ひざは健康寿命延伸の要の関節。ところが、中高年になると、ひざ関節の軟骨がすり減り、「ひざが痛い」「水がたまる」「痛くて長く歩けない」「ひざか変形した」などといった症状に悩む方が増えてきます。本連載では、ひざの専門医・田代俊之ドクターが、ひざ関節の構造と機能、変形性ひざ関節症の症状と治療について、やさしく解説していきます。今回のテーマは「軟骨」について。ひざの骨を守っている軟骨の構造と成分について、より詳しく紹介します。
軟骨の形をつくっているのはコラーゲン
ひざの骨の先端を覆う軟骨は、強靭なコラーゲン繊維(Ⅱ型コラーゲン)が網目状の骨組みを作っています。建物でいえばビルの構造を支える鉄筋のような存在で、軟骨の形を保つとともに、骨が受ける荷重ストレスを吸収しています。
このコラーゲンの鉄筋にはヒアルロン酸(後述)が絡みついています。さらにヒアルロン酸にはプロテオグリカン(後述)が結合しています。プロテオグリカンは、コンドロイチン硫酸という枝を出しています(後述)。
軟骨は保水性が高く、軟骨の65~80%は水分です(連載第5回参照)。また、軟骨の中には軟骨細胞も点在しています。軟骨細胞は、軟骨の成分であるコラーゲンやヒアルロン酸、プロテオグリカン分子をつくる工場です。日々の食事からとったタンパク質を原料に、軟骨成分をつくります。
ただし、軟骨は血管や神経が通っていない無血管組織です。軟骨の成分をつくるために必要な栄養や酸素は、関節液(※)から吸収しています。
関節軟骨の細胞外基質の主成分は次の通り
【Ⅱ型コラーゲン】コラーゲンは皮膚や腱・軟骨などを構成する繊維状のタンパク質です。Ⅱ型コラーゲンは主に関節軟骨や目の硝子体に存在するコラーゲンです。
【ヒアルロン酸】体内では関節、皮膚、目の硝子体に含まれています。関節では軟骨と関節液に含まれ、その粘性は衝撃に対するクッションとして働き、また関節の動きをスムーズにする潤滑剤としての役割も果たします。
【プロテオグリカン】軟骨や皮膚に存在している高い保水力とともに、クッション性、潤滑性を持つ成分です。これにより関節は摩擦や衝撃から守られています。
【コンドロイチン硫酸】糖から作られるムコ多糖の1種です。軟骨ではタンパク質と結合し、プロテオグリカンを形成します。高い保水力を持つ成分です。
※軟骨の成分をつくるために欠かせない関節液については、今後の連載のなかで紹介します。

イラスト/石川正順
プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さん
JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長
1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。
この記事は、ベースボール・マガジン社の『図解・即解!基礎からわかる健康シリーズ 変形性ひざ関節症』(田代俊之著、A5判、本体1,500円+税)からの転載です(一部加筆あり)。 Copyrightⓒ2022 BASEBALL MAGAZINE SHA. Co., Ltd. All rights reserved.