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2020-04-22

ニュースター候補カタログ 海外編NEW STAR CATALOGUE OVERSEAS

時代は常に新たなスターを欲しがる。だから、思いつくたびに世界のボクシングをぐるり見わたしてみる、そうすれば、期待の若手はいくらでも見つかるのだ。コロナショックが明けて、いきなり『世界王者』の肩書を飛び抜けて、スーパースターに接近しそうな人材、キャリア序盤をなお走り続ける次世代のエース候補たちをピックアップしてみた。いくら有望なボクサーでも、ただの一度の敗北で別人のように勢いを失ったり、けがや私生活の問題でいきなりファンの視界から消えてしまうプロスペクトも少なくない。だから、当たるも八卦、当たらぬも八卦。ついでに断っておけば、世界中を駆け足で巡っての発掘の旅にて、取りこぼしも多数と心得てから眺めてほしい。

上の写真:テオフィモ・ ロペス

ロペスが最も頂点に近い位置

 現在、もっとも熱い視線を浴びているのは、たぶん、昨年12月にIBF世界ライト級チャンピオンになったばかりのテオフィモ・ロペス(アメリカ/22歳/15戦15勝12KO)に違いない。実務派のリチャード・コミー(ガーナ)を相打ち気味の右一発で倒した戦いは、それほどにセンセーショナルだった。

 ニューヨークの下町ブルックリンで、ホンジュラス出身の両親のもとに生まれ、少年ボクシングで名をはせた。2016年リオ五輪にはアメリカ代表決定トーナメントに勝ちながら、すでに別枠で代表の座を確定していたため、ホンジュラス代表として出場した。リオでは初戦で銀メダリストのソフィアン・ウーミヤ(フランス)に敗れたものの、19歳の輝く才能にアメリカのプロモーション最大手トップランクが目をつけた。

 同年11月にプロデビュー。初戦では意外にもダウン応酬となるもKO勝ち。さらに昨年夏、IBF挑戦者決定戦では、中谷正義(井岡)の奮戦にやっとの判定勝ちと苦しい経験もあったが、そのほかはおおむね順調な世界王者への道のりだった。

 ちょっと私生活ははしゃぎすぎといううわさもあるが、スポーツスターは昔から少しくらいバッドボーイのほうが、ファンの受けがいいもの。“ワル”の一線を越えなければ、この素質、これからもどんどん光りを増してくるはず。

 同じライト級の頂上に君臨するスーパーテクニシャン、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)との対戦話も5月実現元とささやかれていたもの。ロペスのプロ経験はまだ15戦。いささか急ぎ足にも見えるが、もし、この対戦話が実現し、この超難関を突破すれば、いきなりトップスターになってしまうかもしれない。ここ最近の戦いぶりを見れば、ロマチェンコの力量も『絶対』と言えないだけに、あるいは、の予感も走るのだ。

バージル・オルティス・ジュニア

厚い壁に挑むオルティスとエニス

 超人たちがピークに集まるウェルター級で、ニューウェーブとして脚光を浴びるのが、バージル・オルティス・ジュニア(21歳/15戦15勝15KO)とジャロン・エニス(22歳/25戦25勝23KO)のふたりのアメリカ人だ。

 オルティスは15戦オールKO勝ちの戦績が示すとおりの爆発力が売り。タイミングさえ合えば、ブロッキングしている腕の上をたたいたパンチでも当たり前のように倒してしまう。一方のエニスはセンス抜群。トリッキーなボクサーパンチャーとしても、あるいは闘魂むき出しの殴り合いでも、圧倒的な強みを見せている。ゴールデンボーイ・プロモーションズに所属するオルティスは、すでに上位進出のラインに乗っている。一方、若手有望株を起用して人気のShowtime『SHOBOX』で中堅強豪を次々に打ち取り、15連続KOをマークしているエニスは、いまだビッグプロモーションと接触していない。21歳と22歳。慌てる必要はないのかもしれない。

 切れ目なくスターが出現するイギリスのトップガンは、ヘビー級のダニエル・デュボア(ヘビー級/22歳/14戦14勝13KO)をおいてほかにない。身長196㎝、体重110㎏弱の立派な体ながら、動きもパンチもスムーズでスピーディー。順を追って対戦相手の質を上げながら、不敗街道を無難に走り続ける。これまでのつまづきといったら、2018年暮れ、デュボアのために用意されたESPN+デビュー戦をインフルエンザで流したことくらい。プロモーターのフランク・ウォーレンは興行そのものは規模を落として挙行をしたものの、盛大な記者会見は中止にしたほどの落胆ぶりだった。

