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2021-10-10

【ボクシング】「オレがキングだ!」─決闘、完全決着! フューリーがふたたびワイルダー倒す

フューリーの強烈な右が決まると、ワイルダーは前のめりに崩れ落ちた

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 3度目の対戦もまた大激闘──。しかし、ふたたび勝ったのは“ジプシーキング”だった。9日(日本時間10日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスのTーモバイルアリーナに2万大観衆を集めて行われたWBC世界ヘビー級タイトルマッチ12回戦は、チャンピオンのタイソン・フューリー(33歳=イギリス)が、前王者で1位・デオンテイ・ワイルダー(35歳=アメリカ)を11回1分10秒KOで破り、昨年2月にワイルダーから奪った王座の初防衛に成功した。

文_本間 暁(WOWOW観戦)、写真_ゲッティイメージズ

 ワイルダー8度目の防衛戦として行われた2018年12月の初戦はフューリーが2度ダウンした末の12回ドロー。2戦目は逆にフューリーが2度ダウンを奪っての7回TKOで王座獲得。そしてこのラバーマッチは、ともに複数回(フューリー2度、ワイルダー3度)ダウンを喫するという前2戦を総まとめしたような形。しかし、内容的には王者フューリーが終始圧倒しての勝利だった。

 身長206cmのフューリーと201cmのワイルダーだが、前日計量では125.64kgのフューリーに対しワイルダーは107.95kg。ともに前戦からさらに増量(フューリーは約2kg、ワイルダーは3kg弱)して臨んだ今回だが、それでも17kgの差。しかし、これを埋めるに余りあるパンチングパワーを持つのがワイルダーだ。

 その前王者は、立ち上がりから左をストレート気味に使って、執拗にフューリーのボディを突いていく。さらには右ストレートも伸ばす。動ける巨人の体力を速い段階から削り、動きを止めるという意図があったのだろう。少々面食らった様子のフューリーだったが、折々に放つワンツーや、クリンチ際のボディブローが余裕を感じさせた。そして、強打をさらに強く打とうとするワイルダーの、力みからくる体の硬さも気になった。

 3ラウンドから、ドラマはクライマックスに突入していく。ステップを使ってリズムを取り始めたフューリーが、左フックから右を放ってワイルダーを下がらせると、クリンチにきたワイルダーに右ショートアッパー。ガクンとキャンバスに落ちたワイルダー。これが最初のダウン。立ち上がるもダメージを引きずるワイルダーを、さらに余裕を持って攻め始めたフューリーが、4ラウンドに攻め込んだところへワイルダー必殺の右ストレート。巨体をぐらんぐらんと揺らした王者にワイルダーがフォローを入れると今度はフューリーがダウン。立ち上がった王者の側頭部にワイルダーが右をねじ込むと、フューリーはふたたびキャンバスをなめた。

4ラウンド、フューリーが攻め込んだところへワイルダーの右が炸裂! 王者は立て続けに2度ダウンした
4ラウンド、フューリーが攻め込んだところへワイルダーの右が炸裂! 王者は立て続けに2度ダウンした

 互いにダメージを負いながら迎えた5ラウンド。ここが勝負の分かれ目だった。ジャブから立て直しを図るフューリーに対し、ワイルダーは相変わらずワンツーの強打を狙うのみ。リズムを取り戻した王者とは対照的に、前王者の大雑把なスタイルがさらに露呈していく。ダメージだけでなく、力みからのスタミナロス、さらには増量の影響も少なからずあったろう。自身の体をコントロールできない下半身の不安定さが見え始めた。

王者の技術を、一撃でひっくり返してしまう魔力を持つワイルダーの右
王者の技術を、一撃でひっくり返してしまう魔力を持つワイルダーの右

 6ラウンドには完全にステップも戻ったフューリーは、離れては長いジャブでワイルダーを刺し、くっついてはショートブローでボディを叩き、アッパーでアゴを跳ね上げていく。巨体に惑わされてしまいがちだが、やはり基本に忠実なボクシングと、小技の巧さでグングンとワイルダーを突き放していった。

 ダメージとスタミナ消費により、ワイルダーはジャブですら沈んでしまいそうな雰囲気を常に漂わせていた。しかし、フューリーが再三再四、ロープを背負わせて決めにかかるところ、ワイルダーは右のオーバーハンド、右アッパーなどを叩きつける。その一撃が、フューリーの巨体をストップし、ヒザを揺らさせる。ずっと意識朦朧状態の印象だったワイルダーだが、その瞬間だけを待ちわび、あるいは本能のみで狙う。決死のスタイルは、ボクシングというより、“決闘”の2文字を思い起こさせた。

 技術やボクシングの幅で大きく上回るフューリーは、着実にじりじりとワイルダーを追い込んでいった。しかし、慎重な王者も何度も一瞬を切り取られかける。9ラウンドにはワイルダーがお株を奪うような右ショートアッパーを決めて体を入れ換える上手さも見せた。しかし続く10ラウンド、ワイルダーの左フックを空振りさせたフューリーが、回り込んで右をかぶせて倒す。

フューリーも負けじと豪快な右。しかし彼は、地味だが丁寧な小技をたくさん持っている
フューリーも負けじと豪快な右。しかし彼は、地味だが丁寧な小技をたくさん持っている

 それまでの蓄積もある。精神的にも“決壊”の様相もあった。だが、ワイルダーはまたしても立ち上がる。もう、本能がそうさせているとしか思えない。

 だが11ラウンドに試合はついに決する。ワイルダーをロープに追い込んで攻めたフューリーが、左フックからの返しの右フックを叩き込むと、意識を失ったワイルダーは前のめりに沈み込んだ。ラッセル・モラ・レフェリーは、当然ノーカウントで試合を止めた。

 前戦で、連打に晒されていたワイルダーを、チーフトレーナーを務めたマーク・ブリーランド(元WBA世界ウェルター級チャンピオン)がストップの意思表示をして救った。が、「まだ戦える意識があった!」と不満を訴えたワイルダーはブリーランドを解任し、かつての対戦相手、マリク・スコットをトレーナーに据えた。そして「何があっても絶対に止めない」という条件で臨んでいた。そういう決意と覚悟があったからこそ、再三窮地に立たされながらも、右一撃でひっくり返す可能性を何度も感じさせ、レフェリーやインスペクターを踏みとどまらせた。体力的にもとうに限界を超えていたはずなのに、自身を立ち続けさせた。

 しかしやはり、技術と冷静さ、適度な心の余裕はボクシングに不可欠だ。フューリーにはずっとそれがあった。常軌を逸した心身のタフネスを披露したワイルダーに、飲み込まれることがついぞなかった。

勝者を包み込む関係者。フューリーは周囲への感謝の言葉を延々と述べた
勝者を包み込む関係者。フューリーは周囲への感謝の言葉を延々と述べた

「ワイルダーはタフでハードパンチの持ち主。彼をリスペクトする。だが、この歴史に残る彼との3戦で、オレが世界最強を証明した!」とリング上から吼えたフューリー。まさに王様にふさわしい、威厳あるパフォーマンスで完全決着をつけた。
 フューリーは32戦31勝(22KO)1分。ワイルダーは45戦42勝(41KO)2敗1分。

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