強打のスーパーバンタム級、久我勇作が世界への飛翔をかけた夢は、わずか84秒で砕けた。WBOアジアパシフィック同級王座決定戦、ジュンリエル・ラモナルの右一撃に打ち倒された。
上写真=ラモナルの右一撃で崩れ落ちる久我
30日の大田区総合体育館、トリプル世界戦を前にして、日本スーパーバンタム級チャンピオンの久我勇作(ワタナベ)は世界進出の野望とともに、ひそかな思いを抱いてリングに上った。
「リベンジというわけではないんですが……」
世界戦実績を持つ和氣慎吾(FLARE 山上)とのライバル決戦にTKO負けを喫したのが2018年の夏。以降、苦しい戦いもあったが、何とか這い上がって戦初の国際タイトルマッチに臨んだ。その相手となったジュンリエル・ラモナル(フィリピン)は10月に和氣をセンセーショナルな失神TKOで破っている。間接的には確かに和氣への復讐戦にもなる。だからこそ、飛び切りいい形で勝ちたい。
「初回は様子を見ていくつもりでした」
だが、左ボディフックがいい角度でヒットする。ラモナルの呻きが聞こえたのかどうかはわからない。だが、無意識のうちに気が逸ったのだろう。これで好敵手を超えることができる、と。強引に連打を仕掛ける。
久我にとっての悲劇はその直後に訪れた。ラモナルの強烈な右が襲いかかってきた。狙っていたパンチだった。ディノ・オリベッティ・トレーナーが久我の試合ビデオを繰り返し見て、左パンチの打ち終わりにガードが下がるのに気づいた。その瞬間に右を打ち込もうと、ラモナルとともに鍛えに鍛えた一発だった。
そんなパンチが抜群のタイミングで飛び込んだ。また、当たった場所が悪い。耳の下である。めったにパンチが当たらない箇所だが、ひとたび、ここにパンチを食らうと、とんでもなく効くのだ。
久我の体は顔面から先導して真下に崩れ落ちる。立ち上がったが、足元は定まらず、福地勇治レフェリーは、しっかりとその動きを確認した後、カウントをテンまで数え上げた。
「何も覚えていなくって……」
控室に帰ってきた久我は茫然としていた。29歳のボクサーが遭遇したあまりに厳しい現実。だが、敗北へのシチュエーションを考えるなら、まだやり直せる可能性はある。いや、久我自身の気持ちが許すなら、ぜひとももう一度、トライしてほしい。
文◎宮崎正博 写真◎菊田義久
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