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2022-10-16

【ボクシング】2万大観衆が熱狂。女王対決を制したのはシールズ&ボームガードナー

シールズの右がクリーンヒット

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 15日(日本時間16日)、イギリス・ロンドンの大会場O2アリーナで行われた女子世界4団体統一ミドル級タイトルマッチ10回戦で、WBA・WBC・IBFチャンピオンのクラレッサ・シールズ(27歳=アメリカ)が、WBO王座を持つサバンナ・マーシャル(31歳=イギリス)を96対94、97対93、97対93の3-0判定で破り、全メジャータイトル統一に成功した。セミファイナルの女子世界スーパーフェザー級の3団体統一戦10回戦では、WBCチャンピオンのアリシア・ボームガードナー(28歳=アメリカ)がIBF・WBOチャンピオンのミケーラ・メイヤー(32歳=アメリカ)を96対94、96対94、93対97の2―1判定で下し、3団体のタイトルホルダーとなった。

文_宮田有理子
Text by Yuriko Miyata
Photos by Top Rank

GWOATの証明

 女王エリザベス2世の崩御により1ヵ月あまりの延期を経て開催された、オール女子興行。2組の女子トップファイターたちの激しい舌戦が衆目を引いたが、10年におよぶ長いライバルティに決着をつけたシールズが感涙にむせびながら言ったように、女子ボクシングの発展に献身してきた人々にとって、感慨深い夜だったにちがいない。

「私たち女子ボクサーが、このロンドンのO2アリーナで、2万人の前で戦うなんて」

 このメガイベントを実現へと大きく押したのは、今年4月にニューヨークの殿堂マディソンスクエア・ガーデンのメインアリーナで行われた、世界ライト級4団体統一チャンピオン、ケイティ・テイラー(アイルランド)と世界7階級制覇者アマンダ・セラノ(プエルトリコ)という待望の好カードが、満員の観衆を魅了し、同日行われた他興行を凌ぐ大成功を収めたことだ。長く実現が待たれたシールズとマーシャルの因縁対決は、好戦派メイヤーと強打者ボームガードナーという魅力的な競演者を得て前進してきた。

 GWOAT(グレーテスト・ウーマン・オブ・オール・タイム)、史上最強女子ボクサー、と自称するシールズにとって、マーシャルは避けて通れない存在だった。ミドル級で2012年ロンドン、2016年リオのオリンピック2連覇を果たし、プロ入り後は4戦目でWBC、IBF(空位)のスーパーミドル級王座を獲得。ミドル級でもWBA、IBF、WBCとコレクションを増やし、2019年4月にクリスティナ・ハマー(ドイツ)を破って世界4団体統一と、何本ものベルトをコレクトしてきた女王が唯一、敗れたのがこのイギリス人だった。2012年の女子世界選手権でのことだ。アマチュア試合の判定に多少の議論はつきものでも、記録上の黒星は消えない。シールズが返上したWBOミドル級王座をマーシャルが獲得した3年前の春ごろからいっそう、シールズは声高にSNS上でもマーシャルをコールアウトし、ついに待ち焦がれた日はやってきた。

マーシャルの打ち下ろすブローをシールズはクリーンヒットさせなかった
マーシャルの打ち下ろすブローをシールズはクリーンヒットさせなかった

 女子ボクサーとして比類なきスピードとアスレティシズムをみせるシールズに対し、マーシャルに見た目の速さはなく、シールズとはだいぶテンポが違う。しかし、182cmから打ち下ろすストレートを武器に、KOを量産してきた。目下無敵のライバルに対しても、「ストップしてみせる」と豪語していたもの。

 そんなマーシャルが、地元の声援を背に開始から打ちに出て、試合はスリリングなクロスレンジで展開する。シールズの左右速射、マーシャルのディフェンスワーク。2回はマーシャルが右打ち下ろしでシールズを大きくのけぞらせ、パワーのほどを見せるが、シールズのコンビネーションはどんどん回転を増し、中盤にはシールズの圧勝ムードになる。それでもギアを上げないのが、おそらく低いKO率の所以。終盤、マーシャルが右ストレート、左フックに力を込めて反撃を試み続けたが、シールズの勝利は明白だった。かつて保持したタイトルを取り戻し、2度目の4冠統一を果たしたシールズは13戦13勝(2KO)。

4団体統一のシールズを、マーシャルも素直に褒めたたえた
4団体統一のシールズを、マーシャルも素直に褒めたたえた

「1ラウンドずつしっかり獲ろうと思った。大きなパンチを当てていたのは自分だと思うし、インサイドでのコンビネーションでも自分が優っていたと思う」とシールズは満足げに語った。「彼女は本当にGWOATを名乗っていいと思う」と負けを認めたマーシャルは、13戦12勝(10KO)1敗。


パワーファイトで接戦制したボームガードナー

ボームガードナー(左)とメイヤーの左が激しく交錯

ボームガードナー(左)とメイヤーの左が激しく交錯

ボームガードナーの迫力ある右アッパー

ボームガードナーの迫力ある右アッパー

 メインの2人を上回る火花を散らしてきたのが、スーパーフェザー級のアメリカ同胞対決だった。
 リオ五輪ライト級代表からトップランク・プロモーションに唯一の女子選手として迎えられ、無敗を守ってきたメイヤーは、精力的な攻めが魅力。14戦目で空位のWBOタイトルを手に入れ、階級最強証明を目指してきた。V2戦となる昨年11月、強打のIBFチャンピオン、マイバ・アマドゥシュ(フランス)との激闘を制して大いに評価を上げており、今回の3冠戦でも有利のオッズは当然だった。しかし、女子パウンドフォーパウンドのトップ10に入る2冠女王を、WBCチャンピオンは「圧倒する。アゴを砕いてみせる」など挑発し続けてきた。前日計量の檀上ではフェイスオフで擦り寄り、ついに足蹴りが出るほどメイヤーを怒らせて、不敵に笑っていたものだ。自信があったのだろう。
 昨年11月、敵地イギリスで人気のテリ・ハーパーからWBC王座を強奪した。右フックで、ハーパーを立ったまま失神させる4回KOは、長く語り継がれる名シーンに違いない。男女問わず、倒せるパンチはボクサー最大の魅力である。

メイヤーの右がヒット
メイヤーの右がヒット

 派手な“場外戦”を経て迎えた本番。チャンピオン同士のペース争いは緊迫した。長いジャブでさぐりを入れるメイヤーを、筋骨隆々のボームガードナーは強いストレートで突き放す。カウンター狙いで手数は少ないものの、メイヤーの攻めを戸惑わせる効果はあった。5回、展開を変えたいメイヤーが右クロスを連発すると、続く6回はボームガードナーがアッパーで迎撃し、ペースを譲らない。メイヤーは7回に右目付近をカット。血を流しながらも運動量は落ちなかったが、疲れがみえるボームガードナーはそれをさばき切った。

接戦を制し大喜びのボームガードナー
接戦を制し大喜びのボームガードナー

 96対94、96対94、93対97とジャッジの見方は割れた。接戦だったのは間違いないが、メイヤーの奮戦よりボームガードナーのクリーンでパワフルなヒットが評価されたかたちだ。WBC王座2度目の防衛に成功するとともにIBF、WBOのベルトを集めたボームガードナーは、14戦13勝(7KO)1敗。「再戦はない。私は予定どおり4団体統一に向かうわ」と語り、WBAタイトルを持つ崔賢美(チェ・ヒュンミ、31歳=韓国)の名を挙げた。敗戦に納得できない様子のメイヤーは18戦17勝(5KO)1敗。

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