寒い時期、心温まる話を聞くのはうれしいものです。平成22(2010)年に突然、全国的に広がった、さまざまな事情から養護施設で暮らす子どもたちに幸せのおすそ分けをする“タイガーマスク運動”もその一つですね。思いがけないプレゼントをもらったり、あげたりすると、もらうほうも、あげるほうも、心豊かになります。今回のキーワードは「プレゼント」です。
記録が結んだ縁こんなご祝儀の渡し方もある。平成18(2006)年春場所、把瑠都が十両優勝を全勝で飾った。十両の全勝優勝は非常に珍しく、これが昭和38(1963)年九州場所の北の冨士以来43年ぶり、史上4人目のことだった。
把瑠都が有終の美を飾った千秋楽のNHKテレビの解説者は、その十両全勝優勝の大先輩、北の富士さん(元横綱)だった。北の富士さんはマイクを通じて、
「おめでとう。君に(記録で)並んでもらって非常にうれしい。次は優勝を目指してがんばれ」
と把瑠都を祝福し、師弟関係も、一門も、無縁だったにもかかわらず、NHK関係者を通じてご祝儀を贈った。中身は10万円だった。
ご祝儀を渡された把瑠都は、どうして北の富士さんから届いたのか、わけがわからず、
「冗談でしょう」
と初めはキョトンとしていたが、北の富士さんが十両全勝優勝の先輩で、誰よりもこの全勝優勝を喜んでいたことを知ると跳び上がって喜び、場所後、このお金は十両優勝の賞金などとともにエストニアに住む母親、ティーナさんにそっくりプレゼントした。
この話には続きがある。場所後、本誌(平成18年夏場所展望号)で北の富士さんと把瑠都の新旧十両全勝力士が対談した。この中で、北の富士さんが、
「オジさんはネ。新入幕のときに13番勝ったんだよ。今度13番勝ったら、また懸賞を出そうかな」
というと、すでに入幕が決定的だった把瑠都はニコニコしながら、
「ゴッツァンです」
と頭を下げた。
この言葉どおり、把瑠都はこの場所も怪物ぶりを発揮。13日目まで2敗を守って13勝ペースだったが、14日目、優勝争いをしていた西関脇雅山に敗れて3敗となり、万事休す。支度部屋に引き揚げてきた把瑠都は、
「立ち合いはよかったのに。これでもう場所は終わりだ」
とうらめしそうに天井を仰いだ。柳の下に2匹目のどじょうはいなかったのだ。
結局、この場所、把瑠都は千秋楽も優勝した白鵬に負け、11勝4敗に終わったが、賞金200万円の初の敢闘賞を獲得。最後はやっぱり大輪の笑顔だった。
月刊『相撲』平成23年2月号掲載