19日、東京・後楽園ホールで行われたスーパーフライ級8回戦は、前日本同級王者で現3位の中川健太(35歳=三迫)が、同級8位・廣本彩刀(ひろもと・あやと、24歳=角海老宝石)をジャッジ三者とも77対75とつける僅差判定で下した。
写真_小河原友信
“サンダーレフト”の火がつきかけたのはラスト8ラウンドだった。廣本の入り際にショートの左を決めて、さらに追撃の左ストレート。疲れも相まったのだろう廣本は、これで一瞬動きを止めた。クリンチとなって両者絡まりながら倒れ込み、あわや場外に落ちそうになる。ともに疲れは極致に達していたはずだ。が、なおも攻め込む中川に、廣本も最後の力を振り絞って右を決め、前王者を戸惑わせた。
廣本の左は、中川にとって厄介だったはずだ 初回から、中川は廣本にやりづらさを感じていたのではなかろうか。サウスポー中川の右腕の中を通す左リードが、前王者の鼻っ柱を捉える。中川が入り込もうとすると、左ショートフックを合わせる。コンパクトで威力や派手さを感じさせないものだが、このブローは、試合を通して終始、中川を悩ませていたように思う。
昨年12月、廣本のジムの先輩、福永亮次との“三冠”を賭けた対決に10回TKO負け。日本王座を失った中川は、ふたたびの王座を目指し、満を持しての復帰だった。
思うように左をヒットできなかった中川。廣本は打ち終わりに右や左フックを合わせた 異名どおり、中川は左ストレートを主体とするボクシング。右はリズムを取るためにほとんどを費やすもの。右グローブで再三フェイントをかけ、上体や足のクイックな動作でタイミングをずらし、左をストレート、オーバーハンドと変化させて放つ。遠い距離をキープし、ガードでそのほとんどを防いだように見えた廣本の巧みさを感じたが、派手で見栄えがよく、ジャッジの心証はよかったとおもう。
6回、廣本は右強打を立て続けにヒットし、中川を追い込んだ 廣本のベストラウンドは6回。強い右ストレートをヒットして中川にロープを背負わせると、左右のボディ連打。中川はカウンターを狙ったものの、廣本の押し込みにあって後退し、さらに追撃の右を浴びた。
リズムやテンポの変化が多彩で、それらが悪い場合に立て直す術を持つ点では中川に一日の長。だが、それに惑わされず、フットワークで距離を築き、左をヒットして中川にペースを渡さない廣本の上手さも心に残った。
中川の戦績は25戦20勝(12KO)4敗1分。5戦目にして初黒星となった(4勝2KO)廣本だが、東福岡高→芦屋大と名門ボクシング部出身らしさを披露。今後に期待が持てる選手だ。
文_本間 暁