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2019-09-28

【海外ボクシング】ウィークエンドプレビュー スペンスの勝利はほんとうに絶対か?

9月最終週最大の注目は、28日にアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス、IBF・WBC世界ウェルター級タイトル統一戦として行われるエロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)とショーン・ポーター(アメリカ)の対決だ。実力的にはパウンドフォーパウンドの最強候補、テレンス・クロフォード(アメリカ=WBO同級チャンピオン)をしのいでいるとも評価されるスペンスが優位であるのは動かないが、元気のいいポーターの出来次第では番狂わせも十分にありえる。

写真上=エロール・スペンス・ジュニア

9月28日/ステープルスセンター(アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス)

★IBF・WBC世界ウェルター級王座統一戦12回戦
エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)対ショーン・ポーター(アメリカ)

スペンス:IBFチャンピオン/29歳/25戦25勝(21KO)
ポーター:WBCチャンピオン/31歳/33戦30勝(17KO)2敗1分
※WOWOWメンバーズオンデマンドで日本時間午前11時ころより生中継

 勝ったほうが『戦い続けるレジェンド』マニー・パッキャオ(フィリピン)との対戦に進む公算が強い。クロフォード以外のウェルター級有力選手を独占するPBC(プレミアボクシング・チャンピオンズ)が仕掛ける実質的な最強トーナメント。逆の山ではパッキャオがキース・サーマン(アメリカ)に勝っているから、こちらも準決勝戦と考えてよかろう。そういう背景はあろうがなかろうが、このカード、かなりおもしろい。

 もちろん、予想はスペンスへと大きく傾く。この身長177センチのサウスポーはスタイリッシュな上に、きわめて好戦的ときている。ときには被弾を恐れぬ気風のいいファイトでファンを沸かせることもある。

 一時は無敵のチャンピオンだったケル・ブルック(イギリス)を敵地でストップしてタイトルをアメリカに持ち帰ると、歴戦の強者レイモント・ピーターソン(アメリカ)を一方的に打ちのめして棄権に追い込む。さらに不敗のメキシカン、カルロス・オカンポをボディブローで痛烈KO。極上のオールラウンダー、マイキー・ガルシア(アメリカ)とはさすがに慎重に戦ったが、これまたつけ入るスキを与えないまま大差の判定勝ちを収めた。

ショーン・ポーター

 一方のポーターには試合ごとに波がある。猛然と打ち合いを挑むファイタータイプとして戦いながら、やや決め手が不足していて、きわどい勝負も多い。ブルックやサーマンとの打撃戦を落とした(判定負け)のもそのせいか。とはいえ、エイドリアン・ブローナー(アメリカ)相手にダウンに屈せず、カウンターの名手ダニー・ガルシア(アメリカ)戦では、アウトボクシングができることも証明して見せた(いずれも判定勝ち)。気になるの3月の試合。手堅くペースメイクするヨルデニス・ウガス(キューバ)を切り崩せなかったこと。やはり、安定感、スケール感では、ポーターには一抹の不安がある。

 距離が長く、拳には左右とも爆発力を秘めるスペンスと対するなら、ポーターとしてはがつがつと攻め抜くのが第一。序盤にうまく自分の流れに巻き込んで、ポーターには初めて勝機は生まれる。

 そんな可能性は30%以下とみていい。スペンスがキレッキレのパンチで圧倒していくはず。そして、頑張り屋のナイスガイをストップまで追い込めたとしたら、大したものだ。

◆期待のベナビデスが返り咲きを目指す

★WBC世界スーパーミドル級タイトルマッチ12回戦
アンソニー・ディレル(アメリカ)対デビッド・ベナビデス(アメリカ)

ディレル:チャンピオン/34歳/35戦33勝(24KO)1敗1分
ベナビデス:挑戦者/22歳/21戦21勝(18KO)

アンソニー・ディレル(左)とデビッド・ベナビデス

 パワフルではあっても、攻防に抑揚がない。はた目からはそんなふうに見えていたベナビデスだが、しっかりと成長を重ねていた。それも1年半前までの話。薬物検査でコカイン使用が発覚。手にしていたWBC世界チャンピオンのベルトは取り上げられ、1年以上のブランクも強いられた。カムバック戦では、あごに弱点を持つジェイレオン・ラブ(アメリカ)を豪快に倒したが、信頼を取り戻すのはこれからだ。そのとたんの世界タイトル挑戦というのは、ベナビデスがどこまで期待されているかの証にある。だからこそ、勝利が義務づけられた戦いである。

 ベナビデスが留守の間に、決定戦で自身2度目の世界タイトルを手に入れたディレルは、苦しいリング生活が続いている。兄アンドレ(元IBFチャンピオン)に比べれば、センスでは劣るものの、ノックアウトパワーは上と評された若手時代。しかし、思わぬ回り道を余儀なくされる。悪性リンパ腫に罹ってしまったのだ。2年もリング遠ざかった。

 それでも意欲を失わず、2014年に世界タイトルに到達する。ただ、勢いはもうひとつ。やがてガンビア人の父とスウェーデン人の母を持つクールなテクニシャン、バドゥ・ジャックに敗れて無冠になった。その後はとびとびの間隔で試合をこなしていたが、この2月、アブディ・イルディリム(トルコ)に辛勝して王座に返り咲き、これが初防衛戦になる。

 自慢のパワーが影をひそめたディレルだけに、馬力にまかせて攻めてくるベナビデスは厳しい相手になる。うまく距離をとって、ポイントをスティールできる展開に持ち込めればいいが、そういう戦いの形はなかなか見えてこない。

