日本ライト級タイトルマッチが2月13日、東京・後楽園ホールで行われ、チャンピオンの吉野修一郎(三迫)がダウンを挽回、1位挑戦者、富岡樹(REBOOT IBA)に8回1分55秒TKO勝ちで5度目の防衛に成功した。
上写真=8回、一気にスパートした吉野は「相手の心を折って」富岡を攻め崩した
一瞬の空白が生じたのか。初回、長身の若き技巧派とのジャブの刺し合いにも打ち勝ち、このままペースを持っていこうとしたところだった。富岡がインサイドからねじ込んだ右ストレート。吉野の両足がそろう。体がもつれたところに、さらに富岡の左フックが2発。吉野はヒザからキャンバスに落下した。
このとき、吉野は丸裸になる寸前だった。この日、戦ったのは日本タイトルのみでも、ライト級リミット内での試合だから、同時に保持する東洋太平洋、WBOアジアパシフィックの王座にもルール上は当然、リスクがかかる。吉野本人は「そんなに効いていなかった」と試合後に語ったが、はたからの目からはは違う。もし、富岡に追撃され、ばたついてしまったらストップされかねない状況にも見えた。そうしたら、3つのチャンピオンを失った上に、世界ランキングも危機に瀕する。
しかし、吉野はたくみにこの苦難を切り抜ける。プロ経験は12戦目(全勝10KO)でも、アマチュアでは高校、大学とトップ戦線で戦い、124戦(104勝)ものキャリアがある。富岡がピッチを上げて戦った2回、最後はインパクトのある右のオーバーハンドでラウンドを締めくくり、自ら勢いをつけた。
3回からは完全に主導権を握った。やや距離を置きにかかったチャレンジャーに、フェイトンを加えた2段モーションの左フック、豪快なライトで襲いかかる。ジャブの打ち合いでも負けていない。富岡の足色はたちどころに損なわれていった。
「さまざまな展開を想定して、いくつもの(作戦)パターンを用意しています。ダウンを奪われた時点でプランBを始動しました」
5回終了後に発表された途中採点は3者3様のドロー。ペースを上げて追いついたのは、吉野の計算どおりだった。ただし、6回、7回はペースを落とし、足を使ってジャブ、ワンツーと軽打してくる富岡にポイントを与えてしまう。それも、すでに戦力の大部分をそぎ落としたという自信があったから、吉野はそうできたのか。だとしたら、かなりの余裕である。
そして8回、吉野は大胆にスパートをかける。一気に富岡を追い詰めていった。左フックが再三にわたってヒットする。富岡は弱気な表情でバックペダルを踏むばかり。吉野はこれを追いかけまわす。そして左ショートがヒット。「ジャブかストレート」と富岡が言ったパンチは、報道席からは左フックに見えたが、この22歳チャレンジャーが大きく顔をしかめる。吉野の追撃に心細くロープに体をもたれた富岡を見て、レフェリーの中村勝彦が試合をストップした。
「あせりはありませんでした。一発で終わらず、二発目、三発目を当てていこうというセコンドの指示どおりに戦えました」
プロでは初めて喫したダウン。あるいは3つのタイトルすべての陥落危機から這い上がったことは、吉野の今後にきっとプラスになる。
「なにごとも経験。これまで順風満帆すぎたから、この経験は大きいと思います」
三迫貴志会長の言葉に間違いはない。吉野が目指すライト級の世界は、全階級とおしてナンバーワンの実力者と言われるワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)はもとより、ジャーボンテ・デービス、テオフィモ・ロペス、デビン・ヘイニー(いずれもアメリカ)と将来のスーパーチャンピオン候補がずらり。さらにライアン・ガルシア(アメリカ)という飛び切りのスター候補もいれば、ホルヘ・リナレス(ベネズエラ/帝拳)も健在だ。よほどの覚悟でないと、ピークまでは上り詰められない。
敗れた富岡は、当然ながら落ち込んでいた。
「最後の左で目を痛めました。効いたんではなく、痛くて倒れたのが悔しいです」
陣営は打ち合わせ過ぎたというが、富岡が持つスピード、瞬間的な手際の良さをもっと光らせるためには、これまでのアウトボクシング一本やりでは心もとない。打ち合って負けたことを前向きにとらえ、スケール感を造成したい。可能性は十分に感じさせる戦いだった。
文◎宮崎正博 写真◎小河原友信
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