ＷＢＯ世界スーパーフライ級タイトルマッチ12回戦、チャンピオンの井岡一翔（33＝志成）対前チャンピオンで１位にランクされるドニー・ニエテス（40歳＝フィリピン）の12回戦は、13日、東京・大田区総合体育館で行われ、井岡が３－０のスコアで判定勝ちを収めた。これが５度目の防衛戦になる井岡は３年半前、マカオのリングで４階級制覇先着争いに惜敗した一戦から、見事に雪辱を果たした。４回のパワーショットで井岡はペースを確かなものに「マカオの借りを返したぞう！」
インタビュースペースで今の気分は？ と訊かれた井岡は、とびきり大きな声で叫んだ。それだけ、2018年の大みそか、ニエテスに敗れたことが悔しかったし、老獪な挑戦者が再びの対戦でも難しい対戦相手だったということなのだろう。
この戦い、形容するならやっぱりこういう結論になる。ボクシングという競技を表現する上で、すっかり使い古された「まるでチェスのような」そのままだ。巧みなジャブ、間髪置かないで打ち込む右ストレート、すっと角度を変えての左フック、さらに切り返しての右。これらをカウンターで、それとも相手の打ち終わりにリターンで、と巧みに放り込んでくる。20年のキャリアで培ったニエテスのボクシングは、まさしく老成しきったものだった。
井岡もまた緻密なボクシングでは引けを取らない。「前回に比べて、左右にポジションを変えてくるのでうまくパンチを打ち込めなかった」とニエテスが表現するように、井岡はさらに成長もしていた。すべての思惑を込めて押しては引いてでペースを管理しながら、ニエテスのはるか上を行くスピード、パワー、さらにプレスの強さで『出来栄え点』をアピールしていった。
精緻な技術戦は前半から中盤とひたすら続く。２回にニエテスが右ショートを立て続けに２発。さらに左アッパー。３回も左フック。いずれのパンチを芯を捉えたわけではないが、まさにうまいの一言に尽きた。井岡は分厚い圧力をかけ、ニエテスにそれ以上の攻めを許さない。とりわけ、４回には強い左ジャブ、さらに右ストレート。それから右ストレートから左フックをボディから顔面へと切り返し、これがすべてパワーショット。これで流れはしっかりと井岡へと傾き始める。
巧みなコンビネーションで、変わらぬうまさを見せたニエテスニエテスの流血から戦いは一方的に ニエテスも手強い。なにより19年間、負けていないのだ。井岡の優勢裡に進んでいた５回終盤にも右ストレートをヒットして、ライバルの警戒感を呼び起こす。よって６回、日本の誇る技巧の名花は、やや守備的に戦ってフィリピン人の出方を探りにかかる。最軽量のミニマム級からスパーフライ級まで４階級を制した者同士の戦いは、とことん綿密な組みたての上で動き続けた。
明白に井岡がペースを握るのは中盤からだ。パワーショットを何発も見せて、戦いの絵模様を井岡の色にスプレーしていく。さらに一方的な展開になるのは９回、ニエテスが左目をカットしてから。
「相手の右オーバーハンドを合わせて、同じパンチをカウンターしました。手ごたえがありました」（井岡）
その９回こそ、やや慌て気味ながらもニエテスの多彩な連打が見られたが、それ以降はワンサイドで井岡が支配していく。10回には左のボディショットで棒立ちにさせる。その後も、右クロス、左フックと巧打を重ね、流血のニエテスを追い立てていった。
採点は120対108、118対110、117対111といずれも大差をつけていた。
勝者は「年末には統一戦を戦います」と宣言した「３年７ヵ月前に負けた相手に勝ったのですから、成長しているということでしょう」と言う勝者は「年末には王座統一戦を実現します。楽しみしていてください」とどこまでも快活だった。
井岡は31戦29勝（15ＫＯ）２敗。前回、井岡に勝った後、３ヵ月後に王座を返上していたニエテスは51戦43勝（23ＫＯ）２敗６分。
文◎宮崎正博 写真◎菊田義久