 デュボアは、リオ五輪銀メダリストで10戦全勝9KOのジョー・ジョイス(イギリス)との対戦が4月に決定していた。試合は順延になったが、同じプロモーションに所属しているだけに、コロナ明けの後、すぐに対戦話は再燃しよう。4月の対決のチケットは2満席がすでにソールドアウトだった。イギリスで再び大きな話題を呼ぶに違いない・

シャクール・スティーブンソン

スティーブンソンにはプロのたくましさが必要か

 スター候補と言うより、いずれてっぺんにどんと居座って当然。シャクール・スティーブンソン(アメリカ/フェザー級/22歳/13戦13勝7KO)はそんな宿命を背負ってプロ入りした。アメリカ最後の金メダル候補として出場したリオ五輪では、決勝で五輪連覇を狙うロベイシー・ラミレス(キューバ/ 25歳/ 1勝1KO1敗)に惜敗してしまった。

 悔し涙で銀メダルを手にしたスティーブンソンは、不敗のままプロのチャンピオンになると誓う。2019年10月、ジョエト・ゴンサレス(アメリカ)に判定勝ちしてWBO世界フェザー級タイトルを手に入れた試合が、あまりに慎重すぎたのも、そのせいだったかもしれない。激しいブーイングに見舞われながら、スティーブンソンは満面の笑みだった。

 ライト級のスピードスター、ライアン・ガルシア(アメリカ/ライト級/21歳/19戦19勝16KO)は、その無邪気な笑顔が女性ファンの胸を射止め、人気先行の典型だった。最近、メキシコの新名伯楽エディ・レイノソの指導を受けるようになって、ぐっとスケール感を増してきた。一時は契約がもつれかけたゴールデンボーイ・プロモーションズともよりを戻し、今年は大きなステップアップが望めそう。

 20歳でWBC世界スーパーミドル級チャンピオンになりながら、違法薬物摂取で1年のライセンス停止と、きついお灸をすえられたデビッド・ベナビデス(アメリカ/スーパーミドル級/23歳/22戦22勝19KO)は再起2戦目で王座を取り戻した。どこまでもパワフルなアタックは本格化の兆しあり。

 リオ五輪ベスト8からプロ入りしたフランス・ヌーベルバーグの旗手クリスチャン・ムビリ(フランス/スーパーミドル級/24歳/16戦16勝15KO)は、よどみなく降り注ぐ連打が持ち味。パワフルでも決定的なパンチとなるとやや心もとなく、決着が終盤にもつれ込むケースも多いが、安定感は確かにある。同じくリオでスーパーヘビー級金メダルに輝いたトニー・ヨカ(フランス/ 27歳/7戦7勝6KO)より現状では一歩リードというところか。

 技巧派が好みという向きにはクリス・コルバート(アメリカ/スーパーフェザー級/23歳/14戦14勝5KO)がおすすめ。PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオン)期待のWBA世界スーパーフェザー級暫定チャンピオンはシャープな身のこなしに、サウスポーでもオーソドックでも同じようにスキルフルに戦えるのが強みだ。

ヤニベク・アリムハヌリィ(右)

中央アジア出身の有望株が続出

 プロスペクトはまだまだいる。もっともこのあたりになると、不確実な可能性も入り混じった選択もある。たとえばトップのライトヘビー級ジョシュア・ブアツィ(イギリス/26歳/12戦12勝10KO)はあまりに正統派の戦い方で、そのわりにはスピード感にやや劣る。やはりイギリスのリオ五輪代表のクルーザー級、ローレンス・オコリー(27歳/ 14戦14勝11KO)のほうが大きく飛躍する可能性もある。ただ、ブアツィのパンチには抜群の切れがあり、これがたまらない。

 イフゲニー・ティシチェンコ(ロシア/クルーザー級/28歳/6戦6勝4KO)はロングレンジでは断然たる強みを発揮するが、展開がもつれるとひ弱さが見える。ムエタイのスーパースターから国際式に転じてきチャイノイ・ウォラワットことタッターナ・ルアンポン(タイ/バンタム級/22歳/10戦9勝8KO1分)は駆け引きはうまいが、攻撃はまだ一本調子のきらいも。彼らの課題が経験を積むことで、長所のなかに溶け込んでいくことを期待したい。

 中央アジア勢の強さが目を引く。メイリム・ヌルスルタノフ(ウズベキスタン/スーパーミドル級/23歳/4戦4勝3KO)はバランスの良い攻防一致に大きな伸びしろがある。ただ、ミドル級のカザフスタンと言えば、2013年の世界選手権優勝ヤニベク・アリムハヌリィ(26歳/8戦8勝4KO)の歯切れの良さを買う向きもあるかもしれない。

ベクテミル・メリクジエフ

 リオ五輪ミドル級銀メダリストのベクテミル・メリクジエフ(ウズベキスタン/スーパーミドル級/23歳/4戦4勝3KO)とスーパーライト級のバディルザン・ジュケムバエフ(カザフスタン/28歳/18戦18勝14KO)はともに好戦的で、守りから一転して強打戦に転じるポイントの探り方にはすでに老練の読みを感じることもが。アマチュア実績で上回るメリクジエフは23歳と若く、まだ未開の部分も多い。

 カナダをベースに戦うアルトゥール・ジャディノフ(ロシア/23歳/12戦12勝9KO)はスタイリッシュな好戦派。攻撃力に今ひとつの信頼感が出てくれば、大きく伸びそうな気配だ。

エフェ・アジャグバ

 ヘビー級らしいパワーを炸裂させるエフェ・アジャグバ(ナイジェリア/25歳/12戦12勝10KO)とフィリップ・フルゴビッチ(クロアチア/27歳/10戦10勝8KO)は荒々しさを存分に残したまま戦っている。それがまた迫力も醸成している。とりわけ、アジャグバの破壊力は驚異的だ。

 軽量級は実は日本の天下。一級のホープはわれらが独占している。そんななかで注目したいのはアグスティン・マウロ・ガウト(アルゼンチン/ライトフライ級/22歳/14戦14勝9KO)だ。伝統的に守りに強いアルゼンチンの選手らしく、堅いブロッキングと上体の動きで対戦者のパンチをかわしながら、激しいプレスをかける。左フック、右ストレートのタイミングの良さが光る。

ザンデル・ザヤス(Photo:Mickey Williams/Top Rank)

巨人ビアネロらに再来年の期待

 期待の星には当然続きがある。『プロスペクト2021』『2022年』。まだまだ不確定だらけの新人たちばかり。将来性を占うキイのはあくまでも『勘』になる。選んだ彼らのは、それだけからはそれだけのひらめきも感じる。

 ヘビー級のギド・ビアネロ(イタリア/ 25歳/6戦6勝6KO)はトップランクの隠し玉。198㎝と大柄だが、動きもよく、パワフルだ。アマチュアでは一級の力を持っていながら、プロも人材はさっぱりのイタリアに新風を吹かせるか。もうひとり、その動向に注目したいのはバホミール・ジャロロフ(ウズベキスタン/ 25歳/6戦6勝6KO)。身長201 ㎝のサウスポーは、2018年にニューヨークをベースにするディベラ・エンターテイメントと契約したが、2019年になってアマチュアに復帰した。そして世界選手権で優勝、東京五輪アジア代表選考会でも1位通過したしている。五輪後にプロに帰ってくると。ディベラ・エンターテイメントは明言している。

 今後、そのハードパンチで人気を集めそうなのがウェルター級のブランダン・リー(アメリカ/20歳/19戦19勝17KO)。ややテンポは遅いが、当たれば右も左も素晴らしい。全米ジュニア・チャンピオンで、コーチは韓国出身の父親がつとめる。

 同じくウェルター級ではオマル・フアレス(アメリカ/ 20歳/7戦7勝4KO)の攻撃力にも目をやりたい。アフリカ系アメリカ人ホープの宝庫PBCでは数少ないメキシコ系だ。切れ味が出てくればもっとKOも増える。

 アジアからはスーパーフライ級のKJ・カタラジャ(フィリピン/ 24歳/ 11戦11勝9KO)。セブ島にベースを置くALAプロモーション期待の新鋭だ。すらりとした体躯から打ち込むビッグパンチ、スキを縫って打ち込むアッパーカットが見事。今春には井上尚弥のスパーリングパートナーとして来日し、素材の良さを見せた。

 最近、若い段階でもプロに転戦してくるキューバ勢では、プロ初戦の黒から巻き返しをはかるロベイシー・ラミレスとともに、ライトヘビー級のデビッド・モーレル(22歳/2戦2勝2KO)がおもしろい。まだ力みが見えるが、身のこなしの柔らかさ、運動能力はけた外れだ。今度のコロナ騒動で中止になったが、3戦目にしてWBA暫定王座決定戦に出場することが決まっていた。

 おそるべき17歳をふたり。ともにウェルター級だ。ザンデル・ザヤス(プエルトリコ/3戦3勝2KO)、そしてヴィト・ミールニッキ・ジュニア(アメリカ/4戦4勝3KO)。早くも熱心なファンから大騒ぎされているザヤスは、スケール感抜群のボクシングを見せる。体はまだ成長段階で、勝負をかけるのはミドル級あたりになるかもしれない。ミールニッキのタイミング抜群のパンチも目を離せない。

文◎宮崎正博 写真◎ゲッティ イメージズ

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