人生、何が起こるかわからない。自宅で過ごす時間が圧倒的に多くなった自粛期間中でさえも、思考する時間が増えて、生きていく上で大きな変化を遂げることもある。それが、外に出て、場所を移動することになればなおさらだ。そう考えると、われわれが生活していく毎日、毎瞬は、常に“選択”を迫られているともいえよう。発売中の『ボクシング・マガジン8月号』の怒涛の18人インタビュー。ラストを飾るのは、“大海”に乗り出した4人のボクサーだ。
上写真=左上から時計回りに、坂井、安達、藤田、湯場
写真_本間 暁
1ヵ月、2ヵ月、最長でも3ヵ月。そんなつもりでボクシング王国メキシコに修業の旅に出かけてみたら、あれよあれよという間に試合出場。名伯楽ナチョ・ベリスタイン氏に見初められ、試合を打診する電話に武者震いする毎日。その繰り返しに、気がつけばなんと10年──。「食事をするときも、携帯電話が鳴るとビクッとしてました(笑)」という坂井祥紀(さかい・しょうき)は、試合以外でも日々、戦いに明け暮れた。
そんな彼が、アメリカで試合出場したとき、かねてから親交のある小國以載(おぐに・ゆきのり=角海老宝石、元IBF世界スーパーバンタム級チャンピオン)と偶然再会した。それが帰国する端緒となった。小國の親友で元日本ミドル級チャンピオン胡朋宏(えびす・ともひろ)がトレーナーを務める横浜光ジムを紹介されたのだった。
29歳。メキシコ、アメリカで36戦を重ねた元WBCユース・スーパーライト級チャンピオンは8月31日、東京・新宿FACEのリングで日本デビュー戦を迎える。対戦するのは日本ウェルター級7位の重田裕紀(しげた・ひろのり=ワタナベ)。試合はメインイベントで行われる。
安達陸虎(あだち・りくと=22歳、大橋)と藤田裕崇(ふじた・やすたか=25歳、三迫)は移籍組だ。
安達は小学1年から、空手、キックボクシングと格闘技に慣れ親しんだ。滋賀県湖南市出身。そう、“ゴッドレフト”山中慎介さん(元WBC世界バンタム級チャンピオン)と同郷、いや小・中学校がまったく同じという“直系”の後輩なのだった。そんな縁もあって、ボクシング1本に絞った彼は、大阪のタフな街に住み、ジムの2階に住み込み、強くなることだけを夢見て、鍛錬の毎日を送った──。
本名は「陸仁(読みは一緒)」。リングネームの当て字の「虎」は、阪神タイガースファンの父の影響。幼少時から、父子は上下ユニフォームを着て、滋賀から甲子園まで何度も観戦に行っていたのだという。「そのユニフォームに、『陸虎』って刺繍が入っていて……(笑)」。
世界タイトルマッチを除く国内の試合の中から『ボクシング・マガジン選定・地区別年間表彰』という企画を毎年行っている。2019年の東日本地区年間最高試合を獲得したのは、スーパーライト級全日本新人王決定戦。本多航大(川崎新田)とダウン応酬の猛烈な試合を演じ、紙一重で敗れ去ったのが藤田だ。
ストップされた瞬間、レフェリーに食ってかかるような熱い男だが、名刺を渡すと、90度のお辞儀をしながら「頂戴いたします!」──。
そう、彼の日常は、リクルートの『SUUMO』の営業マン。リングの上の野獣と、物腰柔らかなビジネスマン。このギャップはクラーク・ケント以上かもしれない。
彼の移籍は、通常あるそれとは一線を画すもの。強いこだわりがあるのである。
日本王座5階級制覇という偉大な父(忠志)を持つ日本ユース・ライト級チャンピオン湯場海樹(ゆば・かいき=21歳、ワタナベ)は、色合いの異なる変化を迎えた。修業に行ったタイにいる間に、新型コロナウイルスの影響を受けて帰国不能に……。さぞや困っているだろうと思い、帰国後の意気込みを聞こうと思ったら、意外や意外の展開に。
電話取材中に、話を聞くテーマを変更。結果的に、こちらのほうがいっそう面白みを増した。「なかなか経験できないこと」をいままさに、体感し続けている海樹。そのリアルな姿をお届けする。
4人4様。日々刻刻と、彼らの人生は変化を遂げている。これから頂を目指していく彼らの現在を心に留めていただきたい。
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