アメリカンフットボールの世界最高峰、米NFLは、現地10月27日(日本時間10月28日)に、第8週のサーズデーナイトゲーム(TNF)として、タンパベイ・バッカニアーズがボルティモア・レイブンズをフロリダ州タンパに迎え、レイブンズが27-22でバッカニアーズを振り切って5勝目を挙げた。バッカニアーズは3勝5敗となった。
敗戦の翌日、バッカニアーズのQBトム・ブレイディは、もっと大きなニュースを発することになった。現地28日金曜日の早朝に、世界的なスーパーモデルだったジゼル・ブンチェンさんと離婚したことを、それぞれのSNSで公式に発表した。
NFL Week8 TNFボルティモア・レイブンズ○27-22●タンパベイ・バッカニアーズ(2022年10月27日、タンパ レイモンドジェームズスタジアム) ブレイディの45年余りの人生の中で、これほどの激動が詰め込まれた5日間はなかっただろう。
10月23日、パンサーズにTD無しの完敗。10月27日、レイブンズに敗れた。多くのミスがあっただけでなく、NFL史上最多となる通算555回目のサックも浴びた。そして、翌日の離婚発表だった。
アメリカンスポーツの頂点に立つGOAT(グレート・オブ・オール・タイム=史上最高)プレーヤーと、世界のファッション界の頂点に立っていたスーパーモデルは「友好的に」この決断に至ったという。
木曜日のゲームを振り返りたい。
バッカニアーズは、序盤は良かった。ファーストドライブで、RBレナード・フォーネットの先制タッチダウン(TD)。続くオフェンスではフィールドゴール(FG)で、計10点を奪った。
しかし、そこから6ドライブ連続でパントとなってしまった。バッカニアーズオフェンスにその前兆はあった。
フォーネットのTDの前に、ブレイディは、カバーをブレークしてエンドゾーン奥でフリーになっていたWRマイク・エバンスに、オーバースロー。また、細かいことだが、プレーアクションパスを投げる際に、RBが通るサイドがデザインと違ったと見受けられるプレーもあった。
2Q5分には、WRエバンスが左サイドラインをタテに駆け上がったプレーで、パスが短かった。
エバンスは、マンツーマンのCBマーロン・ハンフリーを完全にブレークしていた。リードボールが来ればTDだったが、パスが短く、エバンスが減速したためにハンフリーに追いつかれたのだった
3Qには、レシーバーの手前4ヤードにパスを投げ込んでしまったプレーもあった
4Qに、それでも「さすがはブレイディ」というパスを見せた。エバンスに51ヤードのロングを決め、一気にレッドゾーンに攻め込んだ。レイブンズが17-10と、とワンポゼッションのリード。ここでTDを奪えば、試合はまったくわからなくなる。
しかし、1stダウンでTEカイル・ルドルフへのTDパスを決められず。2ndダウンでエバンスへのゴールライン上のパスも、レイブンズに叩かれた。3rdダウン。あろうことかスクランブルに出てすぐにスライディング。ブレイディとは思えないクオーターバッキングだった。
結局バッカニアーズのこのドライブは、フィールドゴール(FG)に終わった。
直後のオフェンスシリーズ、レイブンズは5分31秒かけて、9プレー83ヤードを進んでTDを奪い、24-13と突き放した。
この後、ブレイディがTDパスを決めていたプレーで、オフェンスがホールディングを取られてTDが無くなるなど、バッカニアーズは最後までちぐはぐだった。
まだ証明することがあるはずだ 筆者は、ブレイディを2001年から20年以上見てきた。2002年2月に、ラムズ相手に下馬評をひっくり返して勝ったスーパーボウルも現地で取材した。
ペイトン・マニングや、ベン・ロスリスバーガー、フィリップ・リバースらに、何度も煮え湯を飲ませるのも見てきた。
その中で感じることは、ブレイディはフィールド上のビハインドは、基本的にすべて乗り越えることができるということだ。
今のバッカニアーズオフェンスの中で、レシーバーとのタイミング、OLのプロテクション、プレーコールとの相性は、確かに大きな問題ではある。しかしそれが理由で無様なシーズンのまま終わったことは一度もない。
45歳という年齢。限界は近づいている。ただ、今季も急激に能力が落ちているわけではない。元々、身体能力に頼ったパスは無かった。プレーリード、コントロール、何よりもクイックリリースとタイミングで、この世界の頂点に立ってきた。
ロブ・グロンコスキーがいないことは辛い。だが、本当は、かってのウェス・ウェルカー、ジュリアン・エデルマンのような、「痒い所に手が届く」レシーバーがいないことがもっと大きい。
ただ、もろもろの事情を勘案しても、ブレイディのここまでのパフォーマンスに一番大きなマイナスとなっていたのは、離婚問題だったのではないだろうか。
200ポンド(90キロ)を切っているのではないかという痩せ方、アスリートとは思えない尻の肉の落ち方、フットボール以外の何かが影響しているように感じられてならない。
フットボール選手は「起きてしまったことはどうしようもない。次のプレーに集中する」と、よく言う。
スーパーボウルで勝ったフィールドに、ジゼル夫人や子供たちを招き入れ、喜びを分かち合ってきたブレイディにとって、今回「起きてしまった」ことはあまりにも大きいのかもしれない。
だが今は次のプレーに集中するしかない。
「あなたは、これ以上何を証明する必要があるの?」
ブレイデイの7回目のスーパーボウルでの勝利の後、サイドラインでブンチェンさんが夫に対して言った言葉だ。ブレイディ自身が、勝利の直後にそれを認めている。
今春に引退を撤回して戻ったことが、離婚の引き金となったのは、明らかだ。
だが、あえて言う。今のままで終わったら、ブレイディではない。
「まだフィールドで証明することが残っているはずだ」と。
幸か不幸か、今季のNFCサウスは『どんぐりの背比べ状態』。現地30日のパンサーズ(2勝5敗)対ファルコンズ(3勝4敗)の勝者が地区首位という状態だ。バッカニアーズとの差はほとんどない。
バッカニアーズの反転攻勢を期待したい。