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2022-06-30

【ボクシング】「いま、本当に世界チャンピオンになりたい!」──田中恒成が無敗の橋詰将義を圧倒し5回TKO

ストップの瞬間。勝利した田中はこの後、コーナーポストに飛び乗って喜びを表した

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 29日、東京・後楽園ホールで行われたWBOアジアパシフィック・スーパーフライ級タイトルマッチ12回戦は、元世界3階級制覇で同級上位ランカー(WBO3位、IBF5位、WBC6位)の田中恒成(27歳=畑中)が、チャンピオンの橋詰将義(28歳=角海老宝石)を5回2分52秒、レフェリーストップによるTKOに下した。

文_本間 暁 写真_菊田義久

気迫のこもった先制攻撃を仕掛けた橋詰だったが……
気迫のこもった先制攻撃を仕掛けた橋詰だったが…

 ゴングが鳴るやいなや、宣戦布告のワンツーを放っていったのは橋詰だった。初回から攻撃力を強く打ち出して、一気にペースを握ってしまおうという意図だったのだろう。返しの右アッパーカット、さらには左ストレートと追撃。対峙する田中以上に、見守る観客が驚かされる積極的な姿勢だった。
 しかし、これまでの分厚いキャリアがものをいう。田中はこれで乱されることはなかった。一定の距離をキープして対応することを選択。「(橋詰が)長身のサウスポーなので、いきなり自分の距離をつかもうとするのでなく、相手の距離を把握しようと思った」(田中)と、落ち着いた心持ちだった。
 中間以上の距離を取り、橋詰の攻撃を両グローブで受け止め、かわされることを想定しつつ、敢えて右を振りながら入り込むタイミング、深さを測る。橋詰はバックステップでかわし、田中が得意のサイドへ回り込む動作をすれば、自らもターンしてサイドを取らせない。対策どおりの動きで先制に成功したかに見えた。

 しかし、2回に入ると様相は一変する。田中が右ストレートをボディに突き刺すと、橋詰の表情が曇る。さらに、ボディを打つと見せかけて右のオーバーハンドを送り込むと、橋詰の混乱は手に取るように伝わった。田中はスルリと内懐に入り込むことに成功。橋詰もショートの連打で跳ね返そうとするのだが、ウィービングやヘッドスリップで外される。中間距離でも田中はヘッドムーブを丹念に続け、攻撃をかわされる橋詰は、初回のような余裕を持った攻撃を仕掛けられず、動きも止めがちになった。

田中の迫力ある攻撃にさらされる橋詰。この日の田中のパワフルさは際立った
田中の迫力ある攻撃にさらされる橋詰。この日の田中のパワフルさは際立った

「慌てて攻めて、カウンターを合わされるのは嫌だった」という田中は、右ボディストレート、右オーバーハンドでプレッシャーとダメージを与えつつ、徐々に橋詰をロープへと追い込んでいく。左ボディブローからの連打は速く、かつ強い。ダメージに加え、心も落ち始め、ラウンドの残り時間を気にする素振りも見せ始めた橋詰を、田中はなおもじわじわと追い込んでいき、強弱、緩急もまじえつつ、全体的にはパワフルで厚みのある攻撃を連続していった。

 5回、田中がストレート連打を、ステップのタイミングを変えて放つと、橋詰の右目上がザックリと切れドクターチェック。再開後、一気に距離を詰めた田中は、橋詰にロープを背負わせて猛攻。レフェリーが試合を止めた。

「結果は納得のいくもの。でも、内容は……。地力だけでなく、ボクシングのスキルをもっと見せられるようにしたい」と語った田中。「攻撃力を前面に出した、以前のスタイルに戻す」と誓い、それを実際に披露したが、村田大輔トレーナーとともに、地道に地味に続けてきたディフェンス技術も当然生きた。迫力ある攻撃に目を奪われがちだが、防御動作の連動、融合があってこその攻撃力だと感じた。

スーパーフライ級で初めて手に入れたベルト。しかしもちろん、このベルトでは満足できない
スーパーフライ級で初めて手に入れたベルト。しかしもちろん、このベルトでは満足できない

「いまは本当に、世界チャンピオンになりたい。4階級制覇を目指したい」。これまでの3階級は、怒涛のごとく駆け抜けてきたが、WBO王者・井岡一翔(志成)、WBC王者ジェシー・ロドリゲス(アメリカ)をはじめ、強豪集うスーパーフライ級に割って入る覚悟と渇望は凄まじい。その想いが溢れ出す戦いぶりだった。
 田中の戦績は18戦17勝(10KO)1敗。王座の初防衛に失敗した橋詰の戦績は22戦19勝(11KO)1敗2分。
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