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2022-04-24

【ボクシング】9万大観衆唖然! フューリー、圧巻の右アッパーでホワイトを6回TKO

フューリーは右アッパー一撃でホワイトを痛烈に倒した

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 23日(日本時間24日早朝)、イギリス・ロンドンのウェンブリースタジアムに9万4000人を集めて行われたWBC世界ヘビー級タイトルマッチ12回戦は、チャンピオンのタイソン・フューリー(33歳=イギリス)が、暫定王者ディリアン・ホワイト(34歳=イギリス)を6回2分59秒TKOで破り、2度目の防衛に成功した。フューリーの戦績は33戦32勝(23KO)1分、ホワイトは31戦28勝(19KO)3敗となった。

 勝負は正に一瞬で決まった。フューリーが丹念に突いてきた得意の左に、ホワイトが両ガードで反応する。続いて打ち込まれる右ストレートをおそらく想定し、フックをすかさずリターンする準備段階にも思えた。が、王者が選択したのはそのガードが視界を遮る“死角”から放つ右アッパーカット。この瞬間を得るまでに、ひた隠しにしてきたブローだった。

 アゴ先から左顔面を削り取られたホワイトは、背中からキャンバスに叩きつけられる。カウントが進む中、かろうじて立ち上がったものの、マーク・ライソン・レフェリーに前進を促されると193cmの体は前方に大きく揺らめく。レフェリーはその体を抱え、当然ながら右腕を振って試合を止めた。

ホワイト(右)は、意表を突いてサウスポーでスタートした
ホワイト(右)は、意表を突いてサウスポーでスタートした

 英国人同士。かつては互いを高め合うスパーリングもこなしていた両者。ともに手の内はある程度分かっていただろう。ホワイトは、初回の開始ゴングが鳴るとサウスポースタイルでスタートしてみせた。フューリーの意表を突く作戦だ。そうして右フックをボディに送り、身長で13cm下回り、懐の深さでも不利(両者のリーチはフューリー216cm、ホワイト198cm)な相手の中に飛び込んでいく。
 当初こそ戸惑いの表情を示したフューリーだったが、入ってくるホワイトの勢いを悠然と受け流してロープを背負い、回り込み、長い左ジャブ、あるいは左でフェイントをかけながら右ストレート。ジャブボディも放って、ホワイトの前進力を止める布石も打っておく。3分間をサウスポーで通したホワイトは、その違和感こそ与えなかったものの、フューリーの心身にトラブルを起こさせるまでには至らなかった。

 すると続く2ラウンド、オーソドックスに変わったホワイトに対し、今度はフューリーがサウスポーになってみせた。およそ40秒ほどで元に戻したが、このあたりにも“エンターテイナーぶり”が表れる。
 両者、右構えになってからの戦いは、長いジャブ、速いワンツーストレート、ジャブボディ、右ボディフックと丁寧に上下を意識させるフューリーに対し、右フックをボディに送り、距離を詰めて左フックを決めたいホワイトという図式。落ち着いたテンポでリングを大きく使う王者、ガード、ブロック、ダッキングを使ってまともには食わない暫定王者の反応の良さも目についた。

いつもどおり、丁寧な左で試合をつくっていくフューリー
いつもどおり、丁寧な左で試合をつくっていくフューリー

 4ラウンドに入り、フューリーが若干テンポを上げた。それにもすぐに反応したホワイト。だが、両者の頭が軽くクラッシュしてホワイトの右目尻が切れると、ともにエキサイト。中断を経た再開後は、ホワイトが仕掛けを増やしていくが、フューリーはジャブ、右ストレートで止めにかかり、あるいは絶妙なクリンチワークで切っていった。

 巨体に目を奪われてしまいがちだが、フューリーのジャブで築くリズム、瞬間瞬間に差し込む右ストレートの速さ。カウンター狙いやリターンブローを涼し気にやりすごす小さなバックステップなど、細かい技術、総合力の高さは相変わらずだった。

「世界最高のトレーナー」と評すシュガーヒル・スチュワード・トレーナーと
「世界最高のトレーナー」と評すシュガーヒル・スチュワード・トレーナーと

 今夏にも実現が噂される3団体王者オレクサンダー・ウシク(ウクライナ)対アンソニー・ジョシュア(イギリス)の再戦。その勝者とフューリーとの激突は、世界中の誰もが期待するウルトラ・メガ・ファイトだが、10万弱の観衆、世界中のスポーツファンが耳を疑うコメントが、勝利後のフューリーから発せられた。
「デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)とのドラマチックな3戦を経験し、このウェンブリーのリングに立つこともできた。妻にも長年、尽くしてもらってきた。今日が最後の試合になるかもしれない」
 
 ウシクが置かれている不穏な情勢に、心を痛めていたと言われるフューリーは、家族との時間を大切にしたいと考えているのかもしれない。その想いはもちろん尊重したいが、スポーツに影響を及ぼしてはならない政治問題が、アスリートの活動を制限し、最高のカードを奪うのだとしたら、こんなに悲しいことはない。すでに練習を再開していると伝わるウシクだが、ジョシュアとの再戦のみに集中する状態ではないだろう。彼らがベストの状態をつくれる世界情勢を望みたい。

文_本間 暁(WOWOW視聴) 写真_Getty Images

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