◆不敗のバリオスに試練の世界初アタック

★WBA世界スーパーライト級王座決定戦12回戦
マリオ・バリオス(アメリカ)対バティル・アフメドフ(ロシア)

バリオス:24歳/24戦24勝(16KO)
アフメドフ:28歳/7戦7勝(6KO)

 バリオスは身長が178センチもあるのにスーパーバンタム級でデビューし、スーパーフェザー級で初めて世界ランク入りした。そしては今はウェルター級となり、8連続KOをマークするまでに成長した。キャリア前半はややもったりした印象もあったが、体も出来上がったか、今年5月には世界挑戦経験を持つファン・ホセ・ベラスコ(アルゼンチン)を2回で仕留めている。今回、ウェイトを1階級落として、満を持しての世界初挑戦となる。だが、これがなかなかの試練の戦いだ。

 アフメドフはウズベキスタン生まれ。2016年のリオ五輪にはバタハン・ゴジェックの名前でトルコ代表として参加し、ベスト8まで進出している。きわめてパワフルなサウスポーだ。プロではわずか7戦しか戦っていないが、リッキー・シスムンド(日本名・原田門戸=フィリピン)を2度も倒して判定勝ち、ベネズエラの強打者イスマエル・バロッソには左のボディブローで鮮やかなKO勝ちを記録している。コンビネーションが乏しく、全体のスピード感がいまひとつなのが難だが、動きのいいボクシングはかなりハイレベルだ。

 勝敗のカギはバリオスがアフメドフの動きに惑わされることなく、しっかり自分のペースで戦えるかどうかにかかっている。

◆PPV放送の前座はオールスターキャスト

 現地ではFOXが有料のPPV(ペイパービュー)で放送する。プロモーションも張り切って、アンダーカードから注目選手のオンパレードとなっている。

 とくにウェルター級周辺の選手はベテラン、新人とぞろぞろととりそろえている。2組の10回戦の主役はベテラン、ホセシト・ロペス(アメリカ/35歳/36勝8敗1NC)対ジョン・モリナ・ジュニア(アメリカ/36歳/30勝24KO8敗)はまさに生き残りをかけた戦い。3階級制覇のロバート・ゲレロ(アメリカ/36歳/35勝20KO6敗1分2NC)も登場する。

 リオ五輪銅メダリストのミサエル・ロドリゲス(メキシコ/25歳/9戦9勝4KO)、同じくリオ五輪メキシコ代表のリンドルフォ・デルガド(24歳/10戦10勝10KO)、ス-パーウェルター級の元アマチュアスター、レオン・ローソン3世(アメリカ/20歳/11戦11勝4KO)も次世代を担うボクサーだ。

ジョーイ・スペンサー

 19歳の人気者、ジョーイ・スペンサー(アメリカ/8戦8勝6KO)は前回の試合で終盤戦のスタミナ、集中力に課題を露呈した。そのせいか、今回はやり直しの4回戦の予定になっている。

まだまだあるぞ!
注目カード

◆リオ五輪金、ヨカがプロ7戦目

トニー・ヨカ

 28日、フランスのナントでは、リオ五輪スーパーヘビー級金メダリストのトニー・ヨカ(フランス/27歳/6戦6勝5KO)が10回戦。7月には自分と同じ身長201センチのベテラン、アレクサンデル・ディミトレンコ(ドイツ)を3回でストップ。今回は197センチのの元WBOヨーロッパ・チャンピオン、ミハエル・ヴァリシュ(ドイツ/33歳/20勝13KO2敗)が相手になる。まだまだじっくりとプロの経験を積み立てたいところだけに、ここはしっかりと試し斬りしたい。

 同じカードのウェルター級10回戦では、リオ五輪銅メダリストのスレイマン・シソコ(フランス/28歳/10戦10勝7KO)が、ドミトリー・ミハイレンコ(ロシア/33歳/23勝10KO4敗)と。6月にアメリカ・デビューも果たしたシソコは、デビュー以来21連勝をマークしたこともある技巧派をきれいに倒して、もう一段、ギアをアップしたい。

 イギリスのロイヤル・アルバートホールで音楽の話が出たついでも話。ナントは日本でもゴールデンウィークに東京・有楽町を中心に開催される音楽祭『ラ・フォル・ジュルネ』の発祥の地。クラシック音楽とボクシングは、まずは縁遠い世界なのだが。

 試合はCanal+で放映される。

◆ホルヘ・バリオスは43歳にして現役

ホルヘ・バリオス

 元WBO世界スーパーフェザー級チャンピオン、ホルヘ・バリオス(アルゼンチン/43歳/52勝36KO4敗1分1NC)はとっくに引退していると思ったが、実は昨年末に8年ぶりにカムバック。28日、アルゼンチン・コルドバ県ビジャ・カルロス・パスで再起後3戦目のリングに立つ。ウェイトはスーパーライト級で、対戦相手はディエゴ・アルベルト・チャベス(アルゼンチン/32歳/15勝5KO15敗4分)。1引き分けをはさむ8連敗から抜け出したばかりで、おそらくバリオスの敵ではあるまい。

 バリオスといえば、ラフなファイトを得意としたタフガイだった。猛烈なダウンの応酬の末に敗れたアセリノ・フレイタス(ブラジル)戦など、数々の死闘は忘れられない。なぜ今、現役復帰なのか。真意を一度聞いてみたいものだ。

文◎宮崎正博
写真◎ゲッティイメージズ

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