米プロフットボールNFLのワシントン・レッドスキンズは、現地7月13日、「レッドスキンズ」の名称と、ヘルメットの側部に描かれたチームロゴなどを今後使用しないことを公式に表明した。
レッドスキンズは今月3日に、チーム名と先住民の横顔が描かれたロゴの見直しを表明していた。新しいチーム名とロゴは、9月に公表される見込みだ。 【小座野容斉】
レッドスキンズは13日付で
「本日、見直しを終えて、我々はRedskinsの名前とロゴを使用停止とすることを発表する。
(オーナーの)ダン・スナイダーと(ヘッドコーチの)ロン・リベラは密接に協力して、私たちの誇り高く伝統に富んだフランチャイズの地位を高め、次の100年間にスポンサー、ファン、コミュニティをインスパイアーするような、新しいチーム名とデザインに、アプローチしている」
という声明を発表した。
NFL屈指の名門チームであるレッドスキンズ。先住民を「赤い皮膚」と直接表現した名前とロゴは、民族の侮蔑に当たると批判され、以前から「アメリカスポーツ界の先住民マスコット問題」の中でも象徴的な存在となってきた。しかし、長年にわたる改名要求を歴代オーナーは、頑なに拒んできた。
それが一転、今回の決断となったのは、世界的な大企業からの圧力が理由だった。
レッドスキンズの本拠地「フェデックスフィールド」(収容人員約8万2000人)は、世界最大の物流企業フェデックスが、1999年に2025年まで、2億500万ドル(約220億円)で命名権を取得した。フェデックス創業者でもあるフレデリック・スミス会長兼最高経営責任者(CEO)は、レッドスキンズの部分所有権も保持している。
フェデックス、さらにスポーツ用品のナイキ、飲料のペプシコという、NFLと関連が深い世界的大企業に対して、87の投資家グループが、名称を変更しない場合、球団との関係を断つように求めた書簡を送った。投資家グループの資金総額はおよそ6200億ドル(66兆円)という。
7月2日、ナイキのウェブサイトからは、NFLの全32チームのうち、レッドスキンズの商品が消えた。フェデックスは、命名権契約の解消も辞さない構えを見せた。それが、3日の「見直し」表明に直結した。
投資家グループの判断に大きな影響を与えたのは、黒人男性ジョージ・フロイドさんの死亡事件に端を発し、全米に広まった「Black Lives Matter(BLM、ブラックライブスマター=黒人の命も大切だ)」運動だ。
6月2日に行われた、BLMの大規模な抗議行動「ブラックアウトチューズデイ」の際に、抗議に参加したレッドスキンズの選手に対して、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員が「本当に人種的な正義を実現したいのなら、あなたたちはチーム名を変えなければいけない」と話したという。
首都ワシントンD.C.のミュリエル・バウザー市長は、チーム名が、首都のコロンビア特別区(D.C.)内のスタジアムに戻るのを妨げているという見解を表明していた。レッドスキンズは現在、スタジアムがメリーランド州、球団事務所はバージニア州にあるが、1990年代まではD.C.の中に位置していた。
見直し作業中の7月10日、リベラHCは
「この問題は私にとって個人的に重要であり、(オーナーの)ダン・スナイダーと緊密に協力して、先住民と我々の軍隊を称え、支援するという使命を継続できることを楽しみにしている」とコメントしていた。
今回の決定に対し、20年間をレッドスキンズ一筋で過ごし、プロフットボールの殿堂入りも果たした名選手、ダレル・グリーンさんは「私はスナイダー氏がこの決定を下したことを称賛する」と評価した。
「これは正しい決断だと私は思う。歴史の和解と呼んでいる、この国のタペストリーの一部だと思う。長年にわたって不快を味わってきた人々がいるし、その痛みに対処する必要がある。このプロセスを開始できることをうれしく思う」と話している。
準地元とも言うべきメリーランド州で少年時代を過ごした、2年目のQBドウェィン・ハスキンスは、寂しさを感じさせながら「でも、未来を楽しみにしている」とtwitterで発信した。
2019年までレッドスキンズのチアリーダー、「ファーストレディーズ オブ フットボール」で4シーズンに渡って活動してきた橋詰あずささんは「長年使用されてきたレッドスキンズというチーム名には愛着があります。しかし、名称が変わっても私がチームのファンであることは変わりません。今後の展開を温かく見守って行きたいと思います」とコメントした。
レッドスキンズは、1932年に、マサチューセッツ州ボストンで創設され、1937年首都ワシントンD.C.に移動、現存するNFLチームの中では6番目に古く、1982、87、91の3シーズンでスーパーボウルにも優勝した名門チーム。
「レッドスキン」はアメリカ先住民を表し、チームロゴもアメリカ先住民の横顔をモチーフとしている。創設の1932年当初はブレーブスという名称だったが、同じボストンにフランチャイズを持っていた野球のブレーブスとの混同を避けるため、翌33年にレッドスキンズに改称した。
先住民の横顔のデザインは、32年から使用され、60年代から70年代にかけての数年を除いて、同種のデザインが受け継がれてきた。
レッドスキンズという名称に対する反対運動は、約50年近くにわたって続いてきた。
オックスフォード英英辞典で「redskin」という言葉は
a very offensive word for a Native American (= a member of any of the races of people who were the original people living in America)
「ネイティブアメリカン(=アメリカに最初から住んでいた人種に属する人々)にとって非常に不快な言葉」
と規定されるなど、多くの辞典でアメリカ先住民の否定的なステレオタイプにつながるような表現とされていたからだ。
レッドスキンズが2度目のスーパーボウル制覇を成し遂げた1987年シーズンの終了後には、当時のジャック・ケント・クックオーナーに対して、改名を求める手紙を書く運動が広がるなど、改名運動は全米的なものとなり、いわゆる「ネイティブアメリカンマスコット問題」象徴となった。
アメリカインディアン国民会議 (National Congress of American Indians、NCAI)に代表される先住民の団体だけでなく、公民権運動、宗教、教育機関、学者などの100を超える団体・機関が、レッドスキンズの改名を求めてきた。
2015年には、当時のバラク・オバマ大統領も、ホワイトハウスで開いた先住民の部族リーダーを集めた会議で「レッドスキンズの名前とマスコットは、先住民に対する否定的な固定観念を永続させる」と発言し、改名の必要性に言及した。
これに対し、レッドスキンズは、先代のクックオーナー、スナイダー現オーナーは、断固として改名要求を拒否してきた。
「先住民を賛美した言葉」としてチーム名を支持する人々は、2004年に行われた先住民に対する世論調査で、レッドスキンズという名称に対し大多数が不快感を持っていなかったという調査結果をもとに、擁護を訴えてきた。
2014年には、チームは「Redskins is a Powerful Name(レッドスキンズは強力な名だ)」と題したビデオをyoutubeにアップ。その中で十数人の先住民が、レッドスキンズの名称を支持し、球団を支持する姿勢を明らかにしていた。
ドナルド・トランプ大統領は、2016年の大統領選挙戦中に、「レッドスキンズ」の名称を支持していた。
今回、レッドスキンズに連動するように、カナダのプロフットボールCFLでも「エドモントン・エスキモーズ」が、チーム名見直しのプロセスを表明している。
カナダ政府は1991年、「エスキモー」と呼称していた先住民について、言葉としては「生肉を食べる人」という蔑称であり差別的であるとして廃止し、イヌイットを公式名とした。以来、カナダではエスキモーが差別語とされてきた。
他方で、チーム名だけで、先住民をイメージするマスコットやロゴは使用していないこと。アラスカでは、エスキモーは公式の語として存在しており、自らをエスキモーと呼称する部族があることなどから、エスキモーズは球団創設以来この名称を変えなかった。
エスキモーズは1949年に創設、CFLの王座決定戦「グレイカップ」で14回優勝した名門チーム。かってNFLヒューストン・オイラーズで活躍したQBウォーレン・ムーンが、最初に所属したことでも知られる。
NCAAフットボールでは、公立の名門校、マイアミ大オハイオが1997年にチームの愛称を同じレッドスキンズからレッドホークスに変更した。同大がレッドスキンズを名乗ったのは1928年からで、ワシントンよりも古い。大学の名称になっているマイアミは一帯に居住していたネイティブアメリカンから取ったもので、地域とのつながりもあったが、当時の学長が変更を決断した。
同校は、ロサンゼルス・ラムズのショーン・マクベイHCや、ボルティモア・レイブンズのジョン・ハーボウHC、ピッツバーグ・スティーラーズのQBベン・ロスリスバーガーの母校としても知られる。
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