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2021-12-07

【ボクシング】ジャーボンテ・デービスも人の子。苦闘の末に7年ぶりにKOを取り逃がす

得意の左アッパー。ジャーボンテ・デービスは何度もこの得意のパンチを決めた

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 WBA世界ライト級タイトルマッチ、チャンピオンのジャーボンテ・デービス(アメリカ)対イサック・クルス(メキシコ)の12回戦は5日(日本時間6日)、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスのステープルズセンターで行われ、戦前、圧倒的優位とされたデービスが想定外の苦闘を強いられながらも、3-0のスコアで判定勝ちを収めた。5ラウンドに左拳を痛めたというデービスは、7年前の6回戦時代以来、フルラウンドを戦うことになった。

 出されたスコアは116対112が1人、残る2人が115対113。2ポイント差ということは、あと1ラウンド、挑戦者が優勢に戦っていれば引き分けとなる極少ポイント差である。ただし、この2点差のゲームはどうあってもひっくり返らない。デービスは負傷による苦難に耐え、さらに厳しいクロスゲームの中でも、その中に超人的技巧と強打を織り込んで、『僅差の快勝』を勝ち取った。『僅差の快勝』とはへんてこな表現ながら、各ラウンドの採点をどちらかに必ず振り分けるラウンドマストシステムが世界の趨勢をしめてから、よくあることでもある。

 戦う前、デービスは余裕たっぷりだった。満員札止め、1万5850人が集まった会場の花道を歩いているときも、リングに上がっても笑顔を絶やさなかった。このところ、彼の試合はどこでやってもソールドアウト。気分がよかったのかもしれない。あるいは軽い相手だと思っていたのだろうか。当初、予定されていた不敗の前WBA暫定チャンピオン、ローランド・ロメロ(アメリカ)に2年前の性的暴行事件が発覚し、急きょ、対戦相手が変更になった。選ばれたクルスはランキングのトップ15にすら入っていない。だが、ほんとうは最も危険な対戦者の1人だった。闘犬のあだ名を持つクルスの身長はデービスより3センチ低い163センチ。その分、厚い体はどこまでも頑丈だ。長いラウンドになるとやや単調になるきらいはあっても、どこから飛んでくるかわからないビッグマッチはきわめて強い。なんとも厄介な相手だった。

 その小柄なメキシカンがガードを固め、低い姿勢で飛び込むとワイルドな左フックを打ち込んだ。デービスは2ラウンド以降、得意の左アッパーを顔面、ボディへと散らし、さらに右フック、左ストレートを打ち込んでいくが、4ラウンドには再び危ない場面も。クルスの強烈なボディブローで、一時的ではあっても動作が重くなった。
クルスはあきらめない。強引なパンチを打ち込んで、デービスを安心させなかった
クルスはあきらめない。強引なパンチを打ち込んで、デービスを安心させなかった

 5ラウンドになると、デービスはまったくの本気モードに入る。左パンチがすごい。切り返す右のフックのタイミングも神がかっている。クルスが懸命に維持してきた低い姿勢を解き、上体が立ってくる。そのとき、デービスの左拳に激痛が走ったわけだが、もちろん、誰も気がつかなかった。

「じっくりと攻めて、仕留める作戦」を変更したデービスは、その後、左右へのステップを織り交ぜて、多角的なパンチを多用する。そのすべてに耐えていたクルスが、8ラウンドに左フック2発、さらに右アッパー2発を反撃するころには、デービスはノックアウトを完全にあきらめたのだろう。9ラウンドは、多彩な動きからシャープなパンチを浴びせて、豪打だけが自分の本領ではないとアピール。11ラウンド以降は、左拳を1度も使わないまま、終了ゴングまで逃げ切ってみせた。
デービスは左手を痛めたと試合後のインタビューで明かしていた
デービスは左手を痛めたと試合後のインタビューで明かしていた

 結果のみで人は判断するのが常。デービスが代役挑戦者を倒せなかったことで、「超人ではなく、ただの人間になった」と書いたメディアもある。評価は仕方ない。ただ、個人的には、この27歳の男の可能性はいまだ無限大だと感じている。試合後、テオフィモ・ロペスを破ったジョージ・カンボソス・ジュニア(オーストラリア)との対戦を聞かれて、「簡単な仕事になるよ」と語り、変わらぬ自信も示した。負傷の影響が長引かなければ、やはりデービスこそがポスト・ロマチェンコの筆頭かもしれない。26戦26勝(24KO)。

 一方、敗れたクルスだが、大いに男を上げた。インタビューでは「勝ったのはどちらだったか、みんなは知っているはずだ」と最高のアピールもできた。そのタフネス、危険度の高さで、少なくとも魅惑の惑星になっていくはずだ。23歳という若さもある。トップクラスとの対戦も多数、計画されるかもしれない。25戦22勝(15KO)2敗1分。

文◎宮崎正博(WOWOW観戦) 写真◎ゲッティ イメージズ

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