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2022-09-02

【ボクシング】女子アトム級2団体で新チャンピオン誕生!

2017年12月に失って以来の世界王座獲得となった黒木(左)と、念願のIBF王座獲得の岩川

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 1日、東京・後楽園ホールで行われたWBO女子世界アトム級タイトルマッチ10回戦は、元WBC女子ミニマム級王者の黒木優子(31歳=YuKOフィットネス)が王者・鈴木菜々江(30歳=シュウ)を98対92、98対92、97対93の3-0判定で下し、2階級制覇を達成。IBF同級タイトルマッチ10回戦は、元WBO同級王者・岩川美花(39歳=姫路木下)が王者・宮尾綾香(39歳=ワタナベ)に3-0判定(96対94、96対94、96対94)で勝利し、2本目の世界ベルトを巻いた。

文_本間 暁(黒木対鈴木)、杉園昌之(岩川対宮尾)
写真_山口裕朗

前の手(右)で鈴木の前進を止める黒木
前の手(右)で鈴木の前進を止める黒木

 突進力と無類のスタミナ、そして打ち合いの強さ。チャンピオン鈴木の持ち味を十分に把握した上で、黒木陣営が選択したのは「とにかく打たせないこと」だった。
 徹底的にサイドへ回る。しかも、サウスポーにとってはいわゆる定石とは逆の左へ。相手の外を取って、奥の手から遠ざかることよりも、中を取って、自らの左をより打ちこめる場所へ。右へ回ることを想定していただろう鈴木の意表を突く作戦でもあり、右を振らせてこれを右サイドへかわし、左をカウンターで合わせる。鈴木はストレートではなく、スイング気味の右を放つから必ず顔面が空く。そこへ左ストレート、アッパーカットを合わせる。鈴木がリターンを打とうとすれば、さらに左へ、ときに“さらに”意表を突いて右へ回り込む。これを繰り返して、早々に主導権を握り、鈴木を置き去りにし続けた。

鈴木の右を、左サイドへ動いてかわす黒木
鈴木の右を、左サイドへ動いてかわす黒木

 対して鈴木は右ストレートをボディに送って距離を縮める作戦に出る。そこから左右フック。4回、両者の距離が詰まったところで黒木の左ショートがカウンターとなると、鈴木のヒザが若干揺れた。
「あの瞬間だけ“イケる”と思った」という黒木だが、「その“イケる”という考えをとにかく捨てる」のが今回のテーマ。打たれれば、負けん気の強さを発揮して打ち合いに臨み、失敗してきた過去を清算する想いが優った。今回の試合に向けて、福岡のジムを離れ、神戸の真正ジムでトレーニングを積み、山下正人会長と「打たせないボクシング」を磨いた。それがまさにピタリとハマった。

黒木はタイミングのいい左を当てまくった
黒木はタイミングのいい左を当てまくった

 さながらマタドール(闘牛士)の如く、黒木は鈴木を捌き続け、最終回だけ「倒しにいった」から打ち合いを演じた。気持ちを前面に出して迫る鈴木は、執拗なボディ連打から上へ返すが、逆転には至らず。黒木の完全な勝利となった。
「打ったらバランスとガードを戻す。今まではできなかったことを山下会長に徹底的に指導された」と黒木。「うちのジムにも若い選手がたくさん出てきたけれど」とジム頭らしいアピールをしつつ、でも、まだまだ負けないと言いたげな笑顔を浮かべた。ここまでのキャリアを積みながら、新たなスタイルを手に入れた喜びが溢れていた。
 黒木の戦績は29戦20勝(9KO)7敗2分。初防衛ならなかった鈴木の戦績は17戦11勝(1KO)5敗1分。

独特の距離感とタイミングから放つ岩川の右
独特の距離感とタイミングから放つ岩川の右

 3-0の判定を聞いた瞬間、キャンバスにうつ伏せに倒れ込んで喜んだ。「まず自分によう頑張ったなって」

 今年2月、後楽園ホールでWBO女子世界アトム級王座から陥落。あれから約半年が経ち、岩川は再起戦で世界挑戦のチャンスをつかんだ。失意に暮れた同じ舞台だったが、覚悟を決めていた。相手は百戦錬磨の宮尾。かつて世界王座を5度防衛しており、一筋縄では攻略できない曲者である。ただ、岩川は自信を持っていた。「自分のボクシングをすれば、大丈夫だって」

宮尾のオーバーハンドもヒットした
宮尾のオーバーハンドもヒットした

 立ち上がりこそ間合いをつかめず、思うようにパンチが当たらなかったものの、2回からはリズムをつかんだ。左のリードを当てつつ、ロングレンジからボディを叩いた。「意外に当たるなと思いました」

 前半から身長差と長いリーチを存分に生かした。距離を取って、危険を回避。宮尾が強引に懐に飛び込んでくれば、クリンチで対応した。相手にダメージを与えるようなクリーンヒットはなかったかもしれないが、自分の思いどおりに試合を進めた。

スイッチボクサーの岩川は、この日、サウスポーになることは稀だった
スイッチボクサーの岩川は、この日、サウスポーになることは稀だった

「ポイントは取れていると思っていました」

 ラウンドを重ねるごとに疲労を重ねていたのは、前に出てくる宮尾のほうだった。岩川は息遣いが荒くなる相手を見ながら、最後まで心に余裕を持ってボクシングをしていた。
 それでも、IBFのベルトを手にすると、思わず青いグローブで何度も涙を拭った。世界王者への返り咲きは格別だった。

 今後について、報道陣から「WBOとの統一戦も視野に入れているか」と問われると、複雑な表情を浮かべていた。IBFには特別な思い入れがあるのだ。1980年代後半から1990年代前半に活躍し、IBF世界バンタム級王座を16度防衛したオーランド・カニザレス(アメリカ)に憧れ、ボクシングもマネてきたという。
「ベルトを持って、カニザレスに会いに行くまでは……」と冗談交じりに笑った。まずはIBFのベルトを守ることに専念するという。「試合がすごく楽しかった」と目を輝かせる39歳のボクシング熱は、まだまだ冷めることはない。
 岩川の戦績は18戦11勝(3KO)6敗1分。初防衛に失敗した宮尾の戦績は28戦21勝(6KO)6敗1分。

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