのあいさつだった。ハフは最後の「気を付け、礼」までをすべてたどたどしさのない、しっかりとした日本語でこなした。その後の取材陣との質疑も、質問は英語で受けたが、話す方はすべて日本語で答えた。来日4シーズン目、「日本が大好き」という29歳の陽気な青年にとって、それほど特別なことではなかった。
特別だったのは、試合におけるパフォーマンスだ。ディープターゲットとして、2本のTDパスを含め5回のキャッチで101ヤードは文句なしだった。1本目のTDパスは、ロックレイがハフの身長を生かしたハイボール。カバーしていたIBMのLB寺林にはどうにもならない高さだった。
198センチの長身に加え、リーチも長い。高校時代はWRでスピードも日本のレベルでは十分に速い。レシーバーとしてなによりも大切なシュアハンドを持っている。ハフにコントロールされたハイボールを投げれば日本人のDBではカバーできない。これが本来のハフの姿で、「なぜ今までこの起用法が、なかなかできなかったのか」と感じた。
オービックの大橋誠HCは「(ロックレイとハフのホットラインは)我々のチームのビッグウェポンにしなければならないという課題だった。ここへきて一段と成熟させることができた」という。
ハフは「ちゃんと準備をしていたから、勝つのは間違いないという気持ちだった」という。自身のパフォーマンスを数字で聞かされ「ワオ!気持ちいい。でも、一番大事なのは勝つこと」。QBロックレイとはボイジー州立大時代からの友人で、2019年終了後にはロックレイがノジマ相模原ライズから移籍する際の相談相手にもなった。
ハフはロックレイとは、ほぼ毎日練習しているという。チーム全員はそろわないので、普通のキャッチボール、ルート練習といったメニューをこなす。昨年に比べてロックレイとの関係がどう変わったのかという質問には「そんなに変わっていない。でも、ゲームプランの中で、僕にパスを投げるのが“美味しそう”ということがわかってきた」という。
パッシングゲームを担当する菅原俊QBコーチに、この試合でハフが覚醒した理由を聞いた。菅原コーチは「ハフ自身が、自分の役割をしっかり明確に把握できてきた」という。
「時間はかかったのですが、自分の役割、そしてXリーグでの自分の強みというものが、しっかりわかってきたんじゃないかと思います。ロングルートも走れるし、キャッチも上手い。そしてもともとブロックが強い」
次戦の相手、ノジマ相模原は、190センチの長身DB、リー・ハイタワーがいる。ハフは「まずはフィルムを見てしっかりと準備を」と話し、菅原コーチは「我々WRのチームには、他にも選手が多数いるので、チームとして戦う」と語った。
NFLでは、21世紀に入ってからの20年と、その前では、TEが最も劇的に変化したポジションの一つだ。1990年代は2人しかいなかったシーズン1000ヤード以上キャッチするスーパーTEが普通になった。オフェンスのジョーカーとなったのだ。
トニー・ゴンザレス(元チーフスなど)、ジェイソン・ウィッテン(元カウボーイズなど)、アントニオ・ゲーツ(元チャージャーズ)は、それまでNFLにそんざいしなかった、通算1万2000ヤード以上のレシーブを記録したTEとなった。
現役選手でも、トラビス・ケルシー(チーフス)は史上初めてTEとして5シーズン連続1000ヤードを超えたし、ロブ・グロンコウスキー(バッカニアーズ)は引退を経て復活し、今もQBトム・ブレイディのメーンターゲットとなっている。
Xリーグでも、同じことが起こり得る。連覇に向けた王者の最大の武器が、ジョーカーとなったハフなのかもしれない